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鉄道の力 ホテル・不動産・旅行…多角化経営 近鉄「新しいもん好き」戦略

産経新聞 4/20(木) 14:57配信

 □ホテル・不動産・旅行…鉄道以外の収益際立つ

 「近鉄の多角化経営は、民営化後のJR九州の経営のお手本だった」

 今年4月1日で発足30年を迎えたJR九州の初代社長、石井幸孝さん(84)はこう振り返る。東日本、東海、西日本の本州3社と比べ、赤字路線を多く抱える九州、四国、北海道各社は民営化後、苦しい経営を強いられた。

 その打開策を探す中で石井さんが注目したのが、近鉄の多角化経営だった。

 例えば、三重県志摩市賢島の志摩観光ホテル。近鉄グループの近鉄・都ホテルズが経営する老舗ホテルで、昨年開かれた伊勢志摩サミットの会場となった。英虞(あご)湾を一望する景観と、地元食材をふんだんに使った料理は、各国首脳をうならせた。

 ターミナルの大阪阿部野橋駅前に建ち、開業3年を迎えた日本一高いビル「あべのハルカス」は近鉄の象徴だ。ほかにもグループには、国内有数の旅行会社の近畿日本ツーリストや、新幹線の車両製造も手がける近畿車輌など、トップクラスの企業が顔をそろえる。

 他の鉄道会社グループとの大きな違いは、グループ全体の収益のうち鉄道事業が占める割合だ。近鉄グループホールディングス(HD)の平成27年3月期決算の営業収益のうち、運輸事業は約17%の2153億7500万円。一方、同じく多数のグループ会社を抱える阪急阪神ホールディングスの27年度の営業収益で鉄道事業などが占めるのは約30%で、近鉄の運輸事業以外の比率が際立つ。

 近鉄の多角化経営を石井さんはJR九州経営の範とし、関連企業に本社から人材を配置し、出向先を活性化させつつ、人材育成につなげる「一流の仕組み」を生みだした。

 ◆初の2階建て

 近鉄は、全国の私鉄の中で最長となる総延長508キロを誇る。主に都市圏内を走る他の私鉄と比べ、大阪、京都、奈良、三重、愛知の2府3県にまたがる都市間輸送を担う路線は、異質な存在にも思える。

 近鉄が早くから注力したのは、大阪から奈良の橿原神宮や三重の伊勢神宮などへの観光事業だ。寺社を結ぶ参詣列車を走らせ、車内販売や座ったままラジオが聞けるシートラジオを設置。長距離の乗車が快適になるよう腐心した。2階建ての高速電車としては世界初となる「ビスタカー」もそのひとつだろう。

 近鉄の担当者は「大阪のお客さんは価格にもサービスにもシビア。チャレンジ精神豊富というか、“新しいもん好き”というのが伝統となってきた」と話す。

 ◆JRも学んだ

 多角経営化で本業の鉄道の強みを増す近鉄の手法を、手本としたJR九州はいま躍進を続けている。

 JR九州は3千人を2年間、飲食店やホテルに出向させ、徹底して他業種を学ばせた。現在、飲食店や不動産、ホテルなどJR九州の展開する事業は多岐にわたり、そのほとんどが地域トップブランドに育った。

 なりふり構わない生き残り戦略は「ダボハゼ経営」とも揶揄(やゆ)されたものの、27年度には320億円の経常利益を上げるまでに回復。いまや売り上げの約半分を鉄道以外の事業が占める。高い人気を誇る豪華列車「ななつ星in九州」は、近鉄の参詣列車さながらの観光と鉄道事業を組み合わせた「走る多角化経営」だ。石井さんは「うちは鉄道以外プロだから」と笑う。

 少子高齢化社会を迎え、鉄道の乗客数は頭打ちになる中、私鉄がいかに生き残るのか。近鉄の多角化経営はそのヒントになっている。

最終更新:4/20(木) 15:11

産経新聞