ここから本文です

琉球ゴールデンキングスの新たなる挑戦「沖縄の宝」がBリーグの頂点を目指す日々。(5)

5/6(土) 14:15配信

沖縄タイムス

 これは琉球ゴールデンキングスが迎える最終節への、直前のエールです。

 特に今シーズン中盤まで、落ち込み悩んだ時期の長かったキャプテン岸本隆一に対する応援メッセージのつもりで、この記事を書きます。

この記事の他の写真・図を見る

 * * * * * * * * * * * * * * *

 5月3日の名古屋ドルフィンズ戦で敗れた瞬間、自力でのチャンピオンシップ進出の望みが絶たれた。今季のキングスの戦いに実質上のピリオドが打たれたかに思えた。

 しかしその直後、このところ好調の最下位・滋賀レイクスターズ(B1残留をかけての重要な終盤戦を戦っている! )が2位大阪エヴェッサに逆転勝利を収め、この時点で、大阪と3位キングスのゲーム差は1に戻った。

 大阪エヴェッサに2連勝しなければチャンピオンシップシリーズ(プレーオフ)進出を果たせないキングス。対する大阪は1勝1敗でもよい。

 まさに背水の陣のレギュラーシーズン最終ホームゲームは、5月6日と7日、沖縄市体育館で行われる。

 思えば、わたしが岸本隆一にロングインタビューを敢行したのは、彼が明らかに精彩を欠き、ついにスターティングメンバーを外されるまでに至った昨年の暮れ、12月28日のことだった。

 得意の3ポイントどころか肝心な場面でなかなか得点そのものを決めることができず、言わば、「どん底」の状態だった。

 報道関係者の間には、腫れものに触るような空気さえ流れていた。

 だが、こういうときこそインタビューすべきだとわたしは考えた。長年トップアスリートに取材させてもらってきた経験上、そう確信できていた。不遜を承知で述べれば、取材者のささやかなる問いかけが、アスリートの心身を活性化させることだってある。

 いざ対面し、話を聞いたその日、彼は己の苦しさ、悩みを少しも隠さなかった。

 「辛いです」「正直、いまほんとに苦しいです」という言葉を率直に発していた。

 それゆえ、このインタビューの内容をどのタイミングで発表するかについては、書き手としてのわたしの内部に迷いが生じた。

 実際、今年の早い時期、岸本にはっきりと復調の兆しが見えたあるゲーム後の記者会見で、わたしは彼にこう告げさえした。

 「弾けてくれて、ありがとうございます」

 まだ暮れのインタビューは記事にしていない。しかし意味は通じたはずだった。

 彼が復調したのだから、あのインタビューの内容は、もう書かなくてよいかもしれない、という考えさえ頭をかすめた。

 なぜなら、暮れのインタビューの際に、わたしはこう告げていたからだ。

 「キングスファンの一人として、岸本隆一ファンの一人として、(落ち込んだ気持ちや迷いを)吹っ切って、弾けてほしい、という思いでインタビューに来たんですよ」
そのとき岸本は、照れのまじった笑みを浮かべつつこう答えていた。

 「いいときに渡瀬さん(インタビューに)来たなぁ、と思いましたよ」

 そのロングインタビューからあまり間をおかずに、岸本はハツラツとした姿をコート上で見せ始めていた。記者会見の場ではあるが、見守る側の嬉しさを、ひと言伝えたかったのである。

 そして瞬く間にシーズン最終盤。

 この大事なタイミングで、わたしはあの12月28日のインタビューを、ここに記そうとしている。

 練習後のキングス・オフィスの明るい室内で間近に向き合ったとき、岸本の頬がゲッソリこけていることに驚いた。

 彼は「3キロ痩せました」と言い、心労からくる体重減であることを否定しなかった。わたしはインタビューの中でこう問うている。

 ――岸本さんは、落ち込むことがあったとしても、そこから立ち直って這い上がるまでのスピードは速いでしょう? 

 わたしの頭の中には、2013-14シーズン、実質1年目でいきなりbjリーグ優勝の立役者となり、プレーオフでMVPまで獲得したときのことが頭にあった。

 セミファイナルの京都ハンナリーズ戦でまるで活躍できなかった岸本が、試合後報道陣の前に姿を現し取材にきちんと対応し、翌日ファイナルの秋田ノーザンハピネッツ戦で大爆発した事実を、鮮明に思い出したのだ。

 気持ちの切り替えの速さは、一流のアスリートに共通の才能とさえ言える。もちろん岸本にもその能力が充分に備わっているとわたしは見ていた。

 では、昨年の暮れ、岸本隆一は、何に苦しみ、何を悩んでいたのか。

 以下は、岸本隆一の復調著しい今だからこそ書ける、4カ月あまり前の全インタビューである。

 ――なかなか簡単には勝てない厳しいシーズンとなりましたが、キャプテンとしてこれまでを振り返っての感想を聞かせてください。

 岸本「Bリーグ開幕前に、そう簡単に勝てるリーグではないだろうとは予測していましたが、正直こんなに負けるとは思っていなかったので、自分の抱いていたイメージと違いすぎました」

 ――日頃から、シュートを決めるのも自分の大事な仕事だと表明してきた岸本さんだけに、シュートが決まらないことで気持ちが上向きにならない、という部分はありますか。

 岸本「それよりも、チームが勝てていない現実が引っかかっています。自分がどうこうより、チームとしてこんなに負けた経験がないので…。勝てないと、あのプレーはやっぱりああすべきだったんじゃないかとか、自分のプレーに迷いが出てくるのがわかっているので、そこが苦しいところですね。結果が出ていないのは、一番プレータイムをもらってきた僕の責任だと思っています」

 ――その苦しさから、どうしたら脱することができますか? 

 岸本「例えば去年だと自分が点数を取りにいって、チーム全体がうまく行くことも多かったんですが、今シーズンは、自分が20点オーバーの試合でも全然勝てていません。何が正しいかわからなくて苦しい、という感じです。チームとして目指したいバスケのイメージははっきりしているんですが、僕個人のプレーでいうと、やはり何が正しいかわからなくなっている苦しさが、どうしてもあります」

 ――本当にもがき苦しんでいる真っ最中なんですね。

 岸本「実際、先週2試合(秋田戦)はスターティングメンバーから外されましたし、本当に責任を感じているんで、いいタイミングで渡瀬さん来たなぁ、と思いました(苦笑)」

 ――そういうところは全然遠慮がない人間なのでお尋ねします(笑)。つまり、責任感が強くて理想が高いからこそ、現実とのギャップに苦しんでるわけですね。

 岸本「はい。ギャップがあります。厳しい現実を突きつけられています。それで今思うのは、もっとシンプルに自分のやりたいことを追求すべきではないか、ということです。相手の出方を視る前に、まずしたいことをしてみてから、相手の出方を見るほうがいいのではないかと気づきました。例えば栃木ブレックス戦で、田臥勇太選手とマッチアップしたときも田臥選手を止めたいということを意識しすぎた気もします。相手だって僕を止めたいわけだから、意識しすぎる必要はないわけで。シンプルにやりたいことをやれていなかったと思いました。なぜあそこで行かなかったんだ、と後悔するより、行ってみて失敗したらなぜ駄目だったのかを反省したほうがいい。そう気づかされました」

 迷いは深いようだった。少し角度を変えた質問をしてみた。

 ――田代直希選手や渡辺竜之佑選手といった若手が入ってきて頑張っていますが、彼らから何かを感じるところはありますか? 

 岸本「一生懸命さとがむしゃらさがいいですね。とくに渡辺なんか、チームプレーをまだ把握しきれていない部分があるはずですが、なんでも一生懸命、全力で取り組んでいます。渡辺は例えばワーワー声を出すタイプではないけど、全力プレーの姿が間違いなくチームを引っ張っている。僕自身のルーキーシーズンを思い出させてくれるような姿です。田代もそうです。常に全力でやってます。その姿勢がチーム全体に伝染しているのがわかります。本来、僕ががむしゃらさを出さなきゃいけなかったんだ、ということが、スターティングを外された2試合でよくわかりました」

 ――「今後よくなっていく自分」をどうイメージしていますか。

 岸本「イメージとしては、あえて『自分のプレー最優先』です。その上で、チームが辛いときに声を出したりして、チームの雰囲気を変えられたらいいと思います。自分のプレーがしっかりできていないのに、声だけ出すようなキャプテンにはなりたくない。だからこそプレーのクオリティ上げなきゃ、と悩んでいるところです。ただ、昨年も苦しい時期を乗り越えて優勝できたことは大きかったと思います。自信がつきました。今も苦しいのは苦しいですし、苦しいとばかり言っていてもしょうがなくて、自分で行動を起こして打開するしかないともわかっている。でも、本当に苦しいんですよね」

 このインタビュー中、いったい何度、彼の口から「苦しい」という言葉が発せられただろうか。

 ――病は気からというのもあるかもしれないですよ。伊佐ヘッドコーチ(HC)には、記者会見で「岸本選手の状態をどう思うか」という質問をぶつけさせてもらうこともあります。すると伊佐さんは、「彼はメンタルの強い選手ですから、きっかけさえ掴めば問題ありません」と答えてくれますからね。

 岸本「僕は自分でメンタルが強いとは思っていないです(笑)。東京での開幕戦のときもプレッシャーで吐きそうでしたし、そんなに図太くないんですよ」

 ――しかし、仮に落ち込んだとしても、立ち直って這い上がってくるスピードは速いでしょう? 

 岸本「それはあるかもしれません。今も、この苦しさは、自分が強くなるためのチャンスだって、結構本気で思っているところがあります」

 なんだ、やっぱり本当はメンタル強いじゃないか、とわたしは思ったが、押し問答になることは避けた。

 ――この苦しさも、バネにしたいですね。

 岸本「昨年の苦しい時期も思い出したりして、また来たか、と感じている自分もいます」

 ――われわれファンは岸本さんのいい時の姿を瞼(まぶた)に焼き付けています。3ポイントを鮮やかに決めるだけじゃなくて、素晴らしいスピードでドライブして内側へ切り込んで行ったり、ギリギリまで相手を引き付けてアシストのクイックパスを成功させたり。そういう状態へ早く到達してほしい、というのが、みんなの願いですよ。

 岸本「たしかに、早く元気な顔をみたい、とよく言われます」

 わたしは悩みをチームメイトに打ち明けることはないのかと問うた。すると、岸本は、ほとんどないと答えた。しいて言えば、このところプレータイムが減って結果が出なくて自分に納得いっていないはずの津山尚大には、声をかけて励まし合うようにしている、とのことだった。

 これは意外だった。

 かつてのキングスは、オフの時間に選手同士で食事に行ったりすることも珍しくない、すこぶる仲の良いチーム、という印象が強かったからである。

 わたしがここまでに直接聞いたベテラン選手、喜多川修平、金城茂之の岸本評を彼に伝えた。

 ――例えば喜多川選手は、「チームとして岸本選手に対する期待は大きいですが、彼が調子がよくないときも、周りのみんなでカバーできるようにしていかないといけないと思います」と言ってましたよ。

 岸本「優しさと厳しさ、両方がありますね。もっと頑張れよという厳しい励ましと、それから修平さんの優しさ。ほんとに誰に対しても優しい人なので」

 ――金城さんは単刀直入にこう言ってました。「無理に自分でシュートを決めようと思わず、もっと周りを使ってほしい」と。金城さんらしいストレートな表現ですね。

 岸本「それは、僕がボールの流れを止めてしまうことへの厳しい意見だと思います。もっとボールを回して回して流れをよくして、相手のディフェンスにズレをつくって、そこを攻める。そういうことをしっかりやっていきたいですね」

 チームメイトの中で、こういうところが参考になる、と思える選手はいるかと問うたとき、岸本が挙げた名前は、くしくもこの2人だった。

 岸本「修平さんと茂さんの安定感ですね。どんなときでも、表情を変えず、平常心。僕もピンチで表情を変えたりしないようにしていますが、それでもこれはかなりマズいという場面では内心動揺します。そんなとき、修平さんや茂さんの顔を見て、まだそんなに大変ではないかもしれない、と安心することがあります。そういうところは参考になるし、真似したいですね。メンタルのコントロールも、じつは『技術』の一つだと思うんですよね。それができる二人はすごいです。だからこその安定した活躍だと思います。その点、僕はまだまだ実力不足です」

 ――シュート精度がうまく上がっていかないことに関しては、岸本さん自身はどうとらえていますか? 

 岸本「シュート練習はかなりしているつもりですが、試合でうまくいかないときというのは、やはり自分に余裕がないんだと思います。本来僕は、相手にディフェンスの選択肢を2つぐらいは与えながら(=相手に迷いを生じさせながら)、自分のペースで余裕を持って打ちます。それが、最近はこれを逃すとチャンスはないぞという感じで打ってしまっていて、決まったら決まったで『ああ入ってよかった、なんとかノルマ達成』みたいな感じになってしまっています。もっと先手を打って、自分自身で余裕を作り出していきたいですね。こういうことも、ベンチスタートの時間を経験して見えてきたことです。あの時間はとても貴重で大きかったですね」

 これも「メンタルの技術」と関係がありそうだ。伊佐HCがよく使う言葉「成功体験」とも通じるかもしれない。伊佐HCは、常に選手思いの発言で知られるが、「もっと伸び伸びプレーさせてやれなかったわたしの責任です。もっと成功体験を増やしてあげたい」という物言いもしばしばある。複数の選手について、そう語ってきた。

 つまり、余裕をもって伸び伸びとプレーができて成功体験が積み重なれば、その選手の実力は上昇し、安定していく、という信念を指導者として持っているがゆえの発言だ。

 インタビューの終盤、岸本はこんなことを言ってくれた。

 「こういう取材があると、自分の気持ちを整理できて、いいですね。自分はどこを目指しているんだ、ときちんと考えることができて、よかったです」

 単なるリップサービスでないことがわかったので、わたしも素直に礼を述べた。

 ――そう言ってもらえるとありがたい。苦しい心境を率直に語ってくれてありがとうございます。

 岸本「言っちゃったほうが楽になるんで」

いたずらっぽい明るい笑みが浮かんでいた。

 さて、今現在の岸本隆一の表情はどうだろう。この暮れのインタビュー時と比べれば、別人のように精悍な表情が蘇(よみがえ)っている。ゲッソリとこけていた頬にもふくらみが戻った。写真を見ていただければ、一目瞭然であろう。

 当然、プレーにもキレが戻ってきている。余裕をもって3ポイントを放つシーンも増えた。

 もちろんキングスのチームバスケは、彼1人の力で成り立つものではない。それどころか、各人の力が有機的に結びついてこそ、「人もボールも動くバスケ」の魅力が立ち上がってくる。

 わたしがずっと気になっていた点も、この春には解消されつつあったようだ。

 あるとき、岸本隆一、金城茂之、新城真司の3選手が、球団関係者を交えて食事に行って、盛んに意見交換をしたというのである。

 4月2日、ホームで名古屋ダイヤモンドドルフィンズに連勝した直後の記者会見で、そのことに水を向けると、岸本はこう答えた。

 「チームメイトとご飯食べに行くのは、まったく初めてのことです。おかげさまで、いいコミュニケーションが取れました。良かったです」

 同じ日に金城にも尋ねてみたが、異口同音だった。

 「難しい話は抜きにして、お互い胸にたまっていたものをぶつけ合ったっていう感じです。こういうのは、たしかに初めてでしたね。お互いスッキリしたと思います」

 笑顔だった。

 こうして見てくると、キングスのBリーグ1年目は、さまざまな点において手探り状態の多難なシーズンだったのだとわかる。

 もがき苦しんだ今季だったが、レギュラーシーズン最後の2試合をどう戦えたかは、この先のキングスを占う重要な要素となるに違いない。2連勝してチャンピオンシップシリーズ(=プレーオフ)に進出できるに越したことはないが、むしろ中身こそが問われるのだとわたしは言いたい。

 4月30日、京都ハンナリーズに大勝したあとの記者会見で、岸本はこう言っていた。

 「残りの試合、純粋に楽しみたい」

 賛成である。今季最後の大一番でこそ、「伸び伸びと、弾けてほしい」。岸本隆一のみならず、全選手にそう告げよう。

渡瀬 夏彦

最終更新:5/6(土) 14:15
沖縄タイムス

Yahoo!ニュースからのお知らせ