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「働き方改革」考 「モーレツ社員」は政府に否定されなければならない存在なのか 家電革命起こした“島耕作”が物申す

産経新聞 4/19(水) 13:30配信

 「『モーレツ社員』という考え方自体が否定される日本にしていく」。残業時間に罰則付きの規制などを盛り込んだ政府の「働き方改革実行計画」は、力強くこううたい上げた。しかし、かつての「モーレツ社員」は危惧している。「一生懸命働くことが否定され、自分が社会に貢献しているという手応えを失ってしまわないだろうか」と。家電販売に革命を起こした“リアル島耕作”が、政府の働き方改革に加え、東芝など没落する電機メーカーを一喝した。(社会部 天野健作)

 ■藍色のロゴ「it’s」

 昭和35年に三洋電機に入社し、35年間勤めた熱田親憙(ちかよし)さん(80)=大阪府寝屋川市=は、家電業界の中では知る人ぞ知る伝説の人物だ。

 三洋は59年、一人暮らしを始める大学生や社会人を対象に、小型で低価格な家電シリーズを売り出した。後に藍(あい)色のロゴが有名になった「it’s(イッツ)」だ。熱田さんはそのプロジェクトを主導し、デザイン家電の先駆者となった。

 「新しいことをやるときは楽しかった。ロマンだね。業界にムーブメントが起きて、押せ押せムード。売れに売れた」

 熱田さんはこう振り返る。ダイエーの「価格破壊」が下火になりつつあり、「安ければ売れる」が通用しなくなった時代。そこで熱田さんは価格や性能ではなく、「コンセプト」を前面に出し、「生活文化」を提案することで売ることを考えた。

 入社当時は宣伝部に所属し、マーケット調査に携わった。旧弊に縛られず、新しい道を開拓した熱田さんの働き方は、漫画「島耕作」に通ずる。島耕作も大手電器メーカーに勤め、宣伝広告業を中心に、自らの信念に基づいて行動したサラリーマンだ。

 ■「モーレツ社員」の生き方

 イッツは英語で「優れもの」を表現するが、同時に「僕たちが欲しかった物はそれだ」の意味を込めた。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、掃除機など一人暮らしを始めるのに必要な電化製品を全て藍色に染めて、シリーズとして売り出した。「藍」は日本文化の象徴でもある。

 「『白いご飯を炊くのに、青色の釜で炊けるか』となじられ、理解されるのに3年はかかった。どうしたら説得できるか、そのときは血みどろに24時間考え続けた」

 毎週、毎週の会議。夜の8時や9時から会議が始まることはざらだった。会議が終わってから同僚で飲みに行く。飲み会は会議の延長だった。

 若者の声を聞くため、毎週金曜日、大阪から東京・六本木の盛り場に通った。40代半ば、若者ばかりのライブコンサートにも行った。「耳をそばだてながら、彼らがどういう生活をしているかリサーチしていた」という。

 特に三洋は後発メーカーで、メーカー順位は4番目。「人が一やるところを二やれ」と言われていた。家庭を顧みず、「奥さんはあきらめていた」が、当時の企業戦士が猛烈に働くのは当たり前で、その分もうけた。給与が毎年2割ぐらいずつ増えたという。

 ■「経営者は現場へ行け」

 翻って今の時代、働いても働いても給料が大幅に上がったり、暮らしがよくなったりする実感はない。いつの間にか、三洋電機はパナソニックに買収され、栄華を誇った東芝さえも、1兆円近くの赤字を抱え、会社の存続すら危うくなった。

 「大企業病にかかって、現場の情報を肌で感じていないのでは。だから判断が狂う。東芝の場合でも、悪いのは社員ではなく、一部の経営者だけ。三洋電機もそうだった。判断する人間がさぼって、あぐらをかいていたのでは。現場には、言葉で表せない見えない情報がある。六感を総動員して感じなくてはいけない」

 熱田さんは今の電機業界をそう分析する。分業化や事業部制が進化して、ラインの長が所管部署の責任を果たすことにきゅうきゅうとして、会社全体に対する責任感が希薄になっているとも指摘した。

 政府の働き方改革についてはこう苦言を呈した。

 「残業規制は二の次。仕事をやらされるのではなく、自ら仕事をつくってモチベーションが上がれば、それで忙しくてもストレスにならない。モーレツ社員を否定しないでほしい。上司は基本、部下や社員を信頼することだ」

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 ■モーレツ社員 美女のスカートが風でめくれてパンチラする石油会社のCMから流行語となった「モーレツ」。1970年代、自分の身も家族も顧みない会社員は「モーレツ社員」と言われた。朝礼で社歌を歌い、終電まで仕事しただけでなく、会社で寝泊まりする社員もいた。今では、会社に家畜のようにこき使われるという意味で「社畜」とも揶揄(やゆ)される。

最終更新:4/19(水) 13:30

産経新聞