ここから本文です

インド版「石油メジャー」計画は実現するか

5/6(土) 17:30配信

ニュースソクラ

パワー強化狙い、政府が国営石油13社統合に本腰

 インド政府が、国営石油13社を統合し、事業規模の拡大に向けた計画に本腰を入れ始めた。統合が実現すれば、市場価値で石油メジャーの米シェブロンを上回り、株式の時価総額や売上高でインド最大の企業が誕生する。

 統合対象の企業には、国内石油・天然ガス開発大手のインド国営石油ガス会社(ONGC)、石油精製事業で最大規模を誇るインド国営石油会社(IOC)も含まれる。

 インド政府による国営石油会社の統合案はそもそも、国内エネルギー需要が急増し始めた2005年に持ち上がった。本格的に動き出したのは昨年7月だ。プラダン石油相が、国営石油精製会社のチェンナイ・ペトロリアム・コーポレーション(CPCL)と、同業のIOCとの合併を支持すると表明。合併によって、CPCLのマナリ製油所が、タミル・ナードゥ州などにおける燃料供給で重要な役割を担うとして合併案を後押しした。

 さらに今年に入り、ジャイトリー財務相が2月初め、国営石油会社の統合計画を加速すると強調した。また、3月にはONGCが精製大手のヒンダスタン石油(HPCL)を傘下に収める方向で検討していることが判明した。インド政府が保有するHPCLの株式約51%をONGCに移し、持ち株会社化する方向で検討しているという。

 インド政府は、国営石油会社の統合によって「経営効率を高め、国際競争力の強化につなげる狙い」(インド政府系の経済研究所)とみられる。また、同国政府が、国内石油業界をコントロールしやすくするとの見方も出ている。こうした状況下、同国政府は12人の専門家で構成されるパネル(諮問委員会)を立ち上げ、2040年までにインドの石油精製能力を拡大する計画の策定に着手し始めた。

 原油や天然ガスといったエネルギー資源を輸入するためには供給国との外交関係を良好にしなければならないが、国際情勢の変化をきっかけに関係が悪化し、安定調達が脅かされる事態も想定される。インド政府が国営石油企業の統合を画策する真の狙いは、事業規模を拡大し、集約することで海外の油田・天然ガス鉱区の権益取得にあるとみてよいだろう。

 そのためには、エネルギー上流分野で圧倒的な支配力がある石油メジャーのような資金力が求められる。2000年代に入り、中国の国営石油企業は権益獲得を求め、世界中の産油国に進出したが、今度はインドがそのやり方を踏襲しようとしている感が強い。

 3月初旬、インドのプラダン石油・天然ガス相が、米国のペリー新エネルギー庁長官とヒューストンで両国のエネルギー事業について初協議した。インドのアナリスト(エネルギー担当)らによると、ここで米シェールオイル・シェールガス事業へのインドからの投資などが議論されたという。今後、インド国営の石油企業が米シェール企業の権益を買収する動きが加速するかもしれない。

 経済発展とともにエネルギーの安定供給が重要な課題となっているインドでは現在、原油の国内需要の80%を輸入に依存している。これに対し、インド政府は2020年までに67%まで引き下げる目標を掲げている。輸入原油の依存度が増加するに従って、戦略石油備蓄(SPR)政策の強化にも乗り出した。

 米エネルギー情報局(EIA)によると、インド政府は、東海岸のヴィシャーカパトナム(アーンドラ・プラデーシュ州)、マンガロール(カルナータカ州)、パドゥアー(ケーララ州)に備蓄施設を建設した。インド国内における原油の総備蓄量は3,910万バレルで、2015年の国内消費量から生産量を差し引いた数量を基準にすると、輸入量の13日分に相当する。

 最終的に90日分の原油備蓄量を目指すとしている。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までにインドの原油需要量が年間ベースで3億2,900万トンに増加すると予測している。

 ところで、統合計画に対し、早くも反対論が噴出しているのも事実だ。インド版「石油メジャー」が誕生することで、国内での競争力が削がれ、石油産業の寡占化を進め、結果的に、インド石油産業のエネルギー部門での競争を妨げるとの理由からだ。また、統合による大幅な人員整理につながるとの懸念もある。統合実現までに紆余曲折が予想される。

■阿部 直哉(リム総研・エネルギーコンフィデンシャル担当)
1960年、東京生まれ。慶大卒。ブルームバーグ・ニュースの記者・エディターなどを経て、リム情報開発のリム総研に所属。1990年代、米国シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。

最終更新:5/6(土) 17:30
ニュースソクラ