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ハイレゾプレーヤー「CurioSound」でCDスペック音源が復活する話

アスキー 5/6(土) 15:00配信

デジオンのハイレゾプレーヤーソフト「CurioSound」に搭載されたアップサンプリング機能をCDスペック音源で試してみた。これはスゴイぞ、大量のCDライブラリーがよみがえる!
ニュースを書いている途中に懐かしい名前と遭遇
 デジオンというと、最近はDiXiMブランドのDLNA関連のアプリで名を馳せているソフトメーカーだが、その発端は社名にもなっている「DigiOn」シリーズのサウンド編集をはじめとした音声処理技術。僕はWindows XP時代の愛機だったソニー「VAIO MXS」シリーズにプリインストールされていた「DigiOnSound 2」で、波形編集の世界と共にその名を知った。タイル化されたエフェクトや編集ツールが右も左もわからない当時の自分にはとてもわかりやすく、以来10年以上にわたって波形編集は「Sound it!」でも「Sound Forge」でもなくDigiOnSoundを使い続けた。
 
 そんなデジオンの名に音楽ツールとして再会したのは、桜真っ盛りの4月上旬のこと。初心者向けのPCオーディオ用ハイレゾプレイヤーソフト「CurioSound」のリリースを発見したときに、僕の目はある一点に釘付けになった。
 
 いわく「CD音質の音源や圧縮音源をリアルタイムにハイレゾ相当の高音質で再生することを可能にしました」。単なるアップコンバートならば、ソニーの「DSEE」やJVCの「K2HD」をはじめとしたいくつかの技術が思いつくが、このソフトが素晴らしいのはアップコンバートをファイルに出力できるという点。
 
 つまり、昔せっせとリッピングして、ハイレゾ音源とともにめっきり再生機会が減ってしまった音源が、簡単操作でハイレゾになるということを意味する。「これはかなり可能性を感じるぞ」そんなことを思いながら、編集部から帰ってきたその日の夜にソフトをポチっていた。
 

聴きたい音源が必ずハイレゾ化されるとは限らない
 ワクワクしながら音楽再生ソフトをインストールする春の夜ふけ、なんとも乙なものだ(倒錯)。別段特殊な設定もなく、あっさりとセットアップを終了し、早速ソフトを立ち上げてみる。
 
 “初心者向け”と言うだけあって、細かな設定はあまりない。オーディオチックな部分といえば、再生デバイス/WASAPIの指定、エフェクトやイコライザーの調整くらいだろうか。なにせ基本は画面左のライブラリーツリーから音源をダブルクリックして再生するだけ。PC用ハイレゾプレイヤーではもはや当たり前とも言うべきASIOさえ、この文章を執筆している時点では対応しない。
 
 OS標準搭載のWindows Media Player並のシンプルさからは、基本的な対象ユーザーが「パソコンで簡単にいい音を聞きたい」というビギナー層であり、DigiOnシリーズの初心者に対する優しさを感じた。
 
 しかし、僕が感じたこのソフトの真価は簡単操作ではない。僕のライブラリーには最近めっきり聴かなくなった数千の非ハイレゾ音源があり、その多くに音楽との思い出が詰まっている。かつて聴いたCDを今もう一度聴き直したいという願いは、ハイレゾバーションの音源を買ってしまえばそれでいいが、残念ながらすべてを買い直せるわけではない。特に1990年代のJ-Popや少々マイナーなCDなどは、様々な事情でハイレゾ販売できない。
 
 それでもハイレゾで聴きたいという願いを叶えてくれるのが「ハイレゾサウンドで聴く」というトグルスイッチだ。基礎技術は最新のDigiOnSound Xにも搭載されているもので、デジオンはコレをさらに進化させ「CQe」という技術にまとめ上げてCurioSoundに採用した。
 
 音を聴く前に、まずハイレゾ書き出しを試してみる。使い方は事前に環境設定画面で保存場所を指定しておき、ライブラリーから目的の曲を選択してプレイリスト上部にある「ハイレゾで保存する」を押すだけ。細かいパラメーターの調整などは必要ない。
 
 ソフトのコンセプトどおり実に簡単だが、変換時間は少々余裕を見ていた方がいい。Core i5と16GBのメモリーを搭載した僕のVAIO Zでは、CD1枚分の音源を変換するのにざっと25分かかった。加えてファイルはフォルダでまとめられたりはしないため、音源をまとめるのは手作業となり、夜中に走らせておいて全ライブラリーをまとめて一気にハイレゾ化といったことは現実的ではない。このあたりはソフトのアップデートで便利になってもらいたいところだ。
 
90年代後半のJ-RockときんモザのEDテーマの原曲を聴いてみる
 では実際の音を聴いていきたい。リファレンス環境は常用しているVAIO Z(Core i5/16GBメモリー)で、DACにはAK380、イヤフォンはラディウスの「ドブルベ ヌメロ4」に純正のバランスケーブルをあわせた。用意した音源は下記のラインアップで、フォーマットはいずれも44.1kHz/16bit。ハイレゾ音源はレビューの対象外としている。CD音源を聴き直すという趣旨をご理解いただければ幸いだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 北海道出身の4人組ロックバンドGLAYは1990年代の音楽シーンを代表するグループで、彼らが1997年に初めてミリオンセラーを達成したのが代表曲でもある「HOWEVER」だ。メンバーのTAKUROが当時の恋人に宛てたと言われているバラードは、今聴いても胸に来る歌詞の力を持っている。
 
 だがCDをかけてみると、きっと現代の高音質に慣れた耳ではガッカリするだろう。44.1kHz/16bitで再生したところ、ギターがなんだかジャカジャカしていて悲しくなってしまった。当時はまだMD全盛期。J-PopはMDに入れてウォークマンで連れ出し、付属のイヤフォンで聴くのが当たり前のスタイルだったため、低音と高音が強調された、いわゆるドンシャリサウンドが基本だった。そんな環境で聴感上の迫力を出すため、コンプレッサーをガンガンかけて音圧を上げまくっていた、それがこの時代のJ-Popという文化だ。現代のハイレゾ機器で再生するとどうしても粗が目立ってしまう。
 
 それではおもむろに「ハイレゾサウンドで聴く」スイッチを入れて、96kHz/24bitサウンドで再生してみる。もう驚きだ、なにせ第一声の「や」の音からまったくもってヴォーカルの出音が明らかに違い、声に存在感がある。ジャカジャカ鳴っていたギターにも芯が通り、スネアのリムショットは「カツーン」とよく通る。アゲアゲでブーミーだったベースがうるさくなくなり、ストリングスもキレイに整った響きになった。とにかく音に不自然な感じや耳障りなところがなくなり、飽和感がなくなって音楽全体にメリハリが出たのである。曲の流れとパワー感で押していたような単純な音から、様々な表現による豊かな色彩が楽曲を彩った。同時に当時の思い出さえも鮮明に呼び起こす、そんな音楽の力を感じた。
 
 次にチョイスしたのは中塚武プロデュース・土岐麻子ヴォーカルの「Your Voice」。アニメ「きんいろモザイク」1期エンディングテーマの原曲で、いわゆる“きらら系”らしい女の子的な可愛らしさのRodanthe*版と比べると、こちらは土岐麻子の大人の女性の落ち着きが漂っている。
 
 実際のところ僕の好みは、音楽としては土岐麻子版、録音としてはRodanthe*版だ。というのも土岐麻子版は音が少し硬く、リズムセッションや低音などが切れ切れになって痛く感じる。今回の試聴でも44.1kHz/16bitでは同じ感想を抱いた。特にハイハットやトロンボーンなどのブラスセッションがブツブツ切れるのがどうにも耳について仕方がない。それでいて土岐麻子の歌い方が伸びやかなものだから、音楽としてみるとどうにもチグハグなのだ。要するに伸びが足りないというわけである。
 
 こういった悩みは96kHz/24bitで見事に解決する。面白いほど音が滑らかになって土岐麻子のヴォーカルも響きが増え艶が出て、彼女が持つ色気を感じる。聴き取れる音数は明確に増えて賑やかになり、音楽全体が明るくなった。問題だったハイハットも程よくいなされて小気味良くなり、音楽を前進させる力を生んでいる。そこへ乗るアンビエントを担うストリングスのハーモニーが実に心地良い。楽曲の前向きな曲調と合うのは間違いなくハイレゾだ。
 
クリストファー・ティンによる新旧“廃人のテーマ”をハイレゾにしてみた
 ハイレゾ化できてうれしいのは古い音源だけではない。僕がどうしてもハイレゾ化したかった音源のひとつが、音楽家クリストファー・ティンが手がける「Sogno di Volare」だ。人類史をテーマにしたストラテジーゲームの金字塔「Civilization」シリーズ最新作のテーマ曲で、英国ロイヤル・フィルハーモニックオーケストラの演奏をバックに、レオナルド・ダ・ヴィンチが認めた大空を飛翔する憧れの詩をコーラスが歌い上げる壮大な楽曲である。
 
 コレの音源は作曲者のホームページでダウンロード販売している44.1kHz/16bitのFLACファイル。残念ながら大スケールを表現する響きが足りず「もっと響くはず」と思わせる音だ。
 
 ところが96kHz/24bitに変換すると激変。1音目からヴァイオリンの細かいパッセージの鳴り方が違う。響きが豊かになってコーラスはゴージャスに、ハープは存在感が増し、低音はコシが増している。ストリングセッションの響きは芯がしっかりしていて、モゴモゴしていたチェロなどの刻みもしっかり聴き取れる。お粗末だった木管セクションのワンポイントもグッと楽器の存在感が出ていて、ロングトーンによいアクセントを加えてくれる。オーケストラがちゃんとアンサンブルしていて、音から音楽になる、そんな決定的な違いを感じた。
 
 こうなるとクリストファー・ティン氏の出世作でもある「Baba Yetu」も聴きたくなる。多くの人を夜のない世界へ引き込んだ罪深い傑作ゲームのオープニングテーマで、ゲーム音楽として初めてグラミー賞を受賞したことでも有名だ。聖書の一節をスワヒリ語に翻訳した歌詞をゴスペルで歌い上げるという文化の多様性を体現した曲で、今では合唱曲として米国で受け入れられ、国連本部会議場では合唱が披露されている。
 
 音源は先ほどと同じく、作者のサイトでダウンロード販売している44.1kHz/16bitのFLACファイル。素の状態ではゴスペルのベースの支えやテノールのインパクトなどが少々薄く、盛り上がりに欠ける。声の伸びがイマイチで、Sogno di Volareでも感じた響き不足がまたまた顔を出し、抉り込むような音の力がない。これでは楽曲のテーマである雄大さが今ひとつ伝わりきらずもったいない。
 
 そんなモヤモヤを抱えながら96kHz/24bitに変換してみると、こちらもやはり激変した。楽器も声も実態感がまるで違って音に力があり「これぞハイレゾ」と手をたたきたくなる。なんと言っても音の粒立ちが良く、マラカスやカサバ、コンガなどのラテンパーカッションの響きが弾ける。ゴスペルは雄大でバックのコーラスも演奏に埋もれることはない。各楽器とヴォーカルがつぶし合うことなく音楽を創っていて、どのパートも雑音になりはしない。
 
 また、ビット数の増加でダイナミックレンジがより細かくなった効果だろうか、音が大きくなってもうるさくならず、小さくなってもしっかり細部のシェイプがしっかりしている。ピアニッシモからフォルテッシモまで、低音から高音まで聴き取りやすく、フルートやオーボエの哀愁を誘うフレージングに心をつかまれる。総じて44.1kHz/16bitよりも気持ちボリュームを上げるのが楽しい、これがハイレゾ化による大きな恩恵だと感じた。
 
ちょっとマイナーなクラシック音源もハイレゾにできる
 吹奏楽経験者の間では知られていつつも、一般的にはマイナーだったユーフォニアムという楽器、昨年「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」がアニメ化されたことで知名度が上がった。メロウな中低音を極限まで表現する現代の名手として、僕は英国人プレイヤー、スティーヴン・ミードの名前を挙げたい。
 
 ユーフォニアム界の巨匠が大阪のブリティッシュバンド「ブリーズ・ブラスバンド」と共演したアルバムの、これまた英国人作曲家のジョン・ゴーランドによる「ユーフォニアム協奏曲 第1番」を聴いた。
 
 楽器の本当の力を知ることができる重要な音源だが、44.1kHz/16bitではミードが奏でる芳醇なベッソン・プレステージの響きに対して、音が当たったような飽和感を感じる。それに金管と打楽器だけのブリティッシュバンドという編成がモゴモゴ感に拍車をかけており、明らかに録音が追いついていない。
 
 では96kHz/24bitではどうか? ハイレゾスイッチを入れて再生した瞬間にミードのベッソンが朗々と歌いだした。とろけるようなユーフォの高音はその名の通り"綺麗な響き"で、この上なく気持ちいい。それはもう笑ってしまうくらいの変容ぶりだ。
 
 バックバンドも見事な変身を見せていて、トランペットはキラキラした華やかな音になり、44.1kHz/16bitではアクセント効果が薄かったミュート時の音が鋭利になって、音楽全体によいアクセントを与えている。トロンボーンパートの歯切れはよくなり、チューバは楽器本来の芯が出て存在感もアップした。ティンパニの打点もハッキリしており、マルカートがちゃんと弾んだマルカートに聞こえる。オーケストラヒットの音形は彫りが深くなってしっかりとわかるようになった。
 
 とにかく演奏に身を委ねるのが心地よく、音楽を聴くというのはこうあってほしいというカタチをきっちり表現していると感じた。
 
 超絶技巧演奏の音源をもうひとつ。ロシアの重戦車級ピアニスト、ニコライ・ペトロフの「パガニーニによる超絶技巧練習曲」。第3曲には有名な「ラ・カンパネラ」が収められているが、あまりの難易度に作曲者のリスト以外は弾けないと言われたため「大練習曲」として改稿され、今ではこちらの方が有名になった。ちなみに初稿版の録音は、ペトロフを含めて3例しかなく、当然いずれもハイレゾ化はされていない。
 
 そんな音源を44.1kHz/16bitで聴いてみた。感想としては鬼のような音数を出し切れず、全体的にゴチャゴチャしている。響きは悪いとは言わないが帯域不足でもっと響いて欲しいと感じる。技術は確かにスゴいが、全体的にのっぺりしていて音としての凄さは圧倒されるとまでいかない。
 
 しかし96kHz/24bitは違う。まず響きがウンと上品に感じた。低音が太くなって迫力が出た上で、定位がしっかりしてピアノの実体感がハッキリした。非常識なほど黒々とした楽譜に負けないくらい音数が多い。これは44.1kHz/16bitでは感じなかった要素だ。これぞ“重戦車”という異名に相応しい。
 
登場が待たれる水樹奈々も勝手にハイレゾ化
 ハイレゾ界隈にとってアニメというジャンルが一大巨塔となって久しいが、多くのファンに望まれながらもハイレゾ音源が出てこないというアーティストも少なからずいる。例えば紅白歌合戦にも出場した歌姫水樹奈々。過去音源も含めてハイレゾ化されると話題になること間違いなしだが、彼女の音源も諸般の事情でまだハイレゾ化はされていない。
 
 さて、水樹奈々を代表するキャラクターや楽曲は多数存在するが、今回は「魔法少女リリカルなのは A’s」の主題歌「Eternal Blaze」を聴いてみたい。まず44.1kHz/16bitだが、とにかくベースがブイブイと元気で、これはもう明らかにスターチャイルドレーベルの音だ。ヴォーカルを活かすためにバックバンドが下がり、特に水樹奈々よりも一段下の音域ではかなり控えめ。高音はシャリシャリ、ロングトーンはザラザラ気味で、エレキソロはかなりミチミチな印象。全体的に窮屈な音に感じる。
 
 ではこれを96kHz/24bit化してみるとどうだろう。まず出だしの水樹奈々がふわりと飛ぶように柔らかい。前奏のエレキギターは音が太くエネルギッシュになり、演奏にかなり勢いを与えていた。そして高音のシャリシャリ感がなくなり、明らかに聴きやすい音へと変わっている。ロングトーンの飽和感も解消とまではいかずともかなり改善され、エネルギー感に全振りしていたバランスを音質寄りにも傾けたという印象を受けた。ストリングスの細かいパッセージは音の分離がよくなり、時折鳴るウインドチャイムのワンポイントは44.1kHz/16bitよりもずっと効果的だ。
 
CDを抱えたユーザーにはぜひとも試してもらいたいソフト
 以上、若干偏りがある点は認めるが、7曲の44.1kHz/16bit音源を試してみた。どの音源でも音が明らかに整い、響きが明白に豊かになった。CDスペックの飽和感から解放された広がりと、細部表現の鮮明化によって定位がガチッと決まることも大きな特長だ。音圧は気持ち下がるが、その分ほんの少しだけボリュームを上げると、同じ音圧で音が豊かになるという点も見過ごせない。
 
 今回の趣旨はCurioSoundでCDを現代のハイレゾ環境に相応しい音へ上げることだったが、もちろんハイレゾ音源をそのまま鳴らしてもよい。ただそうなると、DSD音源がPCM変換だったり、ASIOに非対応だったりといった点がマイナスになってくる。例えば「ビギナーモード」「エキスパートモード」といったユーザー層分けをしてみると、このあたりの不満を解決しつつビギナーに優しい使いやすさというコンセプトにも合致するのではないだろうか。
 
 いずれにせよ、PCオーディオという環境でCurioSoundはかなり大きな力になると僕は感じた。特に大量のCDを棚に抱えている人たちにとって、このソフトは福音となるだろう。現状ではプレイヤーを使い分けしつつ、将来的に一大勢力になることを期待したい。
 
 
文● 天野透/ASCII

最終更新:5/6(土) 15:00

アスキー