ここから本文です

北限のイ草 俺が守らないと たった一人の生産者 6次化に情熱 石川県小松市

5/4(木) 7:02配信

日本農業新聞

 550年続く産地の行く末は、一人の農家に託されている。イ草栽培の日本最北端とされる石川県小松市の「小松イ草」唯一の生産者、宮本健一さん(29)だ。伝統をつなぐため、畳店、生花店などと多彩な業種と連携し、需要開拓に取り組み、生け花や正月飾りなどに活用する商品開発につながった。産地の存続に情熱を燃やす。

 雪国の寒さに鍛えられた小松イ草で織られた「小松畳」は、耐光性に優れ、何十年たっても丈夫なのが特徴。戦後は1400戸のイ草農家がいたが、住宅様式の変化や輸入物の増加から激減。1年半前に宮本さん一人になった。

 実家の「宮本農産」は米17.5ヘクタールとイ草70アールを栽培する。25歳でUターン就農した宮本さんは当初、イ草への思い入れはなかったという。だが、「自分がやらなければ伝統が途絶えてしまう」との危機感が芽生えた。

家具や生花店地元商店と連携 次々と直談判

 宮本さんは畳店、家具店などと連携して進めていた「小松イ草拡大プロジェクト」の話し合いに参加した。プロジェクトは農商工連携により、異業種が集まってさまざまなイ草の用途を発案するもの。

 参加した宮本さんは「イ草を守り発信したい」と願う仲間の思いを知り、さらにイ草への思いを強くし、「まず地元の人にイ草の魅力を伝えたい」と考えるようになった。

 畳表を作るという本来の仕事への軸足は変えず、東京・六本木の生花店と連携し正月のディスプレーを作ったり、結婚式でイ草を飾ったりと新たな活用法を提案。この他、地元の生花店と連携したフラワーアートや生け花向けに活用したり、地元の高齢者に協力してもらい、イ草で縄を作るなどアイデアを凝らす。

 どれも自ら異業種の企業や住民らに直談判して人脈を広げていった。行政や畳店などとも連携し、イ草のテーブルマットなどの商品化やイ草の生産工程を記した展示会も積極的に開く。

共感 力に換えて

 農作業と並行しての、他の経営者との連携は忙しかった。「一人でイ草の6次産業化を仕掛けた方がスピードが早いし、もうかるかもしれない。だが、いろいろな人とつながって、『頑張ってね』と声を掛けてもらうことが励みになった」と宮本さんは明かす。

 宮本さんにはたくさんの応援団がいる。市内のオリジナル家具工房「生活アート工房」を経営する南出謹七さん(57)は、宮本さんが生産したイ草で畳のベッドを作る。南出さんは「希少価値で高品質な小松イ草は魅力があり、本物志向の顧客から根強い人気がある。若い健一さんが働き掛けることで、ますます小松イ草の発信力が増す」と期待する。

 同市のフラワーデザイナー、東野健一さん(43)は、3年前、宮本さんの“飛び込み営業”をきっかけに、イ草の花飾りを売り出すようになった。東野さんは「農家が飛び込み営業する熱意に驚いた。デザインも香りも楽しめるので可能性を一緒に切り開きたい」と意気込む。 

 宮本さんは「一人だからこそ地域で独り勝ちするより、いろいろな人と共感し合うことがイ草産地の力になる。小松イ草を知らない同世代が多いから、地元に愛されるようなイ草を作っていく」と先を見据える。

日本農業新聞

最終更新:5/4(木) 7:02
日本農業新聞