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【翻弄された諫早干拓】長崎地裁が開門差し止め命令 営農者に安堵の声

産経新聞 4/18(火) 7:55配信

 ■「メディアから悪者扱い」

 国営諫早湾干拓事業をめぐり17日、長崎地裁(松葉佐隆之裁判長)が「農地に塩害などが生じ、営農者の生活基盤に重大な被害が出る」として、開門の差し止めを命じた。政治や司法、そしてメディアに翻弄されてきた地元・長崎県諫早市からは、判決に安堵の声が上がった。(九州総局 中村雅和)

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 「メディアは干拓地の農家を、漁師をいじめる『悪者』にしたいのだろう。ある時、取材にきた記者から執拗(しつよう)に『(干拓)農地のせいで、不漁になっている』といわれた。しかし、われわれもこの土地で生活をしている。漁師と一緒だ」

 干拓地で農業を営む男性は、こう憤った。男性の自宅には、見知らぬ人物から脅迫めいた電話もかかってきたという。

 干拓事業によって、約670ヘクタールの農地が生まれた。現在、40の法人・個人がジャガイモやレタス、ニンジンなどを栽培する。

 だが、平成22年に農家を不安のどん底に陥れる“政治判断”があった。

 堤防閉め切りによって漁業被害が発生したと、有明海沿岸の漁業者らが開門を求めて提訴した。福岡高裁(古賀寛裁判長=当時)は22年12月、5年間の常時開門を命じる判決を下した。これに、当時の菅直人首相が「私なりの知見がある」と上告をせず、判決を確定させてしまった。

 開門すれば海水が農地に流れ込み、塩害発生の恐れがある。農地は使えなくなる。干拓地の農家を中心に地元住民は23年、開門差し止めを求めて長崎地裁に提訴した。仮処分を経てこの日、ようやく開門差し止めの判決が出た。

 一方、貝類をはじめ不漁の原因については、干拓事業だけでなく諸説ある。27年には、ノリ養殖で使う酸処理剤が不漁の原因として、漁業者が処理剤使用を認めた通達の違法確認を求めて熊本地裁に提訴した。

 この混乱を多くのメディアは、「漁師対農家」や「漁師対行政」と単純化して報じた。漁業不振がよりクローズアップされた。

 ◆防災対策

 諫早干拓事業は、防災の側面も持つ。

 諫早市自治会連合会の古賀文朗会長は「干拓地ができるまで、床下浸水なんてニュースにならないほど。雨が降れば、すぐに水浸しになった」と話した。

 市を流れる本明川は日本一短い一級河川だ。雨水は一気に河口に達し、満潮と重なれば市街地をのみ込んだ。昭和32年の「諫早大水害」は700人を超える死者・行方不明者を出した。

 干拓事業では堤防と干拓地の間に「調整池」を作った。大雨の際には貯水槽となる。

 古賀氏は「今、開門すれば、生命に直結する問題になりかねない。菅氏は国を代表していたかもしれないが、何様のつもりだと今でも思う」と語気を強めた。

 長崎地裁で判決が出た17日は早朝から、激しい雷雨が続いた。中心部を流れる本明川の支流は増水し、濁流は河川敷に迫った。干拓前なら、避難指示や勧告が出ていたかもしれない。

 長崎地裁の判決は、こうした地元の危惧をくんだといえる。

 開門差し止めを求めた原告側弁護団長の山下俊夫弁護士は「福岡高裁の判決より後は、司法の場では開門を認めないという判断が、定着している。今回の判決は、この流れを決定づける」と語った。

最終更新:4/18(火) 7:55

産経新聞