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漫画家の“聖地”誕生 空き家をシェア、移住続々 花で景観交流加速 山口県周南市

4/26(水) 7:01配信

日本農業新聞

 景観を守ろうと農家が植えたシバザクラをきっかけに、山口県周南市大道理地区に若い漫画家の卵らが移住し、地域に活気をもたらしている。シバザクラのデザインを地元のデザイン専門学校に依頼したことを契機に、空き家を利用した“周南版トキワ荘”が誕生。毎年4万人が訪れる観光名所となった同地区に、農家と若者の新たな交流が生まれた。

きっかけはシバザクラ

 シバザクラは2008年、草刈りの手間をなくそうと、3年かけて地元農家でつくる百姓倶楽部(くらぶ)が植え付けた。圃場(ほじょう)整備で急斜面の畦畔(けいはん)面積が増え、高齢者が機械を持って草を刈るのは大変な作業だった。どうにかしようと防草シートを張ろうとしたが、井上正幸さん(73)が「真っ黒なシートは農村の景観を台無しにしてしまう。花の色が多いシバザクラを植えよう」と発案し、倶楽部結成を呼び掛けた。

 農家6戸で苗を増やし始め、植えたシバザクラは10万本。マスコミに取り上げられるようになり、開花期の1カ月間で全国から4万人の観光客が訪れるようになった。

 経費のほとんどを補助金などに頼らず自分たちで賄っていたが、観光客から「お金を支払いたい」との申し出が相次いだことから、現在は緑化協力金として1人200円の寄付を受け取る。

 シバザクラの植栽を発端に「地区を良くしていこう」という機運が高まり、会員も21人に増加。高齢者サロンや、市から受託した乗り合いタクシー事業、便利屋事業、空き家対策などにも取り組みが広まった。

“日常”描きデビューも

 昨年4月、「集中して漫画が描ける」環境を求めて、プロを目指す若者6人が移住してきた。

 6、7色あるシバザクラを植える際、「自分たちでは適当なデザインになってしまう。若い人が考えれば、将来につながるデザインになるのではないか」(井上さん)と、市内のYICキャリアデザイン専門学校に依頼。その縁で、毎年交流会を開くようになった。生徒は地区を題材にした漫画やイラストを描き、地元との関係を深めた。

 生徒6人の他、講師を務める樹本ふみきよさん(63)も移住してきた。樹本さんは「若者が地区に入ってきてもいいよ、という雰囲気があった。都会より生活費がかからず、制作時間も十分取れる」と、プロを目指すのに適した環境と喜ぶ。

 空き家5戸に分かれ、1戸月1万円で借りる。切戸章平さん(26)は「生活に不安はなかったが、雨漏りやインターネット環境が悪く始めは大変だった。でも地域の人に声を掛けてもらったり野菜を分けてもらったりと、助けてもらっている」と感謝する。野菜作りも始め地域になじんできた。

 この中の一人、矢尾聡一朗さん(21)が1月、インターネットのコミックサイト「コミカワ」(主婦の友社)で、移住生活の日常や苦労を描いた漫画「漫画家になりたくて男女6人農村暮らしはじめました」でデビュー。6月に単行本が発売される予定だ。「漫画家は孤独になりがちだけど、一緒に暮らすことで競争心も芽生える。地区の人が応援してくれる環境で頑張れる」と意欲を燃やす。

 4月にはさらに仲間が1人増えた。井上さんは「地域の祭りにも積極的に協力してくれ、地域全体に活気が出た。地域が若返り、素晴らしいことだ」と、花を通した世代を超えた交流を喜ぶ。(柳沼志帆)

日本農業新聞

最終更新:5/1(月) 17:16
日本農業新聞