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視覚障害者の脳が示す「打たれ強い脳」の無限の可能性

ギズモード・ジャパン 5/6(土) 20:10配信

「ある感覚を喪失しても、他の感覚が研ぎ澄まされる」と言われます。目の見えない人にとって、それが真実であることを新たな研究が示しています。視覚障害者の脳は、聴覚、嗅覚、触覚、さらには記憶や言語などの認知機能を高めるネットワークを新たに作り出しているのです。

科学誌PLOS Oneに発表された新しい研究は、視覚障害者と健常者の脳の、構造的、機能的、解剖学的な違いを初めて明らかにしました。聴覚、嗅覚、触覚、認知に関連するこれらの変化は考えられていた以上に脳内に広がっており、「感覚情報が欠けても、自在に変化できる可塑的な脳がカバーする」という驚くべき可能性を浮き彫りにしています。

ハーバード大学医学大学院付属の研究所Schepens Eye Research Institute of Massachusetts Eye and Earは、出生時または3歳以前に視力を失った12人の脳をMRIスキャナーで分析し、16人の健常者グループと比較しました。以前の研究では視覚を処理する後頭葉の変化のみを考慮していましたが、今回の調査は脳全体に及びました。

「過去に報告された知見の再現だけでなく、全体的な脳のデータを基盤とするアプローチにより、脳の他の領域の変化を観察することができました」と、この研究の指導的立案者Corinna Bauer氏は米Gizmodoに語っています。

観察された視覚障害者の脳の構造的および機能的変化は、視覚障害者の脳が珍しい形で“設定“され、健常者には見られない方法であちこちに情報を送ることを示しています。接続性が促進された脳の部分もあれば、低下した部分もありました。

「以前の研究と同様に、後頭部の視覚処理領域に関与する部分で接続性の低下が観察されました」とBauer氏は説明します。「一方、運動、聴覚、言語処理に関わる部分では接続性の増加が見られました。これらの部分が、視力を失った人々の別の能力をサポートしている可能性があります」

接続性が増加すると、五感が影響を与え合う脳のクロスモーダル処理能力が高まります。その結果、触覚、嗅覚、聴覚など他の感覚からの情報を、正常な視力を対象とする後頭皮質が処理できるようになり、同時に非視覚的な感覚処理能力も高まることになります。視覚障害者の脳内では、後頭皮質は視覚情報を処理しないながらも機能しているのです。だから感覚を研ぎ澄ますことができるのです。たとえば過去の研究によれば、視覚障害者の音の位置や距離、周波数の識別能力は健常者を上回っています。赤ちゃんのころから視力のないDaniel Kish氏は、コウモリやクジラのように、音の反響によって物体との位置関係や距離を測定する能力 「エコーロケーション」により、音で世界を「見る」ことができます。

この最新の研究は、私たちの脳がどれほど打たれ強く順応性に富み、自らを練り直して私たちの経験に適応することができるかを示しています。視力が失われても、後頭皮質のニューロンは無駄にはならず、残った感覚の処理に取り掛かります。この知見は、音の位置や距離の測定に健常者が聴覚野のみを用いるのに対し、視覚障害者は聴覚野も後頭葉も両方使えることを示す研究と一致しています。

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最終更新:5/6(土) 20:10

ギズモード・ジャパン