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ジャズ生誕100周年、柳樂光隆氏が語る 今世界で起きている新しい動きとは

5/7(日) 17:53配信

MusicVoice

 ジャズは、1917年にアメリカで初めてレコーディングされてから、今年で生誕100周年を迎える。

 アメリカで誕生したこの音楽は様々なジャンルの音楽を取り込み、様々な様式を生み、多様化していった。そして今日の日本においては酒場、レストラン、街中、そしてトイレに至るまで、BGMとして流れており、日本人が一番聴くジャンルの一つとも言えよう。

 そんなジャズに21世紀以降、世界的な“地殻変動”が起きている。ヒップホップやR&Bなどの現行の音楽を聴いて育った、次世代のジャズメンが台頭し、新しい音楽を生み出し始めている。

 この流れを受け、最新型のジャズをまとめたムック本が、2014年に日本で刊行された。その名も『Jazz The New Chapter(JTNC)』。発売当初から各方面で話題になり、今年3月までに全4巻が発売されている。

 今回、MusicVoiceではこの『JTNC』監修者であり、音楽評論家の柳樂光隆(なぎら・みつたか)氏にインタビューを実施。なぜこの本を作ったのか、今ジャズシーンで何が起きているのか、などについて聞いた。

 氏の意見や考えに触れていくなかで浮かび上がったのは「ジャズを学んだミュージシャンが作る新しい音楽」が世界的に同時多発しているという興味深い動向であった。

当時ジャズはメインストリームを扱った本が無かった

――『JTNC』を作るきっかけについて教えてください。

 元々とある出版社で「ジャズの歴史の本を作ってくれ」って話があったんですよ。範囲は全時代で、その中で新しいのも扱ってほしい、との事だったんです。でも、企画書が最終で通らなくて駄目だったんです。それから先ほどの『クロスビート』が休刊して、月間で雑誌を出さなくなった替わりに、編集者がそれぞれムックを出すという部署に変わって。それで、先ほどの編集者が初めて作るムックに僕を誘ってくれたんです。その時に、例のボツになった企画書を見せたら「これいいですね!」と。その企画を新しいものだけにフォーカスして、やる事になったのが『JTNC』の始まりです。

 現代ジャズでも、ロバート・グラスパー(鍵盤奏者)、エスペランサ・スポルディング(歌手・ベース奏者)、ホセ・ジェイムズ(歌手・椎名林檎との共演曲もある)といったアーティストはある程度のセールスがあると感じていました。だからそういうのだけをまとめたら良いんじゃないかと思ったのがまず1つ。それから、ロバート・グラスパーってまだ日本の音楽メディアでは無名に近かったんです。ジャズファンは知ってたと思いますが、大々的に彼の曲をかけるDJとかもいないという状況だったので、それをメインにマッピングしたら面白いんじゃないかなというのもありました。

 あとは、単純に情報がなかったんですよ。僕はロバート・グラスパーを『JAZZ JAPAN』でも取材していたんです。ロバート・グラスパーがグラミー賞を受賞する『Black Radio』(2012年)を出す半年以上前でしたけど、その時に資料が欲しくても役に立つものが無くて。その頃、別のアーティストでも同じような事がありました。それは当時ジャズの歴史が、2000年の頭くらいまでしかまとまってなかったからで。

――そもそもなのですが、ロバート・グラスパーとはどういった方でしょうか。

 彼は1978年生まれで、僕と同じ年のアーティストです。元々ゴスペルを演奏していて、高校・大学でジャズを学びながら、それと並行してヒップホップやR&Bのセッションもやっていた。大学卒業してからは、ジャズピアニストとしても成功して、ヒップホップ・R&Bの世界でもビッグネームと仕事をしたり。そういう経緯があって、その両方を1つにした、<ヒップホップでもないし、ジャズでもない/ヒップホップでもあるし、ジャズでもある>みたいな作品を作っています。21世紀以降のジャズが新しくなったり、色んなジャンルと混ざる象徴の様になっている人物ですね。

 1つ上の世代でブラッド・メルドーというピアニストがいるんです。彼の世代もゴールデンエイジなんですよ。ブラッド・メルドーはレディオヘッド(米ロックバンド)をカバーして、自分と同世代の音楽をジャズミュージシャンらしく、ジャズに置き換えて演奏するっていう様な事を2000年代の頭からやっていた人なんです。たぶん彼らが出発点で、そこから10年くらい経ってそれをもっと自然に出来る様になったのが、ロバート・グラスパーの世代だという風にも言えるかもしれません。

 凄く新しいのはジャズをちゃんと学んで、ジャズの世界でも一流の人が、いわゆるジャズの演奏や理論、作曲、編曲といった知識・技術を活かしてヒップホップやR&B、ロック的な演奏をしているという事なんです。ロバート・グラスパーも両方のシーンで認められています。そういう人がたくさん現れ始めている。

 そういうジャンルを跨いだジャズミュージシャンの活動をまとめる作業は誰もやっていなかったんです。あと、これは結構大事だと思うんですけど、ロックで本を作ったらその時、1番新しい人を取り上げたら売れるじゃないですか。でもジャズってメインストリームを扱ったものが無かったんですよ。その時にメジャーのレコードが出ていて、シーンでも評価が高くて、グラミー賞も獲っていて、実際に実力もあるアーティストを中心に据えて作った本が存在していなかったんです。どれも、50年代や60年代の古いジャズをメインにするか、極端にマニアックな世界とかマイナーなもので構築するかで。たぶん、海外でもあまり無いんじゃないですかね。

 クラブジャズ(90年代にクラブカルチャーの文脈で人気になった、主にヨーロッパ由来の踊れるジャズ)が流行った頃も、古いジャズの音源で踊れるものも紹介されていましたが、踊れてジャズっぽい要素が微かにでも入っていれば、何でもクラブジャズの範囲になってしまうので、ハウスとかドラムンベースとか全く関係ない音楽も入っていたんです。だからクラブジャズの本は同時代のものも扱っていたけど、あくまで<クラブミュージックの本>で、<ジャズの本>ではなかったんですよね。だから<今のジャズ>だけぽっかり空いていた。

 でもそこって最初にやれば、誰がやっても当たるんですよ。だって、今だったら、サカナクションとかSEKAI NO OWARIやSuchmosの載ってる日本のロックの本や雑誌が一切無くて、誰かがそれを作ったら絶対売れるじゃないですか(笑)。

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最終更新:5/7(日) 18:06
MusicVoice