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あなどれない欧州中銀の金融緩和継続 ユーロに下落余地大きい

5/6(土) 14:00配信

ニュースソクラ

マクロン「当確」でのユーロ高は一時現象

 ECBは4月27日の理事会で、リファイナンス金利を0.00%、限界貸出金利を0.25%、中銀預金金利をマイナス0.40%にそれぞれ据え置き。金利は長期にわたり現行またはそれ以下の水準にとどまるとの方針も表明した。

 またECBは債券購入(QE)を4月から600億ユーロとこれまでの800億ユーロから減らし、少なくとも2017年末まで続ける方針を再確認した。見通しが悪化した場合に備え、QEの規模や期間に柔軟性を持たせる意向も示した。

 一部市場関係者は、ECBが次回(6月)の理事会で金融政策の正常化への地ならしを始めるとの見方を強めていた。ユーロ圏景気は昨年後半より拡大基調で推移している。4月のユーロ圏総合PMIは56.7と2014年4月の統計開始以来最高を更新した。

 4月のユーロ圏景況感は109.6と、2007年8月以来の高水準に上昇した。インフレ(CPI)も2月には前年比+2.0%と2013年1月以来の2%台に加速。3月は同+1.5%と鈍化したが、4カ月連続で1%超えとなった。

 フランス大統領選では、中道系独立候補のマクロン前経済相と極右政党・国民戦線のルペン党首が決選投票に選出。その後の世論調査では、マクロン候補がルペン候補とのリードを広げる展開となり、ECBが金融政策の正常化に着手しやすくなったとの見方も広がりつつあった。

 ECBによるマイナス金利やQEに対する不満が、金融政策の正常化を期待する声につながっている可能性もある。ドイツ債市場ではECBによる国債保有シェアが4割に近づいており、債券市場関係者からは市場機能の低下を懸念する声が強まっている。マイナス金利は、預金金利と貸出金利の格差縮小を促し、金融機関の収益性を圧迫している。

 しかしECB声明発表後に開かれたドラギ総裁の会見は、こうした一部市場関係者の(希望的)観測を否定する内容だった。同総裁は、会見の初めに、経済の下振れリスクはさらに後退したと述べたものの、基調的なインフレ(underlying inflation)圧力は引き続き抑制されていると指摘した。基調的なインフレ圧力をより高めるためにも、大規模な金融緩和が依然として必要とされると明言した。

 ドラギ総裁による説明後の記者との質疑応答でも、一部市場関係者の(希望的)観測は否定された。QEやマイナス金利の継続を示すフォワードガイダンスの変更に関して議論があったのかという質問に対し、ドラギ総裁は、今回の理事会で議論はなく、6月理事会での変更の可能性に関する議論もなかったと明言。金融政策の正常化(出口戦略)を議論する必要性は現時点ではないとの私見も述べた。

 ドラギ総裁は、金融政策の正常化に関する議論がなかった理由として、インフレの先行き不透明感が依然として高いと指摘。失業率の低下が賃金上昇につながる期待は持てるとしながらも、インフレはエネルギー価格の上昇効果を除けば強くないと説明した。

 興味深い点は、フォワードガイダンスはインフレのテールリスクに対応するものであり、経済成長と直接的に対応するものではないとドラギ総裁が説明した点だ。また質疑応答の中で、ドラギ総裁が、以前に紹介したインフレに関する4つの基準からみても、インフレに関する評価は前回(3月)理事会から変わっていないと説明した点も注目すべきだろう。

 ドラギ総裁は1月理事会後の会見で、ECBがインフレ目標を達成したと判断するには、(1)インフレが2%以下で2%に近い状況が中期に維持される、(2)そうした状況が一時的ではなく持続的である、(3)そうした状況が金融緩和などの助けがなくても自律的(self sustained)に維持されること。(4)そうした状況がユーロ圏全体で共有される、の4つの基準に照らして考えるべきと説明。4つの基準のうち(2)から(4)は現時点では達成されていないとの判断を示した。

 なおフランス大統領選での予想される結果が、理事会での経済見通しの判断に影響するのかという質問に対し、ドラギ総裁は理事会では政局ではなく政策を議論していると繰り返し否定。フランス大統領選に関する世論調査でマクロン候補が優位にあることが金融政策の正常化を促すとの思惑を否定した。

 ドラギ総裁の発言内容を整理すれば、ECBの今後の金融政策は、景気ではなくインフレ、特にドラギ総裁が表現する基調的インフレの動向で決まると考えられる。ECB理事会後に発表された4月のドイツCPIが前年比+2.0%と、市場予想や前月を上回ったものの、2月の伸びを下回った。

 景気が大きく拡大しているドイツですらCPIが伸び悩んでいることを考慮すると、次回(6月)の理事会までに、ユーロ圏のインフレ動向が、ドラギ総裁が指摘する4つの基準すべてを満たすとは考えにくい。

 ユーロドルはドラギ総裁の会見冒頭に1.09ドル台前半まで上昇したものの、同総裁がフォワードガイダンスの変更に関する議論がなかったと明言すると、1.08ドル台半ば近辺に下落。その後は1.08ドル台後半で持ち直している。

 しかし足元のユーロ相場は、フランス大統領選でのマクロン候補の勝利期待に目を奪われている様子で、ECBの金融緩和継続を十分に織り込んでいるように見えない。ユーロドルの下値余地は依然として大きく、200日移動平均(1.084近辺)を割り込めば、6月のECB理事会までに4月の安値(1.05ドル台後半)まで下げる可能性があるとみておくべきだろう。

■村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。
著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。

最終更新:5/6(土) 14:00
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