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「塩熱飴」がケタ違いに売れた秘密

ITmedia ビジネスオンライン 5/5(金) 8:25配信

 春まっただ中の4月18日に群馬県高崎市、4月30日に兵庫県豊岡市、鳥取県鳥取市、同倉吉市で最高気温が30度を突破し真夏日に。このままだと、今年の夏も猛暑になりそうだ。

【現在発売中の「塩熱飴」シリーズ】

 猛暑で心配になるのが、熱中症である。熱中症予防で活用したいのが、塩分補給を目的とした飴。最近では各社から塩味の飴が発売されているが、このきっかけをつくったといってもいいのが、ミドリ安全の「塩熱飴(えんねつあめ)」シリーズである。

 塩熱飴シリーズは2008年5月から発売。汗をかくことで失われるナトリウム、カリウム、マグネシウムといった電解質(塩分)を補給する。一粒につきコップ1杯分の水(100ミリリットル)と一緒に摂ることによって、失われた水分と電解質の両方が補える。現在、5種類をラインアップ。これまでにシリーズ累計1000万袋(1袋80グラムとして累計販売総量に換算)を販売してきた。

●求められていた、手軽に持ち歩ける熱中症対策品

 ミドリ安全が2015年に行った熱中症の実態調査によると、36.0%が「自分自身が熱中症になったことがある」、57.8%が「自分自身もしくは家族・友人・同僚が熱中症になったことがある」と回答している。熱中症は一人ひとりが気をつけると同時に、企業も就業時間中に社員が倒れないように配慮すべきだといってもいい。

 しかし、ミドリ安全といえば、安全靴、ワーキングウェア、ヘルメット、ゴーグルや手袋などの安全衛生保護具のトップメーカー。そんな同社がなぜ、塩熱飴をつくったのか。実は、同社では長年にわたり、企業の熱中症対策を支援しており、塩熱飴の開発はその末にたどり着いたことであった。

 「私たちのお客さまの中心である製造業の工場では、かつては塩をなめたり梅干しを食べることで塩分を補給し、熱中症予防に努めていましたが、時代が進むにつれて、衛生面や健康管理面からこうした対処法がやや問題視されるようになりました。そこで当社は、2002年ころから大塚製薬のポカリスエットを仕入れ、販売を始めました。ただ、販売を始めると、屋外で働くお客さまにはポカリスエットは持ち歩くのが不便なことが分かりました。屋外で働く人にも使いやすい、手軽に持ち歩ける熱中症対策品のニーズが見えてきたのです」

 このように話すのは、取締役セフティ&ヘルス統括部 統括部長の安田一成氏。ポカリスエットよりも手軽に電解質と水分が補給できるものの提供を模索するようになったミドリ安全は、このとき、防災用品の1つとして取り扱っていた水に注目する。仕入れ先の1つである五洲薬品(富山県富山市)から海洋深層水を仕入れていたが、五洲薬品が塩も扱っていたことと、同社の社員が五洲薬品の工場を見学した際、ここなら手軽に持ち歩ける熱中症対策商品の共同開発が可能だと判断できたことから、同社は五洲薬品に塩熱飴の共同開発を提案した。

●塩熱飴は嗜好品ではない

 塩熱飴は電解質を補給するための飴なので、ナトリウムやカリウム、マグネシウムなどは必要量を配合することになるが、栄養バランスを考え、ビタミン類も配合することにした。五洲薬品が持つノウハウを生かしながら、栄養バランスを決めていった。

 しかし、「塩味はなめ続けるのがかなり辛い」と安田氏。そこでクエン酸を加え、味もレモンにした。飽きの来ない味にすることで、最後までなめ続けることができるように工夫した。

 ただ悩ましかったのが、嗜好(しこう)品とは位置付けしにくいこと。塩熱飴は夏になったら毎日摂取する、いわば薬のようなもので、おいしいからといって立て続けに摂取するものでもない。「良薬口に苦し」ではないが、「効きそうだ」と感じてもらえるようにすることも必要だった。

 塩熱飴を嗜好品とは明確に分けることにしたのは、オーナーである松村不二夫社長の意向。フレーバーをレモンのみにしたのも、嗜好品と位置付けないためであった。これにより、フレーバーは長らく、レモンだけで展開することとした。

●初年度は飛ぶように売れ、50トン生産

 こうして塩熱飴は完成する。自社ブランドでは初の食品だったこともあり、「お客さまがどう評価するか分からなかった」と安田氏。そのため、生産も慎重で、最初の生産指示は500キログラムと控え目だった。

 しかし、心配は杞憂(きゆう)に終わる。発売したところ、飛ぶように売れていった。追加の生産指示が1トン、2トンと徐々に増え、2008年度の生産量は実に50トンに達した。飴は年間2トン生産すれば「売れている」と言われているので、塩熱飴の売れ行きがいかにケタ違いなものだったかが理解できよう。

 それにしても、ミドリ安全はなぜ、これほど売ることができたのか? その理由は営業スタイルにあった。同社の営業は基本的に、企業への直販。全国各地に配属された営業マンが、顧客企業に直接、塩熱飴を売って歩いた。安全靴やヘルメットなどの販売を通じて、エンドユーザーとつながっていたことから、できたことであった。

●エンドユーザーのニーズからラインアップを拡大

 その後、ミドリ安全は塩熱飴のラインアップを拡大していく。

 まず2009年3月に、「塩熱飴スポーツ」を発売。スポーツする際にも電解質補給のニーズがあることから開発し、塩熱飴より塩気を抑えた。

 2010年4月に発売された「塩熱サプリ」は、クイックチャージできるようタブレットにした。「なめ終わるまでに時間がかかるので、早く摂りたいというお客さまのニーズに対応したもの」(セフティ&ヘルス統括部環境用品営業部 菊地章悦氏)だという。

 2013年3月には「塩熱グミ」と「塩熱飴アミノプラス」が発売された。塩熱グミは、海外ではサプリメントがグミの形式で提供されていることが多いことをヒントに開発。塩熱飴アミノプラスは、スポーツ時に利用しているユーザーから、体をつくるためにアミノ酸を摂取したいというニーズがあることから開発した。

 2015年4月に発売された「経口補水塩熱飴」は、経口補水液を持ち運びやすくしたもののニーズが確認できたことを受けて開発された。2016年4月には「塩熱サプリくちどけ」を追加。口の中でスーッと溶けるラムネのような食感が特徴で、食べやすさを追求した。「塩熱飴は、個人ではマラソンをされる方によく利用していただいていますが、フルマラソンだと、後半になると疲労困憊(こんぱい)し、サプリでも噛み砕くのがしんどいです。こういう意見から、より食べやすいものとして開発しました」と菊地氏は言う。

 また、経口補水塩熱飴までは、フレーバーをレモンのみとし、飴、タブレット、グミと食感の違いでバリエーションを増やしたが、「レモン以外のフレーバーが欲しい」という声を受け、塩熱サプリくちどけでは一袋にレモンジンジャー、青リンゴジンジャー、グレープジンジャーの3種を封入。食感だけでなくフレーバーでもバリエーションを増やし、さらに飽きずに摂取し続けられるようにした。

 そして2017年3月に、「塩熱飴PRO」が発売される。塩熱飴、塩熱飴スポーツ、塩熱飴アミノプラスの3種を統合、リニューアルしたもので、電解質やビタミンといった成分にこだわって開発したことを伝えるために、PROと名付けた。一袋にレモン、ウメ、アセロラの3種のフレーバーを封入。試作段階では30種類ほどのフレーバーをテストしたという。

●これからも、働く人のためのプロ商品でありたい

 塩熱飴はネット通販をはじめ、一部のスポーツショップやホームセンターでも販売されており、個人でも簡単に購入できる。販路の整備と同時に、ミドリ安全は個人ユーザー向けの啓蒙(けいもう)も怠らなかった。東京マラソンのような国内の主要なマラソン大会に協賛し、ランナー塩熱飴シリーズを供給しているほか、マラソン雑誌『ランナーズ』にも定期的に広告を出稿しているという。

 個人ユーザーでも購入できるものの、安田氏は「これからも、働く人のためのプロ商品として提供していきたい」と話す。販路についてはコンビニなど大量に売るためのルートを検討したこともあったが、大量に売ることよりも必要としている人に確実に届けることを重視した。

 ただ、塩分補給をウリにした飴が増えたことに加え、製造業のみならずサービス産業のユーザーにも広がったことで、「市場はやや飽和状態になりつつある」と安田氏。塩熱飴シリーズの年間売上は現在、4億円ほどだが、さらに拡大するためには、エンドユーザーから新たなニーズをくみ取り、素早く新商品で対応することにかかっているといえそうだ。

(大澤裕司)

最終更新:5/5(金) 10:35

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