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「キーマン」が去ると、プロジェクトが頓挫してしまう理由

4/21(金) 9:18配信

ITmedia エンタープライズ

 異動や退職などでプロジェクトの“キーマン”がいなくなった途端に、プロジェクトがうまくいかなくなってしまう――。読者の皆さんはそういった経験はありませんか? これはDMPにおいても例外ではありません。特に導入後の運用フェーズで、以下のような話をよく聞くので注意が必要でしょう。

 春の定例人事異動でDMP運用担当チーム長に就任しました。前任者はDMPをうまく使いこなし、デジタルマーケティングだけでなく、リアルイベントやテレビCMなどにも応用しており、今ではちょっとした有名人のようです。

 僕もそんなふうに新しいことに挑戦して成功するぞ、と思っていたのですが、なぜだか急に「失敗とはいえないけど、成功ともいえない」という微妙な状況が続いています。何がいけないのでしょう?

●なぜ人が代わると、プロジェクトがうまくいかなくなるのか?

 このようにプロジェクトがうまくいかなくなると、「トップのリーダーシップがなくなったからだ」「新たな推進役の人間の能力に問題がある」といった“犯人探し”が始まり、やがて「前は成果が出ていたみたいだけど、今は目新しい成果が出ていないし、何より他部署の反感も強い」といった理由で、予算縮小という憂き目に遭うこともあるようです。

 他には何も変わっていないのに、人が代わるだけで成功しなくなるという現象が起きれば、誰だって「あのDMPは〇〇さんの“個人商店”だった」「△△さんにはデジタルマーケティングの荷は重い」とうわさしたくなるでしょう。

 しかし、これまで本連載で「データという客観的な事実でインサイトを発見する発想」を学んできた読者の皆さんなら、こうしたうわさを「それは相関関係であっても、因果関係ではないよね?」と一蹴できるはず。今回は、DMPを組織に根付かせるための考え方をお話ししたいと思います。

●新しい文化を起こすことと、文化を根付かせる方法は異なる

 フィレンツェ共和国の外交官だったニッコロ・マキャヴェッリは、氏の著作である「君主論」の思想に由来して“マキャベリズム”という言葉があるほど、超現実主義者として有名です。私たち組織人にとっては、リーダーシップを語る上で欠かせない人物として取り上げられますが、組織論を語らせても第一級の人物であったことはあまり知られていません。例えば「政略論」には以下の一説があります。

 いかに一人の力量豊かな人物が全精力を投入したところで、その投入のたまものを以降も維持していくのは、その他大勢の人間の協力によるのである。そして、この最後のことなしには、国家の存続は保証され得ない。

 組織にDMPを導入する際、「DMP」という聞き慣れない単語に触れた、社内の多くの人が「またお得意の3文字英語か!」と嘲笑し、Web独自の製品だろうと距離を置いて様子を伺っていたのではないでしょうか。

 そこから、Webマーケティングはデジタルマーケティングと同義ではないことを辛抱強く訴え、小規模に導入し、小さなサイクルを回しながら失敗と成功を積み重ねてきた、1人の有能な人物のおかげで、様子見だった多くの人間が理解者に宗旨替えして、万事ハッピーエンド……となるわけではありません。

 組織は「1人の有能な人物」がいなくなっても続き、成果を上げ続けなければならないからです。マキャヴェッリが訴えているのは、“端緒を切り開く労力と、それを維持する労力は別”ということだと私は解釈しています。

 DMPを知ってもらうまでは、とにかく何度でも打席に立って、1本でもヒットを打つことが必要です。求められるのは「打率」ではなく「安打数」です。ですが、DMPを文化として組織に根付かせるには、打席に立って一定の確率でヒットを打つことが求められます。そのため、今までと同じやり方を続けていては、うまくいかないのが当たり前なのです。

 つまり、人が代わったことが原因ではなく、「DMP運用のフェーズが変わり、自分に求められている役割が“維持”になっていることを理解せず、今までのやり方を変えない」ことが原因で、成果を上げられなくなっているのではないでしょうか。

●「草創」と「守成」のバランスを見極める

 よく、創業者は「草創」のリーダーシップ、2代目は「守成」のリーダーシップが必要だといわれています。

 新しいものを創り出す「草創」で出会う困難と、新しく創り出したものを守り育てる「守成」でぶつかる困難は異なります。今回の例に当てはめると、自ら率先してDMPを導入するためのリーダーシップと、浸透が一通り終わったDMPを守り、永続させるリーダーシップや施策は別だと考えた方がよいでしょう。

 私自身、変化が激しいといわれるベンチャーの世界で、「アドテク」という言葉が誕生する前の2007年から一貫してプロダクトを開発してきました。プロダクト自体は13年目を迎えます。

 これまで幾度となく荒波にもまれてきましたが、生き残れた理由の1つに、草創と守成のバランスがあると感じています。多くのプロダクトが「激しい変化」を理由に事業を撤退、転換してきましたが、「守成」という視点を持って物事を進めれば、結果は異なっていたかもしれません。

 もしあなたが「これからはDMPを組織に根付かせる」と腹を決めたら、前任者の否定だと陰で非難をされようとも、止めるべきことは止め、始めるべきことは始めるべきでしょう。結果さえよければ、手段は常に正当化される――。マキャヴェッリも「政略論」の中でこのように論じています。