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「極ゼロ」企業努力は泡となるか…国に115億円返還求め提訴、酒税のあり方を考察

4/20(木) 10:07配信

弁護士ドットコム

サッポロビールは4月11日、ビール系飲料「極ゼロ」について、自主納付した酒税115億円の返還を求め、国を相手取って東京地裁に提訴した。

極ゼロは2013年に「第三のビール」として発売され、大ヒット。しかし、国税当局から「第三のビールにあたらない可能性がある」という指摘を受け、製法を変更、「発泡酒」として再発売された。

その際、サッポロビールは当初の製品をビールと同じ「発泡酒類」として酒税を再計算し、第三のビールとの差額分115億円を自主的に納めている。今回、サッポロビールは当時の極ゼロが「第三のビールにあたるとの確証を得た」として、この自主納付分の返還を求めている。

今回の裁判について、税務訴訟にくわしい林朋寛弁護士は、「結果次第では、酒税法によって企業努力が『泡』となりかねない」と見ている。一体どういうことなのか、話を聞いた。

●微妙な課税要件、憲法に合致しなくなった可能性も…

ーー第三のビールと発泡酒ではどのくらい税金が違う?

酒税は、酒蔵から出庫した数量に応じて課せられている国税です。発泡酒(麦芽比率25%未満のもの)だと350ml(1缶)あたり47円、第三のビールが28円になります。

これに対し、ビールは77円と高額です。この税率の差が発泡酒や第三のビールが台頭した一因になっています。この3種類の税率は今後、段階的に変更され、2026年10月1日からは350mlに対して約54円に統一されることが決まっています。

ーーそもそも第三のビールって何?

酒税法では、大まかにいうと、ビールはホップと水以外の原料が麦芽100%か、その他の原料を含む場合は麦芽の重量の半分以下のものをいいます(酒税法3条12号)。

これに対し、発泡酒は、麦芽または麦を原料とした酒類でビール等に該当しないものです(3条18号)。第三のビールや新ジャンルなどと言われているものは、大豆やエンドウ豆、とうもろこし等を原料としたもの(23条2項3号イ)や、発泡酒にスピリッツ(蒸留酒)を加えたものになります(23条2項3号ロ)。

ーー製法の区別が付きそうなのにのに、なぜ第三のビールかどうかで揉めているの?

詳細は分かりかねますが、メーカーが研究を重ね、製法が発達することによって、従来の酒税法や酒税法施行令の規定に該当するかどうか明確に判断できなくなった可能性が考えられます。

そうであれば、今の酒税法の規定は、課税要件はあらかじめ明確でなければならないという原則(憲法84条)から見ても問題の大きいものになっているといえるのではないでしょうか。

●酒に消費税、二重課税ではないのか?

ーー酒税法は時代遅れということ?

酒税法は今日では問題が多い税制だと思います。ビール等が高級品だった時代に富裕層から多く税金を取ろうという趣旨だった酒税法の合理性は、今の時代には消滅しているでしょう。

製造時に課された酒税は、本体価格に反映されますから、酒税分についても消費税が掛かっていることになり、税金の二重取りになっているように思えます。また、原料の違いや酒類の違いで課税される金額が異なっていることついて、一般の国民が納得できるだけの合理的理由はないと思います。

ーー世界的に見て、日本の酒税は高いと言われているが…

企業が日本独自の税制に縛られて、国内消費者向けの開発競争を行ったために、海外向けの製品開発が遅れたとも言われています。税制のために企業の自由な開発や競争が阻害されているのではないかと思います。

典型的なのが、発泡酒や第三のビールのように、国内の消費者に向けた税金の安い商品の開発です。こうした商品が出るたびに、国が酒税法を改正して課税してくるような状況は、「いたちごっこ」と揶揄されることもあります。しかしながら、メーカー側としては真っ当な企業努力です。主な責任は後付で課税しようとする国側にあるのですから、「いたちごっこ」などと馬鹿にするのは間違いです。

ーーこのほか、酒税法にはどんな課題がある?

本件とは離れますが、酒税法では、個人が自由に酒を造ることを、酒税を課すという国の都合で規制しています。国民は税金を納めるために生きているわけではないので、税金のために自由な活動を規制するなど本末転倒というべき制度でしょう。

酒税法という法律は、国会で抜本的に改廃されるべきものだと考えます。新しき酒は新しき革袋に入れないと、酒税法の制度は古いままだと思います。

●統計的に見ると、納税者側の主張が認められることは少数

ーー今回の裁判の行方をどう見ている?

「発売当時の極ゼロは、第三のビールだったのか」が争点になりますが、詳細が分からないので、なんとも言えないところです。ただ、統計的に見ると、税務訴訟で主張が認められることは少数と言えます。

国税庁の統計資料によると、国を被告とした訴訟で終結したものは、2015年度に262件ありました(第一審、控訴審、上告審の合計)。このうち、納税者側(原告)が全部または一部勝訴したものは22件(8.4%)でした。

ただし、争いになる件数が少なく、是正されるべき事案も眠ったままになっているからという見方もできます。今回の極ゼロ裁判がどう判断されるか、注目したいと思います。

【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道江別市出身。大阪大学卒・京都大学大学院修了。平成17年10月弁護士登録。東京弁護士会、島根県弁護士会、沖縄弁護士会に所属の後、平成28年3月に札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。税務調査士(R)。ウイスキー好き。
事務所名:北海道コンテンツ法律事務所
事務所URL:http://www.sapporobengoshi.com

弁護士ドットコムニュース編集部