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桐野夏生さん「私が書くべきではないかと思った」知られざる連合赤軍女性兵士の実像迫った

スポーツ報知 5/6(土) 12:02配信

桐野夏生さん「夜の谷を行く」

 作家・桐野夏生さん(65)の最新刊「夜の谷を行く」(文芸春秋、1620円)は、1972年の連合赤軍事件の「元女性兵士」の現在を描いた長編小説だ。あさま山荘での警官隊との銃撃戦が収束した後に発覚した、メンバー12人のリンチ殺人事件は、なぜ起きたのだろうか。山岳地帯で凶行されていた「総括」から脱出して生き延びた女性の半生を通じて、知られざる一連の事件の実像に迫っている。(甲斐 毅彦)

 日中国交回復を実現した田中角栄首相がぶち上げた列島改造論に国民は未来を信じ、街中にちあきなおみの「喝采」が流れていた1972年。昭和史に刻まれる「あさま山荘事件」が起きたのはこの年の2月だった。札幌冬季五輪で日の丸飛行隊が金銀銅メダルを独占してまもなく、国民はテレビで生中継された警官隊と連合赤軍の銃撃戦にくぎ付けにされた。桐野さんは大学2年生だった。
 「当時は、ベトナム反戦で盛り上がっていましたね。私も高校生の時に、市民の反戦デモに参加したことがあります。特定の党派には関わっていませんが、それが時代の雰囲気だったのです。あさま山荘事件の時でさえ、それでも彼らにシンパシーを感じる人たちは少なからずいたと思います。が、その後、リンチ事件が発覚してからは、誰もが大きなショックを受けました。私もそうです」

数人の総体から主人公イメージ

 物語の主人公は、事件当時その渦中にいた「元女性兵士」だ。リンチ殺人の舞台となった山岳ベースから脱走後逮捕されて、5年間服役。約40年たった今は、過去を語らず一人で静かに暮らしている。しかし2011年2月、元連合赤軍最高幹部・永田洋子死刑囚の獄中死をきっかけに、かつての仲間や「夫」から連絡が入り、その約1か月後に東日本大震災が起きる。全てフィクションだが、永田の死後、3・11が起きたという事実に即して構成されている。
 「編集者の方から連合赤軍について書きませんか、という提案は震災前からありました。でも、私に生々しいリンチが書けるだろうか、という躊躇(ちゅうちょ)がありました。また中野判決文【注】に対するトラウマもあって、なかなか書く意欲が湧かなかった。しかし、11年に永田洋子が亡くなり、3月に大震災、原発事故が起きて、これから大変な時代に変わっていくのだろう、と思った時にようやく、連合赤軍事件が私の中で過去の出来事として感じられたのです。それで、これまで全く触れられなかった人たち、つまり山岳ベースにいた『女性兵士』たちについて書きたいと思い、『月刊文藝春秋』で連載を始めたのです」

 主人公にはモデルとなった特定の人物はなく、生き残った『女性兵士』数人の総体をイメージした。架空の人物でありながらもリアリティーがあるのは、山岳ベースがあった跡地に足を運び、事件の当事者への取材で、知られざる実像に迫ろうとしたからだろう。桐野さんは関係者を通じて、連合赤軍の救援対策(後方支援など)をしていた女性からも話を聞くことができた。
 「その方は当時妊娠中で、永田洋子に『山岳ベースに来ないか』と誘われたけど、行かなかった。永田たちの思想には、山岳ベースで子供を産んで育てて、革命戦士にするためのコミューンを作ろうという計画もあったのだそうです。それを聞いて、大変驚きました。初耳でしたから。だから、山岳ベースには、看護師さんや保育士さん、リンチで殺害された金子みちよさんという妊婦や赤ん坊もいたのだと納得しました。なのに、この計画については、資料にも全く出てこない。だったら、女性である私が書くべきではないかと思いました」

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最終更新:5/6(土) 12:02

スポーツ報知