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<JR奥羽線>地元の「世界一」大太鼓かたどる駅舎 糠沢駅

毎日新聞 4/18(火) 10:25配信

 見渡す限りの田園地帯に、ゆったりと流れる米代川。そんな北秋田市綴子(つづれこ)地区に、ひときわ目立つ駅舎がある。大太鼓をかたどったJR奥羽線・糠沢(ぬかざわ)駅だ。大太鼓は直径3.9メートル、幅3.7メートルで、その隣には長さ約4メートルもの黒っぽい2本の“バチ”もそびえ立つ。なんともユニークな外見だ。

 この「大太鼓駅舎」にはモデルがある。地区にある綴子神社で毎年7月に行われる例大祭。700年以上続く。上町、下町の二つの集落が毎年交互にそれぞれが所有する大太鼓を奉納するが、その大太鼓がモチーフなのだ。大太鼓に若衆たちが上がり、バチで打ち鳴らす勇壮な姿は迫力満点だ。

 1989年には、下町の大太鼓(直径3.71メートル)が「牛の一枚皮を使った世界一の和太鼓」としてギネスブックに認定された。同じ年、それらの大太鼓を保存・展示する「大太鼓の館」が地区内にオープン。また米国へ遠征して演奏するなど、知名度アップに努めてきた。だが、そうした地元の思いがすぐに「大太鼓駅舎の誕生」につながったわけではなかった。

 JR東日本秋田支社管内で先に改築構想があったのは糠沢駅ではなく、同じ北秋田市内の二つ西隣にある前山駅だった。

 同支社で駅舎デザインを担当する部署に所属していた荻原厚さん(44)は当初、改築話が出ていた前山駅に大太鼓をデザインするつもりだった。だが社内で「大太鼓の本場は綴子地区なので、大太鼓の形にするなら糠沢駅だ」という意見が広がり、ほどなくして糠沢駅の改築と「大太鼓化」の計画が決まった。

 本物に少しでも近づけようと、サイズはギネスに登録された下町の大太鼓とほぼ同じにした。胴まわりには幾重にもロープを張り巡らせた。内装のベンチには地元名産の秋田杉を使用し、木のぬくもりを施した。

 2009年7月に完成。セレモニーには大太鼓の保存会関係者ら約200人が集まり、大太鼓の演奏で盛り上がった。荻原さんは「地元の人々に『本物みたいだ』と言ってもらえて、うれしかった」と振り返る。

 さらに駅舎は10年度の「鉄道建築協会賞」(一般社団法人・鉄道建築協会主催)で、「地域との共生コンパクト化賞」を受賞した。

 地元でライバル関係にある上町と下町。セレモニーで演奏したのは、その年の例大祭で大太鼓を奉納する当番の下町だった。

 下町の自治会長、鈴木祐悦さん(63)は「地元の誇りや思いが伝わり、駅舎の形となった」と振り返る。一方、上町の自治会長、石川仁司さん(65)は「セレモニーで演奏したかったと、今でも正直悔しくなる」と語る。

 強い地元愛に支えられた糠沢駅。駅舎に近づくだけで、大太鼓の勇壮な音色が聞こえてくるようだ。【山本康介】

 ◇糠沢駅

 1956年開業。71年から無人駅に。現在は1日に普通列車上下14本が停車する。駅舎は鉄骨平屋建てで、面積は9.8平方メートル。旧駅舎には使われなくなった貨車が再利用されていた。大太鼓が保存・展示されている「大太鼓の館」の問い合わせは電話0186・63・0111。

最終更新:4/18(火) 10:25

毎日新聞