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有機単層結晶薄膜の電荷分離の様子を明らかに、太陽電池の高効率化に応用へ

4/20(木) 13:25配信

スマートジャパン

■光電変換過程における電荷分離の様子を明らかに

 有機太陽電池や有機ELデバイスなど有機薄膜による光電変換デバイスは、深刻なエネルギー問題の観点から、変換効率の向上が求められている。光電変換効率の向上には、有機薄膜内の励起子や電荷の空間的な広がりが重要なことが理論的に示されているが、従来の作製手法は室温で薄膜の均一性と結晶性を高めることに限界があるという。

【作製したアントラセン単層結晶薄膜】

 また光エネルギーを電流に変える光電変換の家庭を実験的に明らかにするためには、光吸収によって生成する励起子の形成から電荷生成までの過程を、フェムト秒からピコ秒といった時間分解能をもつ分光計測で明らかにすることが不可欠となる。

 慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)の渋田昌弘氏、中嶋敦氏らの研究グループは、有機分子が自己組織化する現象を利用して、金属基板上に分子を規則的に配列させた有機薄膜を作製。この有機薄膜における光励起子過程をフェムト秒時間分解した光電氏分光により明らかにすることを試みた。

 これにより、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにした。

■究極的に薄く高機能な有機デバイス作製へ

 同研究では、アントラセン分子に鎖状のアルカンチオールを連結させた分子の溶液に金の基板を浸漬することで、分子同士が集合して整列することによる組織化を促進させ、アントラセン単分子薄膜を作製した(図1(ア))。この薄膜試料を走査型トンネル顕微鏡(STM)や光電子分光を用いて調べたところ、以下のような知見が得られたとする。

 図1(イ)は、アントラセン修飾アルカンチオールが金基板上に自己組織化して形成した単分子膜のSTM像だ。輝点それぞれが末端のアントラセン分子に対応し、アントラセン分子が規則正しく表面に整列し、均一な有機単層膜を形成していることが分かる。この規則的な分子配列の様子は、アントラセン結晶で見られる格子間隔と一致している。

 格子間隔と一致しているのは、金表面に吸着したアルカンチオール分子の配列が幾何的に無理のない集合構造をとることで、図1(ウ)のように、末端のアントラセン分子同士が単層で結晶化したためと考えられるという。

 従来の作製方法では、室温で有機分子の結晶を作ることは困難だった。今回の成果は高い結晶性の有機薄膜が溶液に浸すだけで、室温で容易に作製可能なことを示す。同研究グループは「究極的に薄く高機能な有機デバイス作製への道を開く」と語る。

■電子物性評価に成功

 同研究グループは、アントラセン単層結晶薄膜についてフェムト秒時間の精度で光電子分光を行い、光で励起された電子状態が変化する様子を追跡した。平たんな分子薄膜の表面上に2つの特徴的な電子状態(図2(ア))が観測できたという。

 1つ目は光で鏡像準位に励起された電子は、表面上を自由電子に近い状態で1.1ピコ秒の寿命で滞在していること。2つ目はアントラセン分子内の電子を励起する光を用いると、この励起子が2.5ピコ秒の間、単層結晶内に閉じ込められることである。

 鏡像準位の電子が単層結晶内の励起子と相互採用して表面から飛び出す、という新しい現象を見いだすことにも成功したとする。この現象は、単層結晶中に閉じ込められた励起子が消滅する際に失うエネルギーを、表面上の鏡像準位に滞在している電子が受け取り、その結果電子が表面から飛び出すものである(図2(イ))。

 表面上に広がった電子状態は一般的に、分子に局在している励起子とは強く相互作用しない。しかし分子が整列して単層結晶が形成されると、励起子が単層内を広く動き回れるようになり、エネルギーの授受が可能となるものだ。

 同研究グループは「この研究成果は、有機光電変換デバイスにおける電荷分離の過程において、電荷が拡散できる範囲を広げることが有効で、そのためには有機分子を整列させた結晶化が効果的であることを初めて実験的に示したものである。有機光電変換デバイスを高効率化するための基盤技術として利用価値が高いと考えられる」とした。