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無職でホームレス。そんな男が何千人もの人をHIV感染から救った

5/5(金) 12:05配信

BuzzFeed Japan

2016年、イギリスでは新たな方法の普及によってHIV感染者数が激減した。その立役者であるグレッグ・オーウェンは医師でも政治家でもなく、元セックスワーカーのホームレスで、現在は失業者だ。オーウェンはなぜこのようなことをやってのけたのか。BuzzFeed Newsは独占取材でオーウェンにその体験を語ってもらった。
【Patrick Strudwick / BuzzFeed Japan】

その人の物語を知れば憎しみはなくなる。裸の肖像に込められた思いとは

2016年、クリスマスの数日前のこと。かかってきた電話は、それまで誰も予想できなかったような内容だった。

シーナ・マコーマック教授は、HIVウィルスを追跡し、それと闘うことに生涯を捧げてきた疫学者であり、世界でもっとも高い評価を受けるHIV専門医だ。マコーマック教授はその日、電話の相手に対して、トップニュース級のメッセージを伝えた。この12カ月間で、HIV感染症の診断を受ける男性同性愛者の数が40パーセント、イングランド全域では3分の1も減ったという知らせだ。

HIVウィルスが発見されてから35年以上が経つが、これほど大幅に減るのは異例のことだ。このあまりにも大きい数字は、医学界では驚きを通り越して虚偽にさえ見えてしまう。だが、この数字は本当だった。

この物語の背景には、秘密裏に何度か行われた会合と、人々のネットワークがあった。その中心にいたのは、ある男性だ。医学の歴史が変わった陰には、人知れず彼の力があった。男の名はグレッグ・オーウェン。彼こそがマコーマック教授の電話の相手だった。彼の物語が余すところなく語られるのは、今日が初めてだ。

オーウェンは、BuzzFeed Newsのオフィス内にある、音が反響する会議室で椅子に腰を下ろし、そのときの会話を回想した──その電話でマコーマック教授が彼に本当に伝えたかったことを。

「彼女はこう言った。『パーセンテージは気にしないで。この事実を別の角度から見てほしい。今年、あなたのおかげでHIVに感染せずに済んだ人が何千人もいるんですよ』」

オーウェンは涙をこらえきれなかった。電話のあとも毎日泣いていたという。

「役に立つことをしているという実感はあったけど、具体的にはわかっていませんでした。最高の気分です。僕と同じ立場にいる人たちが一体どれだけ、同じことをすると思いますか?」

この前例のない功績をマコーマック教授から認められた彼は、医師仲間でもなければ、チャリティの代表者でもなければ、政治家でもない。オーウェンは元セックスワーカーのホームレスで、現在は失業者だ。

彼がやってのけたこと、そして、その理由はあまりに突飛であるため、ロン・ウッドルーフが引き合いに出されるのは当然の帰結だろう。映画『ダラス・バイヤーズクラブ』でマシュー・マコノヒーが演じたロン・ウッドルーフは、実在のエイズ患者で、1980年代のアメリカでエイズに苦しんでいた人々のために未承認の抗HIV薬を密輸した。

二人の違いは、ウッドルーフの場合は悲劇に終わった法外な物語だったが、オーウェンの場合は、悲劇の物語が、法外ですばらしい成功に終わったという点だ。

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最終更新:5/5(金) 12:50
BuzzFeed Japan