ここから本文です

【漢字トリビア】「伸」の成り立ち物語

5/7(日) 11:00配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「伸びる」、「追伸」「伸縮」の「伸」。五月五日のこどもの日、兄弟と背比べをした人もいるかもしれません。少しでも高くみせたくて、柱の前で背伸びをした日が懐かしく思い出されます。

「伸」という字は、にんべんに「申」と書きます。
「申」は、稲妻の形を描いた象形文字。
縦線を軸にして右や左に光が屈折して伸びる様子を表しています。
そこに、人の動作や様子を表す部首であるにんべんをあわせ、人が「のびる・のばす」という意味をもつ漢字となりました。

三月の上旬、春の始まりを告げるように鳴る「春雷」。
「虫出し」とも呼ばれるこの雷は、冬ごもりしている虫を起こします。
その雷は、本格的な農作業を始める合図となり、人々は土の塊を砕いて田起こしをし、水を引いて苗を植えるのです。
春から夏に向かって雷の日が増えるこの季節は、ちょうど、稲が伸びてゆく時期と重なっています。

万葉の時代から、夫婦や恋人は男女を問わず「つま」と呼びました。
稲妻の語源は稲の「夫(つま)」。
いにしえの人々は、雷の光が夫として稲に子を宿らせると信じていたのです。
恵みの雷に続いて、しとしとと降り注ぐ春の雨。
神の愛を一心に受け、稲がすくすくと伸びてゆきます。

ではここで、もう一度「伸」という字を感じてみてください。

植物の根が最も伸びるのは、水も養分も乏しいときだといわれます。
決してあきらめることなく、見えないところで四方八方へ伸びてゆく根っこ。
「雑草学」でおなじみの植物学者、稲垣栄洋氏は、その生態から得た教訓を私たちにこう、伝えます。

「干されたときこそが成長のチャンスである。土の下に伸びた根っこは、目に見えないがその植物の実力そのものである。」

これを裏付けるように、毎日水を与えられる庭の草花が日照りでしおれても、誰も水をやらない道ばたの雑草はいつだって青々と茂っています。
悪条件のもとでも腐ることなく気持ちを切り替え、根っこを伸ばし続けようとしたものだけが、真の力を手に入れる。
子どもも大人も植物も、苦しいときこそ、伸びどきなのです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(稲垣栄洋/著 亜紀書房)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年5月6日放送より)

最終更新:5/7(日) 11:00
TOKYO FM+