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日本版NBA施設は実現するか スポーツ施設の収益センター化構想が始動 地域振興の起爆剤に

産経新聞 4/21(金) 10:30配信

 スタジアムやアリーナなどのスポーツ施設を収益があげられる施設に変え、地域振興の拠点にしようという動きが加速し始めた。安倍晋三首相は3月24日の未来投資会議で、地域振興の拠点機能を持たせたスポーツ施設を2025年までに全国20カ所で整備するよう指示。モデルとして念頭に置くのは、年間1億ドル(108億円)以上を稼ぐ米プロバスケットボール(NBA)の施設などだ。ただ、住民の年齢構成などによって地域の需要は異なるだけに、緻密な戦略で臨まなければ稼ぐこともままならず、無駄なハコモノが積み上がる結果になりかねない。

 「多様な世代が集う、地域の交流拠点に生まれ変わらせる」。安倍首相は未来投資会議で地域のスポーツ施設についてこう述べ、法律、予算、税制などの政策を総動員する考えを示した。整備する20カ所は公募で選び、専門家を自治体に派遣してアドバイスする。

 日本のスポーツ施設は、大半が地方自治体の所有で、赤字の垂れ流し体質が批判されてきた。

 文部科学省によると、公共スポーツ施設は約5万3000カ所に達し、民間施設(約1万7000カ所)の3倍に上る。日本政策投資銀行などの13年の調査によると、サッカーなどの主要リーグの試合が行われたスタジアムやアリーナなど593施設のうち、民間所有はわずか4%の24施設にとどまった。残りは市区町村が414施設、都道府県が141施設、独立行政法人が7施設、その他が7施設で、こうした構成は、今も変わっていない。

 公共施設の大半で収益が上げられないのは、週末に集中するスポーツイベントへの「場所貸し」くらいにしか知恵が回らず、平日の稼働率が低いからだ。また、大型施設は郊外に作られるケースが多いことも、収益性を下押しする原因となっている。

 安倍首相の指示には、こうした赤字体質を改め、稼ぐ力を持つ「プロフィット(収益)センター」に生まれ変わらせる狙いがある。政府は昨年6月まとめた成長戦略で「スポーツの成長産業化」を柱に据えており、首相の指示は、これに沿ったものだ。

 政府が目指す形の一つとするのが、米国や欧州のプロスポーツチームが使うスタジアム、アリーナだ。

 その一つ、米ロサンゼルス市の「ステイプルズ・センター」は、NBAのロサンゼルス・レイカーズなど複数のプロチームの本拠地。1999年にオープン後、スポーツ、コンサートなど年間250のイベントが行われ、400万人が訪問している。毎年2月には米音楽最高の栄誉とされるグラミー賞の授賞式が行われるほか、かつて民主党の全国大会が開かれたこともある。

 注目すべきはその「稼ぐ力」だ。スポーツ庁などによると、年間収入は、命名権5800万ドル▽広告掲載契約の収入2500万ドル▽施設内のレストラン営業権契約収入1200万ドル▽プレミアム席収入3300万ドル-などとなっている。

 規模こそ及ばないものの、日本でも成功例は出始めている。3月の未来投資会議では、プロバスケットボール「Bリーグ」の大河正明チェアマンが、クリニックやフィットネスジム、レストランを併設した「カシマスタジアム」(茨城県鹿嶋市)、屋根付きの市民交流スペース、市役所などの行政サービスを併設したアリーナ「アオーレ長岡」(新潟県長岡市)を紹介。それぞれ年間数十万~100万人規模に上る集客を達成していると説明した。

 ITとの融合が進めばさらに広がりが期待され、ある政府関係者は「スマートフォンによるチケット購入や売店購入などのデータを蓄えれば、観客一人一人にお勧めの試合をメールで知らせるなどの誘客活動につなげられる」としている。

 こうした戦略が奏功すれば常時、数千人、数万人の人々を集めることも可能になる。スポーツ庁は「飲食や宿泊、観光など周辺産業に経済波及効果や雇用創出効果を生み出し、地域活性化の起爆剤となる」と期待する。

 ただ、実現は簡単ではない。みずほ総合研究所の太田智之経済調査部長は「『ハコモノありき』で取り組めば間違う。整備する地域の潜在需要を調べるマーケティングなどが必要だ」と訴える。特に地域振興の観点からは、住民の年齢構成などによって「解決すべき課題が異なってくる」。このため「整備する20カ所すべてで同じ取り組みをするといった発想では失敗する」と強調する。

 自治体の担当者は、経営やマーケティングに関する意識を高めることが求められそうだ。同時に、課題解決に適した人材を民間から探し出し、その知恵をいかす「目利き力」も必要となる。(経済本部 山口暢彦)

最終更新:4/21(金) 10:30

産経新聞