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「お上への反省態度、モザイクの濃さでわかる」ベテランAV監督が語る強要問題(下)

弁護士ドットコム 5/7(日) 9:51配信

AV出演強要問題について、政府が本格的な対策方針をまとめようとする中で、AV業界は今後どのような対応をとっていくべきなのだろうか。AV監督歴32年の斉藤修さんは「現在の状況が続けば、規制がうんぬんと言う前に業界は消滅してしまう」と述べる。その真意はどういうことなのか。斉藤さんに語ってもらった。

●いまだにAV出演したことが「マイナス」になる時代

−−出演強要を防ぐには、どうすればいいと思いますか?

僕は、契約問題としてとらえるべきだと思います。

昔は、インターネットがなかったわけですから、VHSの時代は、作品が出ても、2~3カ月たつと店頭から消えていました。日の目を見ないわけですよ。過去として残らない。1年くらいAVやってから引退したら、1年も経たないうちに消えてしまう。

だけど、インターネットが普及してきてから、事情が違ってきています。インターネットに動画が流れると、ほぼ永遠にループして消えることがない。何年も前に引退した女子は「名前で検索すると、今でも出てきちゃうのよ」という話をします。「姿かたちが変わっているからわからないと思うけれど、やっぱりイヤよね」って。そのあたりについて、AVをやりたいという子にも、きっちり説明してあげないとダメだと思うんです。

AVに出たことで、あとあと不都合なことが出てくることが当然考えられるわけです、すぐでなくても、時限爆弾みたいに、ある日突然ボッと出てくることがある。そのことを認識させたうえで、業界に招き入れてほしいと思います。

もう少し世間でAVが理解されて、差别がなくなればいいけれど、今の状況では、AVに出てたということが、あとあとマイナスになります。それを知っておかないといけないんですが、女の子にはわかっていない子が多いと思う。AV業界に誘うほうも、そういうことを隠している傾向があるんですよ。

−−隠している傾向があるのですか?

ありますね。現場でも「AVに出てるのバレないですよね?」という質問が一番多いです。僕も嘘はつけないから、「バレない可能性はゼロとはいえないよ」と答えています。人によりますが、1センチ角の写真が雑誌に載っただけでバレた子もいれば、単体女優を3年間やってバレなかった子もいます。今は、インターネットにのっちゃうと消えないわけです。それを覚悟しないといけません。

−−出演強要は「出演したくないけど、出演させられている」という問題です。

もちろん、出たくない人は無理やり出しちゃいけません。これまでは、「無理やりやられた」と警察に届けても、「どうせAVでしょ」と言われることがあったかもしれない。警察がまともに取り合うだけでも、抑止になると思います。ただ、僕たち現場としては、そういうことがないよう、かなり気を使ってます。

●「モザイク」は業界のバロメーター

−−今回の問題が大きくなってから、表現の萎縮が進んでいるということは?

ないと思います。ただ、今回の問題が起きてから、「モザイクを濃くするように」という指示は出ています。表現の萎縮ではないけれど、自粛ですね。AV業界は、その繰り返しなんですよ。叩かれると、一瞬だけ反省しているかのような態度を示す。それがモザイクに現れるんです。濃くなったり、薄くなったり。お上の顔色をうかがいながら。モザイクはバロメーターなんです。

−−業界は本格的に改革しようとしていない?

お上から、具体的に「これを守りなさい」ということが出てくれば変わると思います。これまでも、警察から「●●におとがめがあった」という話がきて、それに対して自主規制することはありました。ただ、明確に「これをしちゃいけない」というお触れでなく、常に顔色をうかがうという対応方法なんですよ。

たぶん、「これを守りなさい」と明文化されれば、ちゃんと守ると思いますよ。ただ、今回の問題は、表現というよりは、人権侵害が発端なので、お上が契約の取り決めをしっかり指導するみたいな方向が良いと思います。

●AV業界は縮小に向かっている

−−業界側に追い詰められているという感覚はありますか?

どうかな・・・。業界としては、結構、能天気なんじゃないですか。危機感を募らせているフリしているだけで。追い詰められている実感はないと思います。もし、いろんな規制が入って、売上がガクンと落ちれば、その時点であたふたするかもしれない。

それでなくても、業界は売上が落ちて、縮小に向かっています。そういう危機感はありますよね。規制うんぬんより、エロに関する関心が若者からなくなっていることに対してです。そういう面から、業界が消滅することは起こりうると思います。だから、今回の問題については、どこか他人ごとのようなスタンスじゃないかと思います。

−−出演強要の問題について、どこが中心になって取り組むべきでしょうか?

やはり、プロダクションでしょう。プロダクションがまず、女の子を募集・スカウトする入り口ですから。そこで間違いが起きていたら、現場はどうしようもないですよ。

−−メーカーがプロダクションに「かわいい女の子を連れてこい!」と圧力をかけることは?

「連れてこい!」というよりは、かわいい子を連れていけば、仕事になるということだけなので。メーカーは「かわいい女の子は、よそに連れて行く前にこっちに連れてこい」というのがあります。スカウトも、お金を一番出してくれるところと繋がりますよね。だから、出演強要があるのは、かわいい単体の子ですよね。価値のある、ちょっと無理してでも、送り込めば金になる子たち。

−−かわいい女の子と契約するのが、一番儲かるシステムですか?

メーカーもプロダクションも儲かるし、女の子にも見返りがある。そこに無理が生じるということはあるかもしれない。女の子以外のところが盛り上がって、女の子の意思決定が後回しにされちゃうと、そういう問題が起きる。はげますんじゃなくて、おどすと強要問題になってしまう。

−−世間的の見方を変えていくためには、どうしていくべきだと思いますか?

世間にどう見られているかは、変わらない。いかがわしさは消えないから。いくら、市民権を得ようとしても、嫌う人は何をやっても嫌いますから。昔は本当に、AV業界なんて「人間のクズ」みたいな扱いでした。そのころとくらべれば、今なんて、ずいぶん良くなったと思います。個人レベルだとそういうこともなく、逆に「すげー」といわれるくらいになっています。AV女優になることがすごいことだと思っている女の子もいます。

−−差别や偏見は今でも残っている?

それは根強いよね。個人レベルと公レベルの差がありすぎると思います。個人レベルでは毛嫌いしていないけど、学校・会社というレベルになってくると、退学、退職という話になりますよね。近所で「どこそこの奥さんが出ている」とバレたら、仲間はずれされるでしょう。公レベルでは、今でも「AV=ダメ」ということなんですよ。

●インターネットがマイナスの影響を与えている

−−30年以上業界に関わってきて変化はありましたか?

レンタルビデオからセルビデオ(販売)に主流が移ってから、傾向が変わってきたと思います。セルでは、ユーザーの声を取り入れるようになりました。それまでは、映画的な表現手法も取り入れていたけど、セルになってからは、ただのズリネタです。遊びの部分がなくなってきて、エッチなものをこれでもかこれでもかと詰め込むようになりました。

そうなると、男の都合のいい女性像により先鋭化していくというか。一方で、AVはマニアックに細分化されています。セルになるとそれが顕著になっていったんです。女性を「男のおもちゃ」みたいな扱いにする傾向が、どんどん進んでいっているという実感があります。

−−もし、「本番」が禁止になったらどうなりますか?

僕は、本番だけが表現じゃないと思っています。みんな「本番がなくなるかもしれない」と騒いでいますが、なくなったらなくなったらで、違う方向に進んでいくだろうと思います。むしろ今は、本番に頼り切っているところがあります。本番さえ見せておけば、ユーザーは文句言わないだろうと。本番がなくなると、一時的には、沈むかもしれないけど、違う方向で業界は生き残ると思います。

−−最後に、現在のAV業界を取り巻く状況について。

インターネットが普及したときから、こういう状況はいずれ来るだろうと思っていました。インターネットがいろんな業界に影響を与えていますよね。音楽にしても、映画にしても。少なくとも今の状況では、プラスよりもマイナスのほうが大きい。

インターネットで情報は無料で手に入ると思っている人たちは、コンテンツが枯渇することに危機感を持っていない。情報はお金を出して、それで回っているんだという認識がないと、新しいものを作り出すエネルギーがなくなってしまう。この状況が続けば、規制がうんぬんと言う前に、消滅しちゃうんじゃないかな。

(了)

弁護士ドットコムニュース編集部

最終更新:5/7(日) 9:51

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