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八田與一像損壊 「台湾の恩人」に政治対立の余波 地元は例年通り慰霊祭

西日本新聞 5/8(月) 10:19配信

 「台湾農業の恩人」と敬愛されてきた日本人土木技師、八田與一(はったよいち)(1886~1942)の銅像の頭部が切断される事件が先月、台南市で発生し衝撃が広がっている。背景には日本の植民地統治や国民党政権による住民弾圧を巡り、激しさを増す台湾内での政治的対立が複雑に絡み合う。日台友好を願ってきた関係者は心を痛めながらも、八田の命日の8日に例年通り慰霊祭を行うことを決定。「台湾の歴史を伝え、日台の絆の強化につなげたい」と語る。

⇒八田が建設を指揮した烏山頭ダム。完成から80年以上たった今も豊かな水をたたえる

蒋介石像損壊事件への腹いせか

 事件後の4月25日、慰霊祭に毎年参列している「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」世話人の徳光重人さん(55)と、八田が建設を指揮した烏山頭ダムを訪れた。高さ56メートル、全長1273メートルの堤防に立つと、東側に水を満々とたたえたダム湖、西側に緑豊かな嘉南平原が広がっていた。

 堤防近くの丘に設置された八田像の周囲は一般の立ち入りが規制され、地元農家などでつくる嘉南農田水利会の職員たちが慰霊祭の準備をしていた。「台湾の人々にこんなに感謝され、大切にされた八田技師の首を落とすなんて…。痛々しくて報道される銅像の映像を直視できなかった」。無残な姿になった八田像を覆う目隠し用の幕を、徳光さんがじっと見つめた。

 事件が発覚したのは4月16日。翌日には元台北市議の男がのこぎりで切ったことを認め警察に出頭した。男は「八田の歴史的評価に納得できなかった」と述べているというが、詳しい動機は明らかにしていない。

 背景にあるとみられるのが、戦後中国から渡ってきた国民党政権による住民弾圧「2・28事件」の責任を巡る対立だ。事件から70年の節目を迎えた今年、当時の国民党トップだった蒋介石を追及する声が高まり、蒋介石像を壊す事件が相次いでいた。

 台湾メディアによると、元台北市議の男は中国と台湾の統一を主張する政治団体に所属し、これまでも対立する人々に対し暴力事件や放火事件を起こしている。日本の植民地統治についても批判しており、敵対グループによるとみられる蒋介石像損壊事件への腹いせから、八田像を壊した可能性が指摘されている。

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最終更新:5/8(月) 10:19

西日本新聞