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【漢字トリビア】「蝶」の成り立ち物語

4/30(日) 11:30配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「蝶」。彼らはひらりと風にのり、新たな季節の始まりを告げにやってきます。

「蝶」という字は虫へんに「世界」の「世」、その下に「木」と書きます。
「世」は、分かれた木の枝に芽が出ている様子を描いた象形文字。
その枝の先についている葉っぱのことを意味するという説もあります。
枝先についた薄い葉っぱを見たいにしえの人は、その美しい昆虫がもつ薄い翅(はね)を連想し、虫へんをあわせて「蝶」という漢字を作り出したのです。
「コノハチョウ」は、その名のとおり木の葉にそっくりの翅をもつ蝶。
光沢のある藍色の地に、橙色と黒の帯が入って目立つ姿をしていますが、ひとたび翅を閉じれば、その裏側は枯れた木の葉のような色をしています。
葉脈のような筋やカビの模様まで、木の葉そっくりのその翅は、天敵である鳥の目を欺くしたたかさを備えているのです。

春の光を集めて花から花へ、自由に舞う蝶。
その優美な姿に人々が重ねて見たものはさまざまです。
中国では「チョウ」という音が「長命・長寿」の「長(チョウ)」と同じことから、延命・長寿を願う吉祥文様として使われました。
ギリシャ語で蝶は「psyche(プシュケー)」といいますが、これは「psychic(サイキック)」、心霊の、霊魂の、という意味をもつ英語の語源。
蝶は亡くなった人の霊を運ぶとされてきました。
あの世とこの世を行き交う蝶は、キリスト教では命の復活を、仏教では輪廻転生をイメージさせるもの。
アメリカ先住民たちにとっての蝶は、神のもとへ願いを届ける使者でした。

ではここで、もう一度「蝶」という字を感じてみてください。

中国の戦国時代中期に活躍した思想家・荘子。
彼は「胡蝶の夢」という有名な寓話を残しています。
うたた寝をしていた荘子は、自らが蝶となってひらひら飛びめぐる夢をみます。
夢から目覚めたとき、自分が夢の中で蝶になっていたのだろうか、それとも、荘子である今のこの状況が、蝶の見ている夢なのではないか……、そんな自問を経て、ひとつの答えを導きだすのです。
夢と現(うつつ)、生と死、人も蝶も、つまりはすべてひと続き。
「無」から万物は生まれるのだから、みな斉しい存在だという荘子の教えです。
そう気づくことで、世の中の常識から解き放たれ、人は自由になれるといいます。
雑事に追われる日常をひと休みして、思い切って別の自分を生きてみる……、今年の連休こそ、そんな「胡蝶の夢」を存分に楽しめますように。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 春』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)
『NHK「100分de名著」ブックス 荘子』(玄侑宗久/著 NHK出版)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2017年4月29日放送より)

最終更新:4/30(日) 11:30
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