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「実際もっと多いです」Ubisoft Osakaに聞く、“280万円求人騒動”の真相と、日本からグローバルなAAAタイトルを目指す今後の展望

4/21(金) 20:02配信

ファミ通.com

文・取材:編集部 ミル☆吉村

●意外な海外タイトルを開発中であることも判明
 Ubisoft Osakaは、フランスの世界的大手パブリッシャーであるユービーアイソフトのグループ内で、日本の大阪の中津に拠点を置くゲームスタジオ。先日、複数の求人サイトに出された同スタジオの求人広告に、「年収280万円~」と書かれていたことなどがTwitterなどで話題となった。
 280万円という数字は、例えばユービーアイソフトの『ウォッチドッグス2』の舞台であるサンフランシスコ・ベイエリアなら、アパートの家賃1年分にもなるかも怪しい額だ。一方で、この“炎上”騒動のさなか、知人などが勤務していたり事情を知る業界の人々からは「こんな金額のはずはない」との声も聞いた。

 では実際どうなのか? そしてそもそも、ユービーアイソフトという外資の大グループの中で、Ubiosoft Osakaはどんなスタジオで、求人によって人材を拡大することで、どういう方向性を目指しているのか? 同スタジオの代表を務める冨長直人氏にビデオインタビューを行った。

●「個人の実力を評価したい」という思いと、求人システムの制約の狭間
――今回、求人情報が話題になったわけですけども、その中でも年収の“280万円~”と書いてある数字がひとり歩きしてしまった部分があると思います。「から」なのでそれ以上が当然あるんだろうとは思いますけども、この数字だけ見たら安いのも事実ですよね。というわけで、まずこの数字がどういう所から出てきたのか教えてください。
冨長 これ実は、新卒初任給として提示している数字なんです。今回の求人にあたっては複数媒体を使っているんですが、媒体によって使えない言葉があって、例えば中途採用の広告に新卒初任給と書いてはいけない時があったりするんですね。かといって逆に媒体ごとに文言を最適化すると、同じ求人でも違うものに見えてしまう。なので横並びに見えるように直していったら結果としてあのような表記になっていったんですね。

――求人広告を複数社に出す時にそういった辺りがなかなか面倒というのは聞いたことがあります。
冨長 それと「3年ぐらいの経験があってこれぐらいの人ならいくらぐらい」というのは提示できなくはないんですけど、実際に応募される方はそれぞれユニークな経歴を持っていて、作品を見せて頂いても同じ期間で密度が全然違ったりするので、その想定モデルとうまくハマらない事があるんですよね。また提示したらそのラインは最低でも支払うわけですけど、変な線の引き方をすると、「この人と働きたいけど、このラインにはちょっと足りないな」といった時にオファーを出しづらいということにもなってしまう。

――そういった応相談の部分の幅を持たせようとする一方、求人システム上は齟齬がないようにするために下限を入れたと。
冨長 そうですね。どんな方でもひとまず変わらない数字として初任給を入れて、我々としては別途相談(「上記はあくまで目安となります。 金額は経験、能力、スキルを考慮して決定いたします」)と書いてあるので誤解は避けられるだろうと思っていたんですけれども、サイト上で初任給と書いていないので、今見直してみると誤解されても仕方がないなと思います。(本意と異なる形で)いろんな部分を切り出されて炎上したのは寂しかったですけど、今後どうすれば誤解を減らせるかを考えています。

――ぶっちゃけた話ですが、ここに出ているようなスキルを満たす人が来た場合に、「よし280万でお願いします」ということはないわけですよね?
冨長 ないですね。具体的な数字は個人によるので出せませんが、まっさらで何の上積みもない場合の新卒初任給でそれなので。

――いろいろ見えてきた気がします。これまた求人広告文法の罠というか、今回の求人の場合は3年の経験を要項として挙げていますから、そもそもこの数字の前提と合わないですね。
冨長 3年というのも、すごい濃い事をされている方もいらっしゃいますし、本人の資質というよりも、たまたま入った会社や配置されたプロジェクトによって差が出てしまうということもありますよね。だからこの数字も、「中途採用の部類ですから、完全に新人さんは困りますよ」というニュアンスから来ているんですね。

――となると実際はそこにも幅が?
冨長 実際は実務経験が2年しかない場合でも応募があったら見ていますし、それも「2年目だからいくら」という形ではなくて、僕らは本当に実力で数字をつけています。かといって“経験年数不問”としてしまうといろんな人が来ちゃうし、あくまで目安ですね。

――海外のスタジオの求人を見ることもあるんですが、超人みたいな要項が書いてあっても実際マッチして入る人は違ったり、そもそも給与面は書いてなかったりしますね。
冨長 もしかすると、僕ら日本と欧米の中間みたいな出し方をしてしまったのが分かりづらかったのかもと思っているんですけど、条件は「こういう所を見ています」というものであって、「これを満たしていないとダメよ」っていう感じでもないんですよね。

――求人あるある的な罠ですね。実際聞くと他の部分とのバランスでなんとかなったり。
冨長 「上限の金額も一緒に書けば良かったんじゃ」という話も出たんですけども、それでそれだけ出るんじゃないかと来られても、状況によっては……。

――まぁミスマッチが起きますよね。
冨長 今(※4月19日収録)はさらなる誤解を生んでも仕方がないので求人を変に下げずにそのままにしてあるんですけど、どういう形にしたら一番誤解が少なくできるか考えているところです。

――個人的には在籍している方の中央値とかあればよかったのではと思いました。
冨長 それも社内のディスカッションでは挙がっています。ただそれを出してしまうと、当然それより下の人もいるので、人によってはあまり気持ちのいい数字ではないのが悩ましかったり。「三十何歳モデルケースでいくら」みたいな出し方もよくありますけど、業界年数に対して払うのであればともかく、やっぱり僕らはそれぞれの実力に近い所できっちり払いたいので、それはそれで個々のケースで誤解が生じてしまうんですよね。

――下品な質問になってしまいますが、数字がひとり歩きしているので数字の話をお許しください。具体的な数字は抜きで、ぶっちゃけ現在在籍されている方の中央値は280万よりは多いですか?
冨長 多いと思います。額面で多分1.5倍くらいですね。

●目標は「グローバルAAAの開発に日本から関わる」
――では数字の話はこの辺にして、そもそもUbisoft Osakaというのはどういう位置づけのスタジオなのかお伺いしたいと思います。ユービーアイソフトという巨大グループには世界各地にスタジオがあって、AAA(『アサシン クリード』シリーズなどの大作)をメインで作っているところもあれば、共同開発で協力するタイプのスタジオもある。スマートフォン向けのスピンオフ的なタイトルを作るところ、それこそ映画のVFXを提供する会社とか、いろいろあるわけですよね。
冨長 はい。音楽の会社もあったり、僕らも把握しきれないぐらい、幅広い仲間が世界中にいますね。

――それで外資の日本スタジオという場合、それもまた結構役割がバラバラですよね。他社ではそれこそ独立した形でグローバルのAAAを作る所もあれば、日本向けの小さいタイトルのプロデュースに近い役割だったりとか、あるいはソーシャルゲームの開発だったりとか。Ubisoft Osakaは、どういう役割で何をするスタジオなんでしょう?
冨長 成り立ちから説明させてください。Ubisoft Osakaは、元々はニンテンドーDSやPSPなど携帯ゲーム機向けのゲームを作っていました。大阪だけで完結するような規模で、映画版権やテレビ版権のものだとか、ペットものとか、子供向け・女の子向けのようなものを中心にやっていて、ただメインのターゲットは日本ではなくて海外の市場だったんです。日本にあるから日本向けのものを作っているかと言うとそうではなくて、日本の才能ある方々を採用して、世界のほかの地域に売っていくという方向性でした。

――そこからどう変わったのでしょう。
冨長 ここ4、5年、スマートフォンが大きくなるのと引き換えに海外における携帯ゲーム機の市場が小さくなる中で、スタジオとして転換が必要になったので、最近は据え置き機のカジュアル寄りのゲームに移ってきているんですね。本当はその先で据え置きのハイエンドに移行しようとしているんですけども、いきなり機材が届いてそこから作れるわけではないので、まずはカジュアルなものを作ってハードやエンジンやワークフローに慣れるというのを積み重ねています。
 なので、ニンテンドー3DSのプロジェクトもやりつつ、据え置き機のプロジェクトも。具体的には、ダンスのゲーム(『Just Dance Kids 2014』)をちょこっとやったりとか、『テトリス アルティメット』を開発したりとか。現在たずさわっているサウスパークのゲーム『South Park: The Fractured but Whole』もその一環なんです。

――おお、意外なタイトルが出てきましたね。ユービーアイソフトらしい共同開発体制の一員になっているというわけですね(※『South Park: The Fractured but Whole』のメイン開発はサンフランシスコスタジオ)。
冨長 「ハードを知る」という段階はもう終わっていて、現状の課題はふたつ。まずひとつは、大規模なタイトルで、チームが全部で200人、世界のあっちに30人こっちに40人となると、一箇所でやっていた時とはコミュニケーションが全然違います。もしこれが「これ作っといてね」という外注っぽい感じだったらあまり揉めないですけど、本当に一緒に作るという形なので、距離と文化が違うなかで本当に喧々諤々のやり取りになるんですね。そういうのを何本かやっていって、コミュニケーションの中身をどう充実させていくかを大事にしています。

――発言しない人は存在しないも同じという文化だったりしますし、大変ですよね。もうひとつの課題はなんでしょう?
冨長 実は『South Park: The Fractured but Whole』、2Dのキャラクターがワーッと動き回りますけど、使っているエンジンがSnowDropなんです。ゴリゴリに3Dな『ディビジョン』のエンジンをなんで使うかと言うと……このプロジェクト単体で考えるだけなら、ぶっちゃけほかの選択肢もありえると思うんです。

――ワハハハ!(笑) まぁユービーアイソフトには2D用のフレームワークなんかもありますからね。なぜなんでしょう。
冨長 実は、Ubiosoft Osakaは、2~3年後にAAAのアクションゲーム開発に参加することになっています。となるとそのエンジンに慣れるのが大事だし、やっぱり練習期間のようなものが必要なんですね。次の次、2年ぐらい先には、3DのAAAアクションゲームを作るスタジオとして「あのゲームはあいつらが作ったんだよ」と言われる所に行きたいんです。戦略としてそこに行くための道筋として今やっているという感じですね。

――それが今の採用にも関わってくるわけですね。
冨長 そうです。そうなった時にいきなり採用を増やしても、そういう(グローバルな共同開発の)経験を求めることになってしまう。日本人だけで作るのでも大変なのに、言葉が違って距離がある中ではコミュニケーションが本当に大変なので。だから一気に増やすのではなくて、毎年10人、15人と増やして、みんなで経験を積みながら、3年後には今の倍、80人ぐらいにしたいなと思っていて。それぐらいあると存在感ある形でAAAのプロジェクトに参加できるので。

●ユービーアイグループのライブラリーで学習可能。日英の学習クラスも
――僕は仕事柄、海外スタジオによくお邪魔するんですが、学習ライブラリーがものすごく充実していたりするじゃないですか。Ubisoft Osakaの場合はどうなのでしょう。
冨長 社内SNSなどを通じて勉強できる環境は揃っていて、外部のeラーニング(オンライン講座)へのアクセスなども海外と変わらないんですけど、ただ全部英語なんですね。それでもやりたいんだという人は利用していますが、厳しいなという人もいる。そこで大阪で独自にやっている部分として、日本語と英語のクラスを提供しています。

――おお、やっぱりあるんですか! 前に外資にいた時に英語教室があったので、そういうのがあるんじゃないかと思っていたんですよ。
冨長 この1月ぐらいから模索しつつやっているんですけども、やっぱりみんな英語がものすごくできるわけではないので、まずはTOEIC300点ぐらいまでの人をベースに、そこからスタートして上げていこうということですね。「TOEIC800点」て書いてあるからって、中にいる人が全員800点以上なわけではないんですよ(笑)。あれは目安のひとつであって、他の部分で抜きん出た実力を証明することでドアは開くので。

――ポートフォリオ(※手掛けた作品などを集めた資料)などでリカバーできると。
冨長 アーティストとプログラマーは実際の絵やコーディングが優れていれば、そこまで喋れなくてもチャットで翻訳ツールでも使いながら対応できればなんとか、という努力次第の部分もありますね。そうやってやりくりしながら、英語も1年間で100点ぐらい上げてくる人もいます。

――それ以外の職ではどうでしょう。
冨長 プランナー(ゲームデザイナー)だけはある程度英語ができないと厳しいかもしれません。というのは、自分がやりたいことを人の言葉を借りて語るのかというのが大きいので。ネットの反応を見ていて、TOEIC800点という条件が「高い」と言われていたんですが、海外の仲間とガチンコでものづくりのディスカッションをしている時って、ドッジボールでボールが4つぐらい一気に飛んで来るような感覚になるんですよ。1個ずつさばけない。特にゲームデザインの話になると、ドッジボールだったはずなのに途中からバットが出てきたり、ソフトボールを投げてきたりするぐらい話もあっちこっち飛ぶので。そこでやっていくためには、やっぱりそれなりに英語でのコミュニケーション能力が必要だと思います。ただこれも「800点ないからダメだ」ではなくて、そこで自分の言葉で語れるかなんです。950点とかあっても語れない人は語れないし、低くても一生懸命会話する人は聞いてくれますからね。

――「お前このゲームデザインダメじゃねぇか」とか言われた時に「いや俺はこういう意図があって」とバチバチやれないとキツいわけですよね。
冨長 そうです。「あのゲームのこういうシーンあったじゃん」とか「あの映画のこれこれの場面が……」とか文化的なコンテキストも含めてあっちこっちで話が始まる中でちゃんとサバイバルできなくてはいけないので。

――ああ、海外スタジオは“映画たとえ”に対応するのは大事だと言いますね。
冨長 はい。最近はテレビドラマのこともあるので、HuluやNetflix、Amazon Primeなどを見まくるぐらいじゃないと置いてかれますね。「日本のドラマでたとえてくれ」というわけにもいかないので。

――では日本語のクラスというのは?
冨長 いまスタジオには45人、もうすぐ50人になる程度の社員がいるんですけど、その内25%ぐらいが外国出身なので、そちらに日本語のクラスを提供しています。レベルで言うと、JLPT(日本語能力試験)でN3からN2ぐらいの人が対象です。大阪独自の取り組みとして、お互いの言語を勉強しようね、という取り組みをやっています。

――GDC(※ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス。毎年3月にサンフランシスコで行われるゲーム開発者向けの国際カンファレンス)などへの出席支援などはあるのでしょうか?
冨長 まず、先ほどお話したように、カンファレンスで手に入るような資料や講演動画などは別のルートで見られるようになっているんですよね。行かなくてもグーグル翻訳とか使いながら自分のペースで学習できる環境はすでにあるので、「現場に行かなければいけない」ということがあまりないのが一点。それと外資なので、行くなら日本語通訳があるものだけじゃなくて、フルに学習してくださいよという話になるので、なかなかスキルは必要だと思います。

――「それライブラリーで見ればいいじゃん」と言われないだけの理由が必要だと。
冨長 「なんで必要なのか、イエスって言えるように説明してくれ」ということはよく言っていますね。国内のCEDECとかでも同じで、「何人までだからあなたはだめ」とかではないんです。例えば「今度のプロジェクトにこう必要なので」とちゃんと説明されれば考えます。学習環境が揃っているからこそのハードルと言えるかもしれませんね。

●いろいろと応相談。我こそはという人は!
――では、ユービーアイソフトの世界的な販路に乗るような、トップクラスのAAAを日本から発信したい人は応相談の部分があるから集まれ、と。
冨長 そうですね。280万からと書いてあったり、TOEIC800点とか書いてありますけど、実際はすごく柔軟に対応しているので。やっぱり「じゃあ大阪で一緒にやりましょう」となると、就業環境とか住居とか、いろいろ相談に乗らないといけないことがあって。本当は全部応相談って書きたいぐらいではありますね。

――ちなみに海外へのグループ内移籍のようなものはあったりするんですか?
冨長 ないことはないのですが、求められて受かるかどうか、という感じですね。
広報氏 日本(東京オフィス)からの移籍だと、フランスにひとり、モントリオールにふたり行った実績はあります。
冨長 社命として転勤という形ではなくて、社内応募に対して現地の採用担当と面談といった形ですね。なので逆に海外から「日本で働きたいんだ」と応募が来て、面接で「構わないけど、日本語の学習頑張れる?」と聞いたりしますよ。下手なのは別によくて、ただ「俺は英語しか喋らん!」と言われるとちょっと。「上手い下手じゃなくて、チームとしてのリスペクトの話だと思うんだ」と説明したり。一度断念して、数年後にチャレンジし直してくれる人もいます。

――ゲーム業界は海外もやっぱりオタクの人が多いですから、「夢の国ジパングで働ける!」って先走る人はいますよね。
冨長 はい。マンガで覚えた日本語をウチで直していたりしますよ。たまに「あのキャラは尊敬の意味でそう喋っていたのか!」と感動しています。

――ワハハハ! その辺りも求人情報と現実の違いということで。「あのゲーム、ユービーアイソフトだけど実は大阪で作ってるんだぜ」と海外に自慢できる日が来るのを楽しみにしています。

最終更新:4/21(金) 20:02
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