ここから本文です

「トランプにとって、同盟国はさほど重要ではない」/イアン・ブレマー氏に聞く(上)

ニュースソクラ 4/21(金) 11:30配信

世界を振り回したトランプ政権の100日

 米フロリダで開かれた初の米中首脳会談をはじめ、米国のシリア攻撃、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル発射実験を受けた米国の空母派遣、政権内の権力闘争――。米トランプ大統領の「最初の100日間」の審判が下されつつあるなか、新たな問題が次々と浮上している。米政治学者、イアン・ブレマー氏に米中関係や欧州情勢について聞いた。(聞き手は肥田美佐子)

――4月6~7日、フロリダにあるドナルド・トランプ大統領の別荘「マール・ア・ラーゴ」で初の米中首脳会談が開かれ、トランプ氏は、習近平国家主席と良好な関係を築いたと、メディアにアピールした。本当にそうなのか。

 トランプ大統領が、(習国家主席に対し)温かいもてなしができることを示し、会談がうまくいくよう望んでいたのは間違いない。大統領選の選挙戦中、トランプが、貿易協定の交渉がうまくいかないかぎり、同国家主席のもてなしはマクドナルドで十分だと言っていたことを考えると、ステーキやシャンパンをふるまった今回の会談は、格段の進歩だ。

 そうは言っても、トランプがフロリダ入りしたのは、習国家主席の飛行機が当地に降り立った後だ。外交辞令としては、いただけない。同主席がフロリダを後にした後、トランプは、ツイッターで、貿易問題では何の成果もなかったと、つぶやいた。ほかの問題でも、何一つ進展しなかった。北朝鮮の核・ミサイル開発問題を受けた、トランプの朝鮮半島周辺への空母派遣をはじめ、成果なしというつぶやき、習国家主席の後にフロリダ入りしたことなどを見れば、米中関係が容易にいかないのは明らかだ。

 だが、貿易問題をめぐり、米中が真っ向から対立するリスクが差し迫っているように見えただけに、今回、(貿易不均衡是正に向けて協議を重ねる「100日計画」の設定という)時間稼ぎができたことは、個人的には良かったと思っている。もっとも、今後、対立する要素はいくらでもあるが。

 一方、中国にとって最大の朗報は、スティーブ・バノン大統領首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外されたことだ。ほかでもない、彼は政権内の対中強硬派の急先鋒だからだ。

 また、対トランプとの関係構築でも、ロシア問題で辞任に追い込まれたマイケル・フリンに代わって就任したH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)のほうが、(バノンより)バランスの取れた関係を発展させるすべにたけている。経済担当上級顧問兼次席補佐官(国家安全保障問題担当)のディナ・パウエルも、そうだ。

 とはいえ、こと対中関係となると、現時点では依然として、穏健派より強硬派のほうが(政権にとって)重要な意味を持っている。

――大陸間弾道ミサイルの発射実験を続ける北朝鮮に対し、米国はどのような対北朝鮮戦略に打って出るのか。今後、軍事面での米中関係はどうなる?

 今回、米国が北朝鮮に対して強気の対応に出たという事実は、米中間に大きな対立を引き起こす可能性がある。米国は、北朝鮮の(ミサイル・核兵器)問題について何もしない中国に対し、北朝鮮とビジネスを行っている中国系の銀行や企業への経済制裁をはじめ、北朝鮮への武力行使も検討している。金正恩政権の転覆さえ視野に入れている。

 言うまでもないが、こうしたことは、中国にとって大きな不安定要因になる。(アサド政権の化学兵器使用を受けた、米国のシリアへのミサイル攻撃によって)米国とロシアの間で軍事関係における対立が高まっているのと同じだ。中国とはまだそうなっていないが、今後何週間か何か月の間に、そうなる可能性はある。

――あなたの最近のコメントによると、米国にとってシリア攻撃はたやすく、北朝鮮への攻撃よりはるかにリスクが低いことをトランプ大統領が承知しているかどうか、中国政府は疑問に思っているという。

 そうだ。トランプが承知していると考えるに足る理由がない。こうした問題における経験がゼロだからだ。一方、(4月6日、シリアへのミサイル攻撃の直前に)ヒラリー・クリントンが、アサド政権支配下の空軍基地という空軍基地を「壊滅すべきだ」と(米メディアのインタビューで)語ったが、実に無責任な発言だ。そうなれば、(親アサド政権の)ロシア人がミサイルの犠牲になる可能性もあり、問題が拡大し、米国にとって厄介な事態になりかねない。

 だが、ふたを開けてみると、米政権のシリア攻撃は、特定の空軍基地を標的にした、予想よりはるかに控えめなものだった。つまり、軍首脳部からの助言があれば、トランプは、そこまで強硬的な軍事行動に走らないかもしれない。

 とはいえ、そう言い切るには時期尚早だ。トランプは極めて珍しいタイプの指導者であり、経験もない。さほど有能でもなく、政策の知識は皆無だ。非常に感情的であり、自制が利くかどうかもわからない。

 事実として言えるのは、トランプにとって、米国の同盟国はさほど重要ではないということだ。北朝鮮への武力行使に踏み切った場合、北朝鮮が米国に対してできることはあまりないが、(報復として)米国の同盟国にできることは多い。だが、トランプは、オバマ前大統領やクリントン元国務長官ほど、そうした点を重視しない恐れがある。それが問題なのだ。

 一方、当の北朝鮮はミサイルの発射実験を大幅にエスカレートさせているわけではない。むしろ昨年初めのほうが、もっと多くのミサイルを発射させていた。メディアが大きく取り上げるのは、不確実性に満ちたトランプへの憂慮からだ。また、メディアはトランプが嫌いだから、対立のタネを探し、ニュースバリューのあることをやらせたいと考えている。北朝鮮の行動自体は、それほど変わっていない。

――5月9日の韓国大統領選では、リベラル系の「共に民主党」と中道系の「国民の党」という、いずれも野党の候補者が優勢だ。野党が政権を取った場合、朝鮮半島情勢に与える影響は?

 米国が協調しにくくなるだろう。特にリベラル系野党は、対北朝鮮問題で柔軟な路線を取りそうだからだ。在韓米軍による、韓国への最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備計画を遅らせたり撤回させたりする可能性が高い。

 この2カ月間、米軍寄りの姿勢を強める韓国に反発し、中国政府は、(一部韓国企業に中国での営業禁止を命ずるなど)韓国経済への制裁措置を講じてきた。韓国の新政権は、中国との関係を速やかに修復し、強固な対中関係を再構築したいと考えるのではないか。

――米中関係に話は戻るが、今後、二国間の経済対話はどのように進むのか。

 貿易問題を協議するために「100日計画」を設置することで合意をみたのは、朗報だ。これで、貿易戦争が収拾のつかない状態に陥る可能性は低くなった。それでも、論争が起こる可能性はある。米系企業が中国で投資を行うのは難しいからだ。米国は、何らかの通商措置に訴えるだろう。中国によるサイバー攻撃問題でも、米中間の対立が深まりそうだ。

 どれも容易には解決しないだろう。ウィルバー・ロス商務長官は貿易問題ではタカ派だし、対中強硬派の一人だ。とはいえ、両国の通商のプロが協議を進めるのだから、トランプのツイートよりはるかにましだ。

■肥田 美佐子(ジャーナリスト 在NY)
ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。「ニューズウィーク日本版」編集などを経て1997年、単身渡米。米広告代理店などに勤務後、独立。08年、ILO(国際労働機関)メディア賞受賞。米経済、大統領選など幅広く取材。現在、経済誌を中心に寄稿。カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカードCEO、ジム・オニール前・英財務省政務次官、シカゴ連銀副総裁、トム・リッジ元国土安全保障長官など、米(欧)識者への取材多数。

最終更新:4/21(金) 11:30

ニュースソクラ