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イアン・ブレマー氏に聞く(下)/ トランプ氏は「最後に話した人」の意見に耳を傾ける

4/25(火) 16:00配信

ニュースソクラ

トランプ大統領罷免はありえない

 米フロリダで開かれた初の米中首脳会談をはじめ、米国のシリア攻撃、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル発射実験を受けた米国の空母派遣、政権内の権力闘争――。米トランプ大統領の「最初の100日間」の審判が下されつつあるなか、新たな問題が次々と浮上している。米政治学者、イアン・ブレマー氏に米中関係や欧州情勢について聞いた。(聞き手は肥田美佐子)

――トランプ政権は、出足からつまずいているようだが、メキシコ国境への壁建設計画、税制改革などの見通しは?

 税制改革についてだが、「国境調整税」などというものが登場するとは思ってもみなかった(注:共和党のポール・ライアン下院議長が主導する税制改革案の目玉で、貿易不均衡是正などのために、外国への輸出品に20%の補助金を与える一方、輸入品には同率の関税をかけるという案)。上院は支持しないだろう。

 また、米国はメキシコと貿易を続けたいのだから、北米自由貿易協定(NAFTA)を破棄するようなことはない。むしろNAFTAは拡大され、環太平洋経済連携協定(TPP)の合意内容の一部なども適用されるだろう。だが、問題は、NAFTAは米国とメキシコの二国間協定ではなく、カナダもかかわってくることだ。

――4月5日、バノン大統領首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外された。トランプ政権内部で、どのような対立が起こっているのか。また、今後、どうなりそうか。

 バノンは、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー大統領上級顧問とぶつかり、対中戦略でもシリア問題でも、意見が通らなかった(注:バノン氏がシリア攻撃に反対する一方、クシュナー氏は、対中関係の軟化やシリアへのミサイル攻撃を支持)。

 クシュナーとバノンの内輪もめは、イデオロギーの対立というよりも、政権内でのコントロールや影響力、大統領へのアクセスをめぐるものだ。今後、妥協に至らないとすれば、間違いなくクシュナーが勝つだろう。はたして、バノンが、どこまで持ちこたえられるか。スティーブン・ミラー大統領補佐官(政策担当)やセバスチャン・ゴーカ大統領補佐官など、バノンの息がかかったメンバーも多い。ジェフ・セッションズ法務長官の派閥のスタッフの多くも、持ちこたえられないだろう。

 また、政権内には、イデオロギー上のかい離も存在する。ピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)委員長のような強硬派と、ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長のようなニューヨーク出身のスタッフとの間にみられがちな違いだ。

 次に、能力的な問題もある。たとえば、K・T・マクファーランド大統領副補佐官(国家安全保障担当)のように、実力のない者が任命されたことで対立が生まれる場合だ。彼女はトランプに忠実だったため、政権入りをオファーされたが、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)からお荷物扱いされ、駐シンガポール大使として飛ばされることになった。明らかな左遷である。

 このように、トランプ政権には、能力、イデオロギー、内輪もめという3種類の対立の構図がみられる。

 だが、異なる見解を持った個性の強いスタッフが多いことは、(彼らにとって)まったく問題ではない。トランプ自身が仲裁に入るタイプではないし、政権内にも仲裁役はいないからだ。トランプはブリーフィング嫌いで知られ、「最後に話した人」の意見に耳を傾ける(注:ブリーフィングで得る情報よりも、個別にアクセスしてくる人の影響を受けると報じられている)。

 政権の機能不全レベルがこのままの状態でいくとは思えないが、今後も大きな変化が起こるのは間違いない。ちなみにクシュナーは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子兼国防大臣をほうふつさせる(若手の改革推進者だ)。

――日本では早くも、トランプ大統領が任期を全うできないリスクさえ論じられている。あなたは、彼が最後まで勤め上げると考えているそうだが、その根拠は何か。

 大統領の罷免は、法的なプロセスではなく、政治的プロセスだからだ。上下両院を支配する共和党がその気にならなければ無理だ。トランプの支持率は最低レベルだが、共和党の8割は彼を支持している。共和党は、トランプの下で上下両院を制していたいのだ。トランプの罷免は、共和党にとって政治的な自殺に等しい。

 (罷免の可能性などを報じる)主流メディアが反トランプであることを忘れてはいけない。彼らの見解は(リベラルに)偏っており、トランプがやることなすことを、罷免に値するものだと言いたくてウズウズしているのだ。しかし、そうはならない。罷免は現実的ではない。

――大統領自らが政権を投げ出す可能性は?

 ありえなくはない。トランプが、歴代大統領のなかで異例の人物であることは明らかだ。たとえば、トランプが個人的にロシアと共謀し、大統領選で勝てるよう画策したことが分かった場合など。現在、トランプ政権に対し、米連邦捜査局(FBI)が、その点を調査している。だが、仮に誰かが逮捕されたとしても、トランプが罷免されるような事態に陥るとは思えない。

――次は欧州の選挙についてだが、4月23日に最初の投票が予定されているフランスの大統領選挙、9月24日のドイツ総選挙をどう予測するか。3月半ばのオランダ総選挙では極右政党が伸び悩んだが、他の国でもそうなるのか。

 まず、目立ったポピュリスト(大衆迎合主義者)政党がないドイツでは、アンゲラ・メルケル首相の保守系与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)か、マーティン・シュルツ前欧州議会議長が率いる中道左派の社会民主党(SPD)が勝つだろう。シュルツ氏は、メルケル首相の上をいく親欧州連合(EU)派だ。ドイツの極右政党は、以前より支持を伸ばしているが、依然としてマイナーな存在だ。ドイツでは、米国や他の欧州諸国に比べ、中流層がはるかに恵まれた状況にあるからだ。

 一方、フランスでは、マリーヌ・ルペン極右国民戦線(FN)党首が、一部有権者から強固な支持を得ており、何があっても彼女に1票を入れるという人が20~25%に達している。トランプほどの支持率ではないが、(ポピュリスト人気の)ダイナミクスは似たようなものだ。ルペンが勝つ可能性はある。負けたとしても、彼女個人、そして同党への支持がかつてないほど伸びているのは確かだ。

 これは、長期的に見て、フランスにとって厄介な問題だ。FNが選挙で負けても、極右への根強い支持は残る。

――ブレグジット(英国のEU離脱)交渉の展開について、見立てを教えてほしい。先日、ソクラで、ロンドン在住のエコノミスト、ジム・オニール前政務事務次官にインタビューしたが(3月1日配信「むしろ驚きは、日米がAIIBに参加していないことだ」)、交渉の行方によるとしながらも、ブレグジットのリスクを強調していた。あなたも、そう思うか。

 もちろんだ。ブレグジットをささいなことだと考えるのは間違っている。まず、ルペンが勝てば、交渉は効果的に進まず、紛糾し、EUは瓦解に向かうだろう。ルペンが負ければ、長く、非常に不快なプロセスが続くだけだ。今のところ、テレサ・メイ英首相はよくやっているが、ブレグジットの方向性をめぐり、議会と折り合いがついていない。また、英国はEUに対して債務を抱えているが、欧州諸国は、英国からいくら返済してもらうかを決めていない。

 交渉プロセスは始まったばかりだが。これは、とどのつまり政治的プロセスであって、経済的プロセスではない。合意に達するのは至難の技だろう。不確実性に満ちた長い道のりになりそうだ。英国は、ブレグジットの結果として、大きな経済的痛みを味わうことになろう。それが心配だ。

■聞き手 肥田 美佐子(ジャーナリスト 在NY)
ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。「ニューズウィーク日本版」編集などを経て1997年、単身渡米。米広告代理店などに勤務後、独立。08年、ILO(国際労働機関)メディア賞受賞。米経済、大統領選など幅広く取材。現在、経済誌を中心に寄稿。カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカードCEO、ジム・オニール前・英財務省政務次官、シカゴ連銀副総裁、トム・リッジ元国土安全保障長官など、米(欧)識者への取材多数。

最終更新:4/25(火) 16:00
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