ここから本文です

<認知症>悲劇を喜劇に ドキュメンタリー映画がヒット

毎日新聞 4/20(木) 14:00配信

 ◇2015年公開「徘徊~ママリン87歳の夏~」

 認知症への関心の高まりに合わせるように、病気をテーマにした映画が注目されている。ドラマ作品だけでなく、当事者をそのまま映し出すドキュメンタリーも人気を集めるなど、表現も多様化している。

 「ここ、誰の家?」「私」「アッコちゃんの家?」「そうや」「刑務所と違うの?」

 昨冬、大阪市住之江区のホールであった映画の上映会。老婦人と娘のかみ合わない会話に、最初は遠慮がちだった会場の笑い声が徐々に大きくなった。見終えた女性(73)は「私も認知症の母を介護したが、こんなふうに笑い飛ばせたらよかったのかも」と笑顔で目尻を拭いた。

 認知症の母、酒井アサヨさん(89)と長女章子(あきこ)さん(58)=大阪市中央区=を追ったドキュメンタリー映画「徘徊(はいかい)~ママリン87歳の夏~」(田中幸夫監督)は2015年の公開から全国約150カ所で公開されるヒットとなった。認知症を笑いのネタにするような内容に戸惑う声もあるが、章子さんは「どうぞ笑ってください」とあっさり言う。

 奈良県大和郡山市で1人暮らしをしていたアサヨさんは06年に認知症と診断された。2年後、章子さんは大阪の自宅マンションでの同居を始めたが、四六時中罵声を浴び続け「私の人生は終わった」とまで思った。

 ある時「私も10歳ぐらいまでは母に面倒をみてもらった。10年はお互い様」と覚悟を決めると気が楽になった。アサヨさんを閉じ込めるのもやめ、あえて徘徊を許した。昼夜問わず出て行く母をこっそり追いかけ、落ち着いた頃に声を掛け連れ戻す日々がおよそ6年続いた。そのうち4年間で取り続けた記録によると、合計1338回、1730時間、1844キロも歩いた。

 ただ、マンションの住人はアサヨさんを見つけると連れ戻してくれた。オフィス街の会社員らは道を尋ねるアサヨさんに親切だった。「認知症を隠さず外に出たら、世界が変わった」

 14年春に田中監督(65)と知り合い映画化が決まった。田中監督は「主人公は、章子さんの覚悟」と話す。「母と娘という断ち切れない関係の中で章子さんがどう覚悟し、対処したのかを描きたかった。認知症の問題が悲劇を抱えていることは誰でも知っている。それだけではない視点を示せるのが映画の力でしょう」

 認知症を描いた映画の先駆けとされるのは有吉佐和子のベストセラー小説を映画化した「恍惚(こうこつ)の人」(1973年)。カンヌ国際映画祭で審査員特別大賞を受賞した「殯(もがり)の森」(07年)など世界で高く評価される作品もある。

 また13年に映画化もされた「ペコロスの母に会いに行く」(西日本新聞社)などマンガで認知症を表現した作品もある。【花澤茂人】

最終更新:4/20(木) 14:22

毎日新聞