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【漢字トリビア】「樹」の成り立ち物語

4/23(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「樹」、「樹木」「街路樹」の「樹(ジュ)」です。かつて、いにしえの人々は樹で衣食住をまかなうと同時に、樹がつける花に特別な美しさを見出してきました。梅、桃、桜、椿、藤。この時期は、樹に咲く花が次々と私たちの目を楽しませてくれます。

「樹」という字は木へんの横に、「太鼓」の「鼓(コ・つづみ)」という字の左側の部分と、さらにその横に「寸」という字を書きます。
これは、農耕儀礼などに使う太鼓の形と、それを叩く人の手を組みあわせたもの。
そこから「樹」という字は、木の横で人が鼓を打ち鳴らし、その音で樹木の成長を促している様子を表す漢字になりました。

害虫を祓い、農具を清め、豊作を願う春の農耕儀礼。
ある者は太鼓を激しく叩き、ある者は大地を踏みしめて踊ります。
やがて大地の霊はふるえ出し、響きに呼応してエネルギーを増してゆくのです。
田畑にはもちろんのこと、野山やあぜ道にもゆき渡る壮大な祈り。
大地に根を張りしっかりと立つ樹も花を咲かせ、葉を茂らせて実をつけます。
そして、樹の下に集まる人々に、豊かなときをもたらすのです

乳を含ませながら、赤ん坊との絆を確かめる母。
人生の岐路に立ち、じっくりと迷い悩む若者。
色あせぬ思い出を分かち合い、微笑みをかわす老夫婦。
もう、この世には居ない誰かの魂と語り合う人もいます。
その大きな樹は、何百年もの時をかけて身につけた知恵とやさしさで、人々を温かく包み、励まし、歩き出す力を授けてくれるのです。

ではここで、もう一度「樹」という字を感じてみてください。

一人の人間を愛する以上に一本の樹木を愛し、森の中で創作意欲をかきたてたベートーベン。
神経衰弱に陥った留学先のロンドンを離れ、スコットランド郊外の樹林を歩いて心身を整えた夏目漱石。
ロック・スターの栄光を捨て、軽井沢の森にある楡の木にもたれ、息子のためだけにギターを弾いたジョン・レノン。
今日もきっと、どこかで誰かが、樹と向き合って過ごす幸福を味わっています。
太古の昔、私たちの祖先が成長を祈り続けたそのお返しに、樹は黙って傍らに立ち、すこやかなときを与えてくれるのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『ジョン・レノンが愛した森 夏目漱石が癒された森 著名人の森林保養』(上原巌/著 全国林業改良普及協会)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2017年4月22日放送より)

最終更新:4/23(日) 11:30
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