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安倍政権は「残業代ゼロ法案」のトラウマを払拭できるか

ニュースイッチ 5/6(土) 19:31配信

長時間労働是正と同一労働同一賃金、法制化のハードル高く

 3月末、安倍晋三首相自身が議長を務めた「働き方改革実現会議」で、同一労働同一賃金の実現や長時間労働是正など働き方改革実行計画案が示され、法案化に向け政府は厚生労働省の労働政策審議会(労政審)での審議を進めている。準備・周知期間を設け、2019年度にも段階的に施行する方針。大型連休明けに議論が本格化するが、法制化には高いハードルが待ち受けている。

【意義ある一里塚】

 4月29日、東京・代々木公園で「第88回メーデー中央大会」が開かれた。あいさつに立った大会実行委員長の神津里季生連合会長は「連合がこれまで取り組んできた長時間労働の是正や同一労働同一賃金の法制化は、意義ある一里塚だ」と訴え、働き方改革実行計画をテコに長時間労働の撲滅、「過労死ゼロ」など長時間労働是正に関する「特別決議」を採択した。

 政府は働き方改革に向け、労働基準法(労基法)やパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法など関連法改正案を秋の臨時国会に提出する方針だ。しかし、法案化作業で問題となるのが前臨時国会からの継続審議となっている「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」導入との労基法上の整合性だ。

 「高プロ導入推進」「裁量労働制度の拡大」に向けた労基法改正案の今国会での成立も実行計画に盛り込まれ、塩崎恭久厚労相は「高プロ、同一労働同一賃金、長時間労働是正は3点セット」と早期導入に意欲を示す。だが新たな労働法案を作る場合、与党だけでなく労政審での労使の合意が必要となる。

 高プロ導入推進と裁量労働制度の拡大をそれぞれ盛り込む2本の労基法改正案について、民進党は「両法案は矛盾している」「長時間労働をなくそうとしているのか、それとも増やそうとしているのか」と高プロ法案の取り下げを求めている。

【整合性は?】

 これに対し安倍首相は1月27日の衆院予算委員会で「(高プロの)対象者は非常に少ない。両法案は整合性がある」と答弁したが、与党内にも「両法案を同時に通過させるのには無理がある」との声が出ている。

 高プロ制度の対象は、金融ディーラーや企業に勤める研究者ら専門的な仕事に就く「年収1075万円以上」の高所得労働者。労働時間に関係なく成果で賃金が決まる。裁量労働の拡大では、「みなし労働」で賃金を支払う裁量労働の対象を、企画立案を手がける営業職などにも拡大する。 

 安倍首相は第1次安倍政権時代の06年、「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)の導入を進めた。WEは「年収900万円以上」が適用対象となっていたが、「残業代ゼロ法案」との非難を浴び、法案提出を断念した経緯がある。

 今回の高プロは安倍首相にとって“リベンジ”となるが、連合は「年収要件のハードルは上がったが、今回の高プロも実質的には同じ中身」(幹部)と警戒感を強める。

【罰則付きも】

 一方で、電通やヤマト運輸などの長時間労働が社会的な問題となっている中、1947年の労基法制定以来、初めて残業に罰則付きの上限規制が導入されようとしている。新たな残業規制では、三六協定での残業時間の上限を「月45時間、年360時間以内」と規定した上で、罰則付きの「特例」として「月平均60時間、年720時間」規制を設けた。

 今春闘での「中小底上げ」「格差是正」もメーデーの大きなテーマ。連合の4月11日時点での今春闘回答集計結果によると、ベースアップ(ベア)に当たる賃上げ分が明確に分かる組合のうち、組合員数300人未満の中小労組の賃上げ分は1373円と昨年を145円上回り、300人以上の大手組合の1327円を超えている。

 ただ、定期昇給を含む平均賃上げ率では全体が2・02%。大手が2・03%なのに対し、中小労組は1・89%。定期昇給込み賃上げ額でも平均が5940円、大手が6067円で中小は4674円にとどまっている。中小企業の定昇額が大手と比べて低いのと、定昇制度そのものがない中小が多いためだ。

 デフレ脱却を急ぐ安倍政権にとって依然、従業員数の7割弱を占める中小労働者、全労働者の約4割となった非正規労働者の待遇改善は大きな課題となっている。

日刊工業新聞・八木沢徹

最終更新:5/6(土) 19:31

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