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スパルタ塾の「人に勝つための勉強」は?

5/4(木) 12:01配信

ベネッセ 教育情報サイト

教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。

【質問】
夫が長男について「競争心がない。自分に自信もない。自信をつけさせなければ」と言い出し、スパルタ塾に入れようとしています。その塾ではテストの成績順に入る教室が決まり、席の並び方も成績順です。教室には「勝ち上がれ」「負けていいのか」などの紙が貼ってあり、子どもたちの会話も「この前は○○君に勝ったけど、今度は負けた」という話ばかりです。私が「成績が悪いと劣等感の塊になるのでは?」と言うと、夫は「うちの子は頭がいいから大丈夫。友達に勝つことで自信がつくはず。学力も上がる」と言います。

相談者・かつおわかめ さん (小学5年生 男子)

【親野先生のアドバイス】

かつおわかめさん、拝読しました。

子どもに自信をつけさせたいという気持ちはよくわかります。それはとても大切なことですね。でも、肝心なのは自信のつけさせ方です。

スパルタ塾に入れて勝ち負けの中で勉強させれば、一時的には成果が出て学力が上がるかもしれません。でも、勝ち負け最優先の中で人よりよくできることや人に勝つことばかり意識させていると、大事なところで道を誤ることになります。

もちろん競争や勝ち負けのすべてを否定するわけではありませんが、いきすぎると、子どもの人生の土台になる大切な価値観をゆがめることになります。

まず言えることは、人よりよくできなかったり負けが重なったりすれば、当然のことながら劣等感を持つようになるということです。ご心配のように劣等感の塊になるということもあり得るわけです。

では、その反対になればいいのでしょうか?
つまり、たくさん勝つことで優越感を持てるようになればそれでいいのでしょうか?

答はノーで、このような優越感によって得た自信は、実はとても危険な一面を持っているのです。というのも、優越感の裏返しは劣等感であり、優越感によって自我を保っている人はちょっと油断してすぐに劣等感に襲われるのが怖くてたまらないのです。それで、常に優越感を持っていたいと思うようになります。

ですから、そういう人は、自分より下の人たちの前では必要以上に威張るようになります。反対に、自分より上の人たちの前では強烈な劣等感に襲われ卑屈になります。意識の中には、常に「勝ち・負け」「できる・できない」「強い・弱い」「上・下」「権力がある・ない」などの二分法があり、それがすべての判断の基準になってしまっているのです。

こういう人は大人の職場でもよくいます。
上に弱く下に強い。強いものにへつらい弱いものに威張る。権力に弱くて自分も権力的な立場に立ちたがる。やたらに縦の関係(上下関係)にこだわる。
実は、友達をいじめる子もこれと同じ精神構造です。優越感を持って自我を保つためにいじめるのです。

このようなわけで、自信のつけさせ方を誤らないようにしてください。子どもに自信をつけさせるうえで一番大事なのは、親がありのままの子どもを受け入れてあげることです。すると、子どももありのままの自分を受け入れられるようになり、自分に自信を持てるようになります。
これが自分への基本的信頼感といわれるものです。これがある子は、生きる力やがんばるエネルギーが自然に湧いてきます。

「○○がよくできるから、勉強がよくできるから、人より優れているから」ということで親が受け入れてくれているわけではありません。それは無条件かつ絶対的な受容です。
ですから、子どもも「○○がよくできるから、勉強がよくできるから、人より優れているから」ということで自信を持つようになるわけではありません。
そんな根拠はないけれど、とにかく自分という存在そのものに自信が持てるのであり、これが「根拠のない自信」といわれるものです。

このように、親がありのままの自分を受け入れてくれると、自分への基本的信頼感(根拠のない自信)が持てるのですが、同時に親の愛情が実感できるので親に対する基本的信頼感も持てるようになります。そして、親を信頼できる子は他者一般も信頼できるようになります。これが他者信頼感であり、これがある人はよい人間関係が築けるようになります。

親がありのままの子どもを受け入れずに、「○○しなきゃダメでしょ。なんで○○しないの。何度言ったらできるの」「もっとがんばらなきゃ勝てないよ。負けてばかりじゃダメでしょ」などと叱り続けると、どうなるでしょう?
当然、子どもは自分はダメな子だと思い込むようになります。自分への基本的信頼感が持てなくなり、生きる力もがんばるエネルギーも湧いてきません。
親への基本的信頼感も持てなくなるので、必要以上に反抗的になります。また、親への不信感が他者不信感につながり、周囲とよい人間関係を築くのも難しくなります。

ということで、自信のつけさせ方を誤らないでください。一時的な成果ばかりに目を向けないで、子どもの長い人生の大切な土台をどうつくるか考えてください。

私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。

(筆者:親野智可等)

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