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幻の発禁本「昭和エロ・グロ男娼日記」 1930年代の東京で性的マイノリティはどう生きたのか

5/8(月) 6:10配信

BuzzFeed Japan

「昭和エロ・グロ男娼日記」という、1931年の本がある。刊行翌日に内務省から発禁処分を受けた、幻の小説だ。当時東京に実在した「男娼」を、一人称で描いた作品。客のこと、化粧のこと、恋のこと……。モダンガール(モガ)に扮した彼女たちが、どう日常を過ごしていたのかが記されている。【BuzzFeed Japan / 籏智広太】

実話を基にしたとも言われ、当時の性的マイノリティがどう生きてきたのかを伝える貴重な史料だ。

大正後期~昭和初期に実在した男娼たち

1931年5月に発行された「エロ・グロ日記」の主人公は、女性の心を持った22歳の男性「愛子」だ。

女性の格好をした男娼として、東京で暮らす愛子。上野や浅草、銀座に繰り出す彼女の私生活が、108ページにわたってつらつらと「語り」のスタイルで描かれている。

登場する客たちはみんな、愛子にメロメロだ。

客層は会社員や日雇い労働者に始まり、企業の重役、丸ビルに事務所を構えている弁護士から退職した陸軍大佐までと幅広い。

「フィクションではありますが、ほぼ当事者の語りが忠実に、生々しく描かれている作品だと言えます。おそらく、ここに書かれていることはほとんど事実。取材に基づいたものでしょう」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、近代日本のセクシャリティについて研究している関西大学准教授の古川誠さんだ。

古川さんによると、愛子のような男娼たちが東京や大阪など大都市に大量にその姿を見せるようになったのは、大正後期~昭和初期。本場は大阪だったという。

「雑誌のルポルタージュなど、あくまで外部からの眼差しとして男娼が描かれた作品は多い。それを小説にせよ、内部の視点から描いたという意味では、『エロ・グロ日記』は非常に貴重なものなんです」

ちなみにこのタイトルは、当時流行っていた言葉「エロ・グロ・ナンセンス」を文字っているそうだ。

「あたし、オトコ、オンナなのよ」

どんなことが描かれているのか。本を開いてみよう。

“△月△日 朝起きたが、ゆうべの疲れでねむい。時計を見るともう九時半だ。またいつもの『安房屋』へ飯を食ひにゆかぬと定食の時間が切れてしまう。窓をあける。流石に朝の活動小屋はヒツソリしてゐる。まづ床の上へ腹這ひになつてバツトを一本つける“

そんな書き出しで始まる「昭和エロ・グロ男娼日記」。口語で書かれており、文体は軽やかで読みやすい。作者は流山龍之助という人物だが、ほかに著作は見当たらない。

冒頭の場面で主人公の「愛子」は、タバコ「ゴールデンバット」を吹かしながら、「ゆうべの客は随分面白い男だつた」と、昨日取った客のことを振り返る。

“何しろ、僕が例の草町の第二盛館へ連れ込むまで、あの男は僕を女だと思つてゐたらしいんだから笑はせる。「君見たいなキレイな女が、こんなところへ出るなんて、一寸以外だなあ」なんて云ひながら、ソツと僕の手を握ってひとり悦に入つてゐた“

客の男は、独り身の会社員。愛子が女性ではないと気が付くと狼狽し帰ろうとするが、彼女はこう囁く。

“ねえ、でも、あたし、オトコ、オンナなのよ。いいでしよう?だつて、ホラ、あたし、かうして髪を断髪にして、白粉をつけて、口紅をつけて、眉墨ひいて……。どこか、あなたの好きな「彼女」に似てゐないこと?“

結局、2人は一夜を共にした。男は別れ際に愛子にこう言った。

“「ねえ、君の名前何て云つたけねえ?」「僕はスツカリ君が気に入つちやつたよ」“

そうして回想を終えた愛子は、朝の支度をはじめる。

“まづコールド・クリームを丹念にマツサージユして、水白粉で生地をととのへパウダアでスツカリむらを仕上げ、頬紅をはなやかにたたいて、口紅、眉すみでシツカリとピリオドを打つ。それから乱れた髪にザツと櫛目を入れ、アイロンで巻き毛とウエーヴでポイントを打つと、見ちがへるほど美しくなつた“

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最終更新:5/8(月) 7:41
BuzzFeed Japan