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「昭和の銀幕スター」松方弘樹さん 仁義なき死と豪快な遺言

夕刊フジ 4/20(木) 16:56配信

★ドクター和のニッポン臨終図巻・松方弘樹

 高倉健さん、菅原文太さん…。昭和の銀幕スターが立て続けに鬼籍に入り、邦画ファンの私としては寂しいかぎり。松方弘樹さんが亡くなった時は特に切なさを覚えました。

 松方さんが頭痛や体のしびれを訴えて病院に行ったのは、昨年2月。開頭し生体検査を行った結果、脳の悪性リンパ腫と診断され、そのまま入院となりました。

 悪性リンパ腫とはリンパ系組織のがんのこと。首や脇にできることが多く、脳にできるのはまれで、罹患するのは10万人に1人といわれています。そもそも脳にはリンパ組織はなく、発生原因はハッキリと解明されていません。

 脳の悪性リンパ腫の自覚症状は、発生した場所によってさまざまですが、頭痛、吐き気、手足の麻痺や言語障害、視覚障害などがあります。ボーッとしたり、物忘れが多くなったりするなどの症状も出るため、高齢者の場合、認知症と誤診されることもあるようです。

 脳の悪性リンパ腫の場合は基本、(生検以外の)外科手術は行いません。リンパは全身をめぐっているため、目に見える部分だけ取り除いても、根本的な治療にはならないのです。化学療法と抗がん剤治療が主体となります。

 松方さんの治療も難しかったようで、入院3カ月後には意識がハッキリしなくなり、秋頃、抗がん剤投与をしている途中で脳梗塞を起こしてしまいました。これにより悪性リンパ腫の治療は一時中断。その後、治療は断続的に続いたようですが、徐々に衰弱。最後には体重40キロ台になったと報道されていました。

 それから1年足らずの今年1月21日、帰らぬ人となりました。74歳でした。印象的だったのは、親友・梅宮辰夫さんの男泣き会見です。最後の面会は死の1カ月ほど前で、「意識がなく宙をボーッと見ている。オイッて言っても反応しなかった」と涙ながらに語りました。

 「遺品も花もない。たった1時間で、骨だけがバラバラになって出てきた。人間ってこんなに簡単なのかとつくづく思った」

 看取りの医者でもある私は、この言葉に驚きました。俳優として男として、人生経験豊富なはずの梅宮さんをもってしても、死の無常さを前に子供のように泣き崩れている…。

 そうなんです。人は死ぬまで、いろいろとややこしいですが、死の前後というのは本当にあっけないもの。死ほど、仁義なきものはこの世に存在しません。

 松方さんは生前、後輩の俳優にこんな言葉を残していました。

 「もっともっと人生しろ、人生しなきゃ良い役者にはなれない」

 人生しろ-。マグロ釣り同様、なんと豪快な言葉でしょうか。松方さんのこの言葉を胸に、私も精いっぱい医者人生を精進いたします。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

最終更新:4/20(木) 16:59

夕刊フジ