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韓国、日米に厳しい文候補が大統領に王手

5/5(金) 13:10配信

ニュースソクラ

北朝鮮問題、多国間外交による解決を主張

 韓国大統領選挙(5月9日投開票)で、左派系最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補が、中道左派の第2野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)候補を支持率で大きく引き離し、大統領の席を手中に収めつつある。文候補は、日本に厳しい姿勢とされるが、実は米国にも「ノーという」(文氏)と発言している。北朝鮮情勢が緊迫化するなか文氏が大統領となれば、トランプ米政権との対立をもたらすとの懸念が出ている。

 韓国では、連日メディアが行う公開討論が開かれており、候補者同士が激しい討論を展開している。その結果が、世論調査に反映しているが、目立つのは安候補の支持率の急落だ。

 一時、支持率で文候補を逆転していたものの、ここにきて10ポイントも急落し20%台で低迷している。安候補に流れていた保守票が、北朝鮮に徹底して厳しい姿勢を取る保守系候補に戻ったため、と分析されている。

 各候補の政策の中心は実は経済対策だ。ただ、最近の情勢を反映して公開討論では北朝鮮政策で真っ向からぶつかっている。

 23日の公開討論で文候補は、「多国間外交」による問題解決を主張し、「北朝鮮の核を完全に廃棄させ、南北関係を平和でともに繁栄する関係に大転換させる」と主張した。

 これに対し、安候補は「今は制裁の局面であり、制裁を強化したあと交渉の局面が来る。米国との同盟関係を強化したうえで、中国に北への制裁に加わるよう求める」と、まず米国と歩調を合わせた制裁の必要性を訴えた。

 一方、韓国保守系第1党である自由韓国党(旧与党セヌリ党)洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補は、北朝鮮の脅威に対抗するためには、ミサイル迎撃用のTHAAD (サード=終末高高度防衛)の即時配備が必要だとし、韓国内への戦術核配備に賛成している。さらに南北共同経済活動である「開城工団再開」にも反対するなど、「反北朝鮮、親米路線」で徹底している。

 25日の公開討論は、北朝鮮をめぐる状況をもたらせたのはどの政権なのかで、激しい論戦となった。

 洪候補は、現在の状況は「金大中、盧武鉉政権が70億ドル以上を北に与えたため生まれた」と、歴代左派系政権の責任だと批判した。

 これに対して、文候補は、「朴槿恵前大統領と李明博元大統領の時は安全保障に無能なため、北の核を兵器にまで発展させ、長距離弾道ミサイルに搭載できるほど高度化させた」と、過去9年間の保守政権の無策ぶりを指摘し、真っ向から対立した。安候補は、この対立の中で、自分の存在をアピールできなかった。

 文候補は、米国に対しても言うべき事は言うというスタンスだ。これは、自分が側近として仕えた盧武鉉元大統領の姿勢とよく似ている。盧氏は、米国の求めに応じてアフガン、イラクへの派兵を行う一方、朝鮮半島有事の際に、米軍が作戦の主導権を握る「戦時作戦統制権」を韓国に返すよう、当時のブッシュ大統領に強く求め、関係が悪化した。

 この「統制権」は、朝鮮戦争(1950~53年)の際に、まだ軍の装備や兵士の訓練面で劣っていた韓国側の申し出により、米軍に渡されたもので、韓国内で返還時期をめぐる論議が続いている。

 文候補は、「米国の要求にもノーと言える外交が必要だ」と述べ、米紙ニューヨークタイムズに大きく引用報道されたことがある。さらに最近の公開討論でも、「アメリカとの同盟は重視するが、朝鮮半島の問題は韓国が主導するべきだ」と述べ、米韓の同盟関係を土台としつつも、独自の北朝鮮政策を行う考えを示している。こういった、「反米、親北朝鮮」とも見える姿勢は、文候補の両親が、現在の北朝鮮出身なことも反映しているようだ。

 韓国では、すでに文候補の当選を念頭に、「文氏の人生や哲学を紹介する記事や、番組の制作が始まっている」(韓国のメディア関係者)といい、各省庁も水面下で準備を進めているという。

 文候補は当選後、かつて中国を議長国として行われていた6カ国協議のような多国間協議の実施や、南北対話の再開。中断している「開城工団」の再開などに取り組むと思われる。さらに、自分の任期内に盧武鉉大統領ができなかった戦時作戦統制権の返還も求めるだろう。

 一方のトランプ米政権は、26日ホワイトハウスに上院議員全員を集め、北朝鮮に対し経済制裁を軸として、外交的な問題解決を目指す方針を説明した。対話よりも力による平和の実現が基調にあり、韓国新大統領との摩擦は避けられそうにない。韓国との関係改善が課題の日本も、難しい対応を迫られる場面が増えそうだ。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にした。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:5/5(金) 13:10
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