ここから本文です

アメリカ人はなぜトランプに投票したか? 映画『ノー・エスケープ 自由への国境』に見る“大衆の叫び”

4/25(火) 18:10配信

dmenu映画

今年1月25日、ドナルド・J・トランプは遂に、アメリカ=メキシコの国境に壁を作るという大統領令に署名した。移民の国、自由と夢の国だったはずの合衆国で、いま何が起きているのか。『ノー・エスケープ 自由への国境』(5月5日公開)は、トランプ政権下の現実を見つめた果敢なフィクションである。

【画像】「LOVE TRUMPS HATE」と書かれたTシャツを着た選挙当日のレディー・ガガ

ひとり自警団の「闇」

『ゼロ・グラビティ』で知られるアルフォンソ・キュアロン監督がプロデュースを手がけ、その息子ホナス・キュアロンが監督を務めた本作は、メキシコからアメリカへの不法入国を試みる16人の男女を、ひとりのハンターが次々に「狩る」様を追いかけていく。丸腰の人々を、銃を構えた男が淡々と射殺する。息子に逢うためにボーダーラインを突破した主人公は果たして逃げ切ることができるのか。広大な荒野が密室に思えてくる緊迫のサスペンスだ。

ハンターの正体は不明だ。彼の真意が語られることはない。自警団を組んでいるわけではなく、彼は彼ひとりの信念だけでこうした暴挙を行っている。相棒である犬をこよなく愛する彼は一見、どこにでもいそうなアメリカのタフガイだ。ただ、ひどく孤独で、どうにもならない闇を抱えているように思える。

国を守る=自分を守る

俺の人生、どうしてこうなった? 劇中で吐露されるわけではないが、そんな素朴な叫びが行動の発端になっていることは間違いない。おそらく移民を完全排除することで、男はギリギリのプライドを守ろうとしているのだろう。つまり、「国を守る」という大義名分を「自分の人生を守る」というエゴイズムに無理矢理つなげている。不法だからといって殺していいはずがないことはわかっている。だが、そうせずにはいられない。底なしの絶望が、一大殺戮の情景から浮かび上がってくる。徒党を組まず、たったひとりで凶行に及んでいるからこそ、行き場のない怒りがダイレクトに伝わってくる。

言うまでもなくトランプは「選ばれて」大統領になった。では、「誰」が投票したのか? この映画はそのことを考えさせる。極端なかたちではあるが、大衆心理のサンプルのひとつ、と言えなくもない。

どうにか生きのびるためにアメリカに逃げ込む移民がいる一方、生まれた自分の国で苦境にあえぎ、思うように生きられない者たちがいる。どうにもならない彼らの魂もまた「移民」のような状態。この映画は決して、加害者に加担しているわけではないが、アメリカの現状に特異なかたちでスポットを当てた痛烈な一作だ。

(文/相田冬二@アドバンスワークス)

最終更新:4/25(火) 18:10
dmenu映画