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「何もこんな日に、と思わせちゃいけない」震度6弱、宿泊客は満室1800人 一人もけが人を出さなかった別府のホテル

西日本新聞 4/20(木) 11:03配信

 大分県内で観測史上最大の震度6弱を記録した昨年4月16日の熊本地震本震から1年が経過した。あの日、全国有数の温泉リゾートホテル、杉乃井ホテル(別府市)では、満室の宿泊客約1800人がロビーや駐車場に避難したが、従業員が朝まで寄り添い、一人の負傷者も出さなかった。そのとき、ホテル従業員は何を考え、どう動いたのか。

⇒【画像】別府・杉乃井ホテルの全景

 バーやボウリング場も営業を終え、ひっそりとしたホテル。午前1時25分、ドーンと突き上げる衝撃が襲った。2日前の前震以降に頻発していた余震とは全く違う揺れ方だ。

 「まずい。施設は無事か? お客さまは?」。車で約10分の自宅にいたホテル部長の友末重己さん(59)はすぐに被害の把握に動いた。建物にひびはない。自家発電も生きている。だが、窓ガラス約300枚が割れ、エレベーターは停止。644の客室を手分けして回り、安否を確かめた。

 宿泊客が浴衣姿のまま、ロビーや駐車場に集まり始めた。1800人が一斉に動くと、階段や廊下が人の波で埋まる。避難訓練では想定していない光景。「倒壊の危険はありません。安心してください」。誘導して毛布や水を配った。寒さを訴える客はマイクロバスで暖を取らせた。

 宿泊客全員の無事を確認したのは夜明け前。非番も含め、社員約250人のほぼ全員が駆け付けた。

「よし、少しでも早く温かいものを」

 「全部作るのは無理。炊き出しをすべきか」。午前3時すぎ、総料理長の成安宣章さん(67)は悩んでいた。約70品の朝食バイキングはホテルの売り。食材は前日までに納められ、冷蔵・冷凍庫も無事。ただ、ガスは安全が確認できるまで使えない。非常用プロパンは火力が足りない。

 幸い、調理スタッフも1時間早くそろった。「人海戦術で作れるだけ作ろう」。腹を決めたときにガス復旧の知らせが届いた。

 「よし、少しでも早く温かいものを」。避難客にコーヒーを運ぶ。全員が強い力に引っ張られるように動き回り、朝食開始を1時間前倒しできた。いつも通りのご飯やみそ汁に、疲れた客の表情が緩む。「温かい食事は人を元気づける。まさにそのものでした」

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最終更新:4/20(木) 13:58

西日本新聞