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鈴木帝人社長、「帝人は一つにしぼれないのが強み」

4/24(月) 14:30配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 鈴木純帝人社長・CEO(4)

――帝人は来年、創立100周年を迎えます。昔は「化学繊維の帝人」「合繊、ポリエステルの帝人」と、わかりやすかったですね。幅広く事業を展開している今の帝人は、何と言えばよいのですか。

 「だけじゃない」。「だけじゃない。帝人」です。

――多様な事業によって挑戦する帝人を表すCMのキャッチフレーズですね。

 帝人って何なの? と聞かれたら、そう答えようと思っていました。いや、実際、困るんですよ。一言で言ってくださいと聞きたくなるのはわかるのですが、本当に端的に言えないんです。

――帝人という社名は広く知られていますけどね。

 海外にIR(投資家向け広報)で行くでしょう。それで、この間、外国の投資家が何を知りたいのか初めて理解しました。グローバルにわかりやすく、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)だのROE(自己資本利益率)だのと資料に書いて、説明するわけです。

 ところが相手から「売り上げと利益はどのくらいですか」と聞かれて、がっくりしました。後で皆さんと話してわかりましたよ。日本株に投資する人たちですから、日本の企業同士を比べなければならない。すると、そんな基準でアピールする会社はないので、比較できないんです。

――帝人はEBITDAを経営計画の目標に掲げていますね。

 M&A(合併・買収)をしょっちゅうやる会社は、経営指標として使います。企業買収をすると、発生するノレンの償却で営業利益が消されます。税引き前利益にノレンの償却費などを足したのがキャッシュですから、EBITDAで見た方がいいという言い方が、グローバルには通じます。

 競争という観点からは、基本的に他社との差別化が必須だと考えています。同じ土俵で闘うのならお相撲さんは2人でいい。3社も4社もプレーヤーが増えたら、自分は一番優位に立てる競技の場に移って行くのが大事だろうと思います。

 短距離走が得意な人、長距離走が得意な人、集団競技が得意な人と様々です。では帝人は?と尋ねられたら、十種競技のようなものです。オリンピックの競技種目で言えばね。その種目をやる選手は、100メートル走でも何でもそれなりに強いけれど、100メートル専門では1番にはなれない。だけど十種競技に勝てる場を見つけたのでしょう。

 相手と同じような実力があれば、同じ土俵でガチンコ勝負をする戦略もあります。しかし、それでも差別化は必要です。帝人は他よりもっと差別化できる要因をいっぱい抱えているわけですから、それらを生かして強い形を作ればいいんです。

 ヘルスケア(医療・医薬)からマテリアル(高機能素材)まで持っているのは、本当にいいポートフォリオです。その中でそれぞれがチャレンジしていくサイクルをうまくずらせば、実によく安定したポートフォリオ運営ができます。さらにすごく違う組み合わせで事業の融合を図れば、他の会社がやりにくいところに手を出せるはずで、大きな差別化になり得る。こう言うと格好いいでしょう。

――で、要するに何なのですか。

 十種競技です。1つだけじゃない帝人なんですよ。

――米国の3Mもいろんなことをやっている会社ですけど、独特の企業イメージを醸し出しています。

 そうですね。研究開発費の一定比率をアングラ研究に認めて、そこから新しい発想がいっぱい生まれるとか、格好いいですよね。

――3Mは何が本業なのかわかりませんが、特異な経営によってアイデンティティーを確立しています。帝人も、個性的な経営をやって行くということでしょうか。

 そこはむずかしいところです。帝人は真面目な会社で、人間的にいい人がそろっている。何事も誠実にきちんとやる、堅い人が多いんです。だけど、それだけでは駄目だよねと言って、もっとジャンプしたり、たまには冒険したりしなければと、過激な言葉を使い、過激なことを求める施策も講じています。

 うちの会社がどれだけ跳べるのか。それが活発にならないと、この先、生きていくのが辛いだろうなと思います。進化を考えたら、かなり柔軟な人たちがそれなりにいないと変わっていかないでしょう。世界がその方向にどんどん進んでいきますから、僕らは会社の空気とか風土を少しずつでも、そちらに向けて変えていかなければいけません。

――コロッと変われないですよね。

 一足飛びに変われないし、いい部分もあるわけです。帝人は誠実だと外から見ていただける点はたぶんそうなのでしょう。ですが、ジャンプする人がいないと駄目だし、まず試してみるという姿勢が必要です。成功するかしないか、みんながわからないときに、やっちゃうしかないんです。

 新しい事業の芽がいっぱい出る中で、今はどちらかと言えば、一生懸命引っ張り上げているのです。これは面白そうだとか、「この辺をやりたい」というのがあれば、おお、やれやれとね。本当は、こちらがあおられて、ちょっと待てと抑えるくらいがいいはずですが、まだそこまでいっていません。

 先が読めて、これだと確信を持てることなんてあり得ないですよ。だからいろいろ試すわけで、その中から当たりが出そうになったら、そこから先は怖いですがね。はっきりした自信がまだ無いときに、大きな判断をしなければならないからです。

――鈴木社長の時代に、帝人の社風を変えていこうということですか。

 会社自体の中身が変わりながら、社風が変わる。それで業績が上っていく。そうなると最高ですね。

(鈴木社長のインタビューは今回で終わりです)

■聞き手 森 一夫:「わが経営」を語る(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:4/24(月) 14:30
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