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鍵は実践とリスペクト!組織と自分をクラウド対応にする現実解とは?

アスキー 5/9(火) 7:00配信

JAWS DAYS 2017で行なわれた「自分と組織を「クラウド対応」にするための実践的な方法を考える」のパネルディスカッションでは、クラウドに行けない組織や個人の実践的な変え方が語られた。
3月11日に開催されたクラウドの祭典「JAWS DAYS 2017」の初っぱなセッションとして行なわれた「自分と組織を『クラウド対応』にするための実践的な方法を考える」。セゾン情報システムズCTO、アプレッソ代表取締役社長としてSIerの組織改革に挑む小野和俊氏と、「システムインテグレーション崩壊」など業界を騒がせる著書でおなじみ斎藤昌義氏を迎え、クラウドに向けた組織と個人を作る方策を語り合った。(以下、敬称略)
 

クラウドを本業にできない人の多さに驚き(大谷)
大谷:おはようございます! KADOKAWAという出版社のASCII.jpというITニュースサイトの記者をしている大谷です。JAWS-UG on ASCIIというJAWS-UG専門のサイトを運営している関係で、今回セッションを持たせていただきました。まず今回の「自分と組織を『クラウド対応』にするための実践的な方法を考える」というテーマに行き着いた背景を説明させてください。
 
私が長らくJAWS-UGの取材で驚いたのは、クラウドを本業にしていない参加者が多いこと。お話しを聞くと、個人としてはクラウドに興味があるので、勉強会に来るんだけど、会社としてはクラウド全然やってませんとか、上司がクラウドに理解がないという方が多いんです。
 
この話になると、だいたい「自分が転職するか」「組織を変えるか」という二択になるけど、想像に難くないと思うのですが、組織を変える方がはるかに難しい。だから、「脱藩すればいいじゃん」という帰結になりがちなんですが、そんなに簡単に転職できないという人も多い。実際、私もアスキーという会社で働いて20年になりますが、会社名からアスキーが消えても、ブランドにはとても愛着があります。会社辞めるって、そんなに簡単なことじゃないと思うんです。
 
こうしたコミュニティに参加することで自分自身は変えられますが、やっぱり組織を変える方法ってなんかないかなと。経営者やマネージャーの方々も、組織を変える方法って知りたいのではないかと思ったわけです。ということで、今回は実践的な方法を出してくれるパワフルなお二人をお呼びしました。登壇者の方々、自己紹介をお願いします。
 
斎藤:おはようごございます。ネットコマースの代表の斎藤です。システムインテグレーション崩壊とか、SIerの悪口ばかり言ってます。今日は悪口ばかりではなく、次どうすればいいのという前向きな話をしたいと思いますので、よろしくお願いします。
 
小野:おはようございます。小野です。私は昔、サン・マイクロシステムズの米国で勤務し、24歳の頃からアプレッソという会社でパッケージを作っています。4年前くらいからセゾン情報システムズのCTOという立場で、SIerの仕事も増えていて、従来型のSIを変えようとしております。
 
大谷:ここで参加者の属性を聞いてみましょうかね(といって、ユーザー企業のIT部門、SIerや受託会社、または経営者、マネージャーの方などに挙手をお願いする)。
 
小野:SIerや受託開発の方が半分以上ですかね。マネージャーや非エンジニアの方もけっこういますね。
 
大谷:ありがとうございます。
 
クラウドに行けない理由は工数が稼げないから(斎藤)
大谷:まずは「クラウドに行けない組織の問題点」を斎藤さんから語ってもらいましょう。斎藤さんは、けっこう古い会社で講演すること多いですよね。
 
斎藤:古いかはわからないですけど、トラディショナルなSIerですね(笑)。彼らがクラウドに行けない理由はシンプルで「工数が稼げないから」に尽きると思います。
 
SIerの収益構造って、工数を積み上げてなんぼ。営業利益率が5%を超えるところはめったにないので、稼働率を徹底的に上げない限り、収益が上がらないし、社員を養っていくのが困難。そうなると、工数を稼げないクラウドをやる意義を見いだせないというのが、根底にあると思います。
 
大谷:実際のSIerの立場からして、小野さんどうでしょうか?
 
小野:斎藤さんのおっしゃるとおり、SIにとって稼働率はとても重要。だから新しい系の取り組みをやると、非稼働にカウントされて、人事考課としても売り上げに貢献していないとみなされることは現実にあります。とはいえ、この先3ヶ月の売り上げを考えなければならない課長や部長クラスから考えると、利益率と稼働率を重視した評価になるのは致し方ない部分もあります。
 
でも、5~10年のレンジで新しいことができなくなるとどうなるかというと、お客様から「新しいことが提案できない」というマイナス評価を受けることになる。利益率や稼働率の重力に引っ張られると、新しいことができない会社というレッテルが貼られて、将来の仕事がとれなくなる。だから、短期的な戦略と長期的な戦略をきちんと分けて考えないと、自分たちのクビを少しずつ締めることになります。たとえ何%でも長期的な投資として戦略や組織を考えれば、活路は開けると思います。
 
斎藤:ただ、創業経営者であれば、自らリスクを負うことで腹がくくれる。でも、多くのSIerのサラリーマン経営者の場合、自分の任期中は変なリスクを負いたくない、安泰に過ごしたいと考えるメンタリティが感じてしまうんですけど、そのへんどうですか?
 
小野:ローテーションで社長が回ってくるパターンは日本でもけっこう多いし、そのときに事故を起こしたくないという心理は確かにあると思います。僕自身はそういう感覚はないですけど。
 
とはいっても、そういう社長も人間だし、もとエンジニアだったりする。そんな人たちが、新しい技術に接して若者が楽しそうにしているとか、目を輝かせているのを見ていて、それを止めるかというと、そんなことはないかと思います。
 
冒頭、大谷さんは「自分を変えるか」「組織を変えるか」という二択になるのではという話をしましたが、そもそも自分を変えられない人が組織を変えられるはずがない。自らが楽しそうなサンプルになってしまえば、直接ではないにしろ組織を変えられる可能性があります。空いている時間になんか楽しそうになんかやっているヤツが、お客様を巻き込んだり、取り組みをインフルエンスし始めたら、会社として取り組もうという流れになるかもしれない。
 
若者だけじゃなく、経営者だってPractice over Theory(小野)
斎藤:反論するつもりはないんですけど、小野さんみたいにテクノロジー大好きな人であれば、新しい取り組みに気持ちも向くでしょう。でも、経営者って、意外と世の中のトレンド勉強していないですよ。残念ながら。だから、未だに「クラウドはセキュリティが怪しい」とか、「あんなモノ使えるのか」という話を普通にする。
 
大谷:(Amazon S3のダウンを念頭に)実際この前、落ちたじゃないかと(笑)。
 
斎藤:そうそう。「クラウドは悪い、心配だ。お客様もそう言っている」みたいなネガティブな話で、自分たちが過去にやってきた存在意義を否定されないようにしているんです。決してクラウドに関心がないわけじゃないけど、「まだだよね」という心のブレーキがかかってしまっていると思うんですよね。
 
大谷:実際、上司が偵察ついでに若い者をJAWS-UGみたいなコミュニティに差し向けるってよくある話だと思うんですけど、コミュニティに参加した若い者は概して意識高くなって戻ってくる。「うちもすぐクラウドやりましょう」と掛け合って、上司が待ったをかける例って、世の中にままあるんじゃないかと思います。
 
小野:その観点で言うと、私が好きな言葉で伊藤穣一さん(MITメディアラボ所長)の「Practice over Theory」があります。理論よりもまずは実行しろという意味ですね。
 
実際あった話をします。最近、うちの会社はクレジットカード会社の基幹系システムを作っているので、いわゆるガチガチのSIerです。だから、役員とかは、ブロックチェーンやビットコインに対して、けっこう斜に構えて見ているんです。「当社とは当分はあまり関係ない」とか言うわけです。これはPractice over Theoryで行こうと思って、役員の方にスマホのQRコードを撮ってもらって、登録したインディーズウォレットに、ビットコインを送金するんです。
 
大谷:キター!!となるわけですね。
 
小野:そうです。経営者だって、役員だって、1人のエンジニアとしての興味はやっぱりあるので、体験するとけっこう楽しいんですよ。クラウドに対して懐疑的な人も、まずはAWSでEC2のインスタンス立ててもらえば、やっぱりキター!!になるはずなんです。
 
だから、Practice over Theoryは若い人だけじゃなくて、経営者に対しても有効。うちは社長にもビットコインを体験してもらいました。とにかく触らせちゃえば、役職とか、年齢関係なく、その手触りみたいなものはわかってもらえると思いますけどね。
 
大谷:出版社の私が言うのもなんですが、新しい技術を学ぶのに、特に年配の方は書籍から入りますからね。まずは体験してもらう方が重要なのかもしれません。
 
斎藤:それくらいガンガン突き上げる小野さんみたいな人がいて、それを招聘するような経営者がいれば、組織を変える力を生み出せると思うんです。でも、そういうメンタリティを持ってない人は本当に辛い。クラウドだと短期的に工数が稼げないというだけではなく、新しいサービスを作るという判断が経営的にできないこともある。ネガティブなことばっかり言ってますが、そういう問題点は根幹にあると思いますよ。
 
なんとかしなければと思いつつ、行動していない会社も多い(斎藤)
大谷:では、工数を稼げないという理由でクラウドをやらないSIerや受託開発の会社だけが業界でネックなのかいうと、意外とそうでもない。ユーザー企業側にもあるのじゃないかというのが、次の話題です。
 
現在のIT投資はIT部門だけがになっているわけではない。すでにIT部門が決裁できるIT予算は全体の半分を切っているという調査会社のレポートもあります。今まで、われわれのようなIT媒体はIT部門の方に製品やサービスを販売するため、広告という形でベンダーを支援してきました。でも、先ほどのようなデータがあると、そもそもうちの相手にする読者ってIT部門だっけ?という疑問が生じる。実際、現場部門がIT部門を介さずに外部にモバイルアプリの開発を委託してしまうことなんて散見されます。そんな中、IT部門も変わらざるをえないのではないかというのがテーマです。斎藤さん、どうお考えになりますか?
 
斎藤:僕は「システムインテグレーション崩壊」や「システムインテグレーション再生の戦略」といった本を書いてきて、多くの読者から「その通りです」という声をいただきました。でも、なんとかしなければと思いつつ、行動していない会社もものすごく多い。これはなぜかと考えたら、「お客様が変わらないから」という結論に至るんです。つまり、お客様がこれまでと同じ工数前提の見積もりを依頼する。金額に関しても、効率を上げれば上げるほど、工数が下がるので、お金を払ってくれない。SIerや受託会社の努力は報われないし、モチベーションも当然上がらない。だから、「悪いのはお客様」というロジックも成り立ちうるんです。
 
そういう状況をなんとか変えられないかと思って書いたのが、今回上梓した「未来を味方にする技術」です。ここに来ている人で、まさか読んでない人はいないと思いますが(笑)、結局ITの専門知識を持たない経営者や事業部門の方に、ITの価値、自分たちの仕事をどのように変えていくのか、生き残るためにはなにが必要なのかを、テクノロジーの話なしに伝えたいと思って書いたのがこの本です。こういう本を読むことでお客様が変わり、SIerがお客様に提供するものが変わってくれるきっかけになってくれるといいなと思っています。
 
大谷:なるほど、システムインテグレーション崩壊や再生への道の後にこの本が来たのはそういう意図があったんですね。
 
斎藤:もう1つ、こういう価値を訴求するのは、本質的にはSIerだと思っています。SIerの方々からは口をそろえて、「経営者や事業部門に会うにはどうしたらいいですか?」って聞かれるんですけど、個人的には「なにを言ってるんだ。お客様に語る言葉を作れよ」と言いたい。テクノロジーではなく、ITがどんなにお客様の仕事の役に立つか、伝えられないようなエンジニアや営業が問題だと思う。IT部門じゃなくて、エンドユーザーを変えれば、結果としてもっといい世の中になると信じています。
 
大谷:紹介された本をいきなりディスるのはなんですが、私からすると、この本の内容はけっこう知っている内容。簡単なんです。でも、経営者の方がこれを読んだら、目から鱗なんですよね。AIや自動運転のインパクトも、この文脈だったら、経営者や年配の方にも伝わるのではないかと感じました。
 
斎藤:そういう思いで、難しくないように書くのは、僕としてのかなりチャレンジでしたね。
 
ITが本来持っている楽しさが現場主導で戻ればいい(小野)
大谷:続いて、小野さん。お客様の話なので、微妙に話すのが難しいとは思うのですが、どうなんでしょうか?
 
小野:IT部門ではなく、現場部門へのシフトというのは確実にあります。パッケージベンダーとしても感じていることだし、SIerとしても同じことを感じます。総じてカジュアルな方向に流れてきています。IT部門だと納期遅れは許されないとか、仕様書から外れるのは納品NGとかありましたが、現場部門だと普通に動いてて、業務がよくなっていればいいやくらいなゆるいノリも多い気がします。でも、ITって本来はそういうものだったんじゃないでしょうか。責任を追及されるとか、失敗が許されないでワンストライクアウトとか、そういう詰められるような存在ではないはず。
 
初期のアスキーとか、マイクロソフトとか、会社ではBB弾の打ち合いするなって張り紙がしてあったとか、けっこうめちゃくちゃだったじゃないですか(笑)。
 
大谷:はい。初台のビルでも「会社でゲロ吐くな」ってわざわざ張り紙してありました(笑)。
 
小野:そういうゆるさや楽しさ、コンピューターをおもちゃと思うような文化が昔はあったけど、いつのまにか責任が問われたり、失敗が許されない文化に変わってしまった。ITの主体が、IT部門から現場部門にシフトしていていいなと思うのは、現場部門がそういうゆるさを持っているから。強制的にそういう方向に引き寄せられていているのは、望ましい方向性です。
 
斎藤:僕がこの本を書くきっかけになった出来事でもあるんですけど、現場部門の人たちから、AIやIoTの話をしてほしいという依頼が増えたんですよ。この1年で急激に増えて、しかも情シス経由ではないんです。こういう動きというか、ムードが高まってきていると思います。「僕たちITを知らないから、IT部門にお任せ」ではなく、現場部門でもそろそろIT知らないとまずいという機運が根底にある気がするんです。どうですかね。
 
小野:AIやIoTの概要を知ったり、PoC的なことを始めるということを、現場部門がやり始めたので、専門家であるIT部門がそれを知らないとはどういうことだというプレッシャーが結果的に高まっている気がします。トラディショナルな経営者や情シスの人たちって、プレッシャーによって動くという傾向があるので、結果的に動いていく会社もあるんじゃないですかね。
 
大谷:最近のマネージャークラスは「働き方改革」の名の下に、業務時間は減らせ、だけど売り上げは増やせというプレッシャーにさらされていますから、投資の価値を理解してもらえれば、月額千円程度のクラウドであれば、一気に導入が進んでしまうかもしれません。そういう意識の高い方々が集まってクラウドを推進し、IT部門がそれをサポートしてくれると、日本のIT業界はけっこう変わると思うんですけどね。
 
斎藤:それに関しては、今の日本はけっこう時間さえ減らせばいいという間違った方向に行っている気がして危惧しています。働き方に関するさまざまな自由度や選択肢を許容することが重要で、クラウドもそれを支える仕組みかもしれない。つまり、効率化や時間短縮のみにテクノロジーの変化や価値を見いだすのではなく、世の中の価値観や働き方の常識自体を変えていく、いわば「思想の変化」にITは本来価値を提供してくれるものだろうと信じています。
 
「Slack入れたら、会社が変わった」は本当(小野)
大谷:いい感じになってきたので、最後の実践解に行ってみましょう。ここに来ている人は、御託はいいから、実践する方法を聞かせてほしいという方々なので。まずは小野さんが実践していることを教えてください。
 
小野:セゾン情報システムズは昨年からSlackを全社導入しています。やってみたら、どうなるのかと思ってやってみたら、ものすごく変わって驚きました。
 
それまでは隣の部署は別の会社みたいな感じだったり、上下関係のあるコミュニケーションもなかなかうまく行かなかったり、業務中にチャットなんかしたら非稼働とカウントされるといった感じでした。でも、Slack導入したら、まさに「ツールを入れたら文化が変わった」という実現例になりました。ツールと思想が相互にフィードバックし合うというサイクルが作れるようになってきた。うちもクラウドインテグレーターに脱皮しているところですが、Slack入れなかったらここまで早くできなかったと思います。
 
大谷:Slackだけでそんなにすぐ変わるもんなんですか?
 
小野:もちろんSlackだけじゃないです。服装もTシャツ、ジーパンOKにしました。ネクタイで首締められてると、なんだか発想も狭くなるんですよね。今日みたいに首の広いTシャツだと発想も膨らみます。
 
大谷:とはいえ、ずっとスーツで会社に来ている人、いきなりTシャツになりますかね。
 
小野:うちもトラディショナルなSIerだったんで、最初はもちろん様子見です。服装自由化した翌日って、やっぱりみんなスーツでした(笑)。その後、金曜日だけ私服で来る人がポロッと出てきて、その人数が増えていき、次に水曜日もという感じになるんです。その後、大陸棚みたいなところを超えると、一気に私服化されます。
 
大谷:まあ、私服の人だらけになると、スーツの人がかえって浮きますからね(笑)。
 
小野:服装とか、オフィスの雰囲気とか、隣の人が笑っているかとかは、その事業部の経営判断に密接にリンクしているはずです。たとえば、「●●線が電車遅延で本日出社遅れます」みたいなメールって、無駄な情報じゃないですか。でも、そういう形から入る会社になっちゃうと、発想も形から入っちゃうんです。でも、Slackだと無駄なモノ削って、本質だけ書けばいいから、いろんなことが言いやすくなる。「このプロジェクト、まじでやばいと思います」みたいなことがポロッと書かれて、フェイスツーフェイスで聞くみたいなきっかけができます。些細なことをきちんと吸い上げるツールとして、Slackの効果は絶大だったんです。
 
SIerの組織対立は飲食店のホールと厨房のような自明のもの
斎藤:小野さんが指摘するように、SOR系というか、ウォーターフォールでしっかり作りましょうみたいなトラディショナルな「モード1」系と、SOE系というか、新しい顧客を生み出すような「モード2」系は、システムの作り方が違うと言うより、関わる人たちの文化が違う。それが意外と社内の対立になり得る。
 
はっきりいれば、モード2の人たちは稼げない人たちというイメージがある。新しいことをやっているのはわかるし、会社にとっては必要。でもほかの人たちからすれば、「あいつら、お金も稼げないのに、面白いことだけやってる」って、嫉みにつながる。
 
大谷:新規事業やっているところって、だいたいその圧力にさらされますよね。
 
斎藤:この対立って、けっこうどこにでもある。これに対して、僕は会社分けちゃったらどうですか?と提案したい。つまり、文化が違うんだから、業績評価の基準も違うんですよ。サービスとストックで稼ぐところに、旧態依然とした売り上げと利益をベースにした基準を同じように求めること自体が組織と現場の矛盾。だったら、組織を分けて、業績や評価の基準も分けてしまい、別の人種として扱った方がよいと思うんですけど、どうでしょうか?
 
小野:トラディショナルなSIerがクラウドに行けない最大の理由は、斎藤さんがおっしゃった文化的な対立です。当たり前の話で、やっぱり自分が否定されたらいやですよね。今までのやり方を守りつつ、失敗しないというのが「モード1」で、新しいことをスピーディにやるベンチャーみたいなのが「モード2」。僕自身は10年近くベンチャーを経営してきて、その後トラディショナルなSIerに入って、お互いが否定し合うことがよくわかった。たとえば文系に対する理系、飲食店におけるホールと厨房みたいな関係です。
 
大谷:(笑)。構造的に対立は分けられないということですね。
 
小野:トラディショナルな人たちは、新しい人たちに対して、「あいつらチャラチャラしやがって」「いつも遊んでやがって」「いつもSlackばかりしやがって」「出社時間だってバラバラだ」みたいなことをディスる。新しい人たちは、トラディショナルな人たちに対して、「上の言ったことしかできない」「自分で考える頭がないんじゃないの」「恐竜の化石の中でもとりわけ動きが遅い」とかディスる。こういう対立軸は実際にある。でも、この解決策を私は見つけたんです。みなさんメモしてもいいですよ。
 
大谷:大丈夫です。私が記事に書きます。
 
小野:敬意が足りないことが問題なんです。だから、新しいことをやりたい人は、モード1の人たちに対する敬意に満ちあふれたトークからスタートさせればいいんです。「みなさんのおかげで会社の売り上げや利益が安定しています。みなさんなしではこの会社はありえないです。本当にありがとうございます」とか言うんです。そうすれば気分悪くならないです。
 
大谷:土日出勤したときには、かみさんに「家のことありがとうね」と言ってみるって感じですかね。
 
小野:その例えはよくわからないです(笑)。そもそも奥さんと対立してないし。
 
大谷:すいません。うちでは今日出るときにもめたんで、ホントすいません(笑)。
 
小野:対立する二者はやはりお互いが敬意を払うことが大事。その上で、クラウドとか、IoTとかやってみたい、きっとあなた方にも役に立つって言えば、モード1の人たちも聞いてくれるんですよ。敬意を払うだけで、ものすごく変わります。
 
で、これを理論づけたのが実はGoogleのHRTの原則。Googleは成功したプロジェクトと失敗したプロジェクトを調べあげたところ、どんな天才エンジニアがいるチームよりも、謙虚さ(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)のHRTが関係者の間で保たれているチームの方が成功しているんですよ。クラウドの導入をメインフレームの人に提案するのも同じで、やっぱり「HRT」で行けばいいんです。敬意を払って、信用して、最後にありがとうございますと言う。敬意を払えば、クラウドは入れられる。これが僕の持論です。
 
「会社の文句言う前に、アクションしようよ」と言いたい(斎藤)
斎藤:わかります。原則論としてはすごく理解できるし、ITに限らず、どんなビジネスでも基本中の基本だろうと思います。でも、あえて言わせていただくと、なかなかそういう気持ちになれないという人もいるんです。プライドとか、不信感とか、そういう壁ってありません?
 
小野:普通にやると、確かにそうなると思うんです。でも、ビジョンとか、標語とかって、普通とは異なる方向に引き寄せるためのものじゃないですか。その点、HRTの原則やバイモーダルといった言葉って、「重力のくびきで地上に落ちそうなものを引き上げる効果がある」と思うんです。だから、行き詰まったときに実践してみると、意外と効果が出ると思います。
 
大谷:うちの会社の場合、出版だけじゃなく、Webやゲーム、映画などいろいろなコンテンツを手がけていますが、出版事業の人たちがきちんと本を作って、売ってくれているからこそ、われわれのようなWeb事業の人間は新しいチャレンジができている。そういう気持ちやリスペクトをきちんと伝えられる場が必要ということですよね。
 
斎藤:私もいろんなところで講演していますが、懇親会で必ず出てくるのは、経営者や上司の悪口です。うちの会社はダメだとか、うちの会社は遅れてるとか、そういう話題が出てくる。まあ、事実そうなんだろうし、文句を言うのはいいんだけど、そういう人には「じゃあ、あなたはなにをしているんですか?」と問いかけたい。実際、「なにかアクションを起こしているんですか? 文句言う前に、小さい成果だけでも出してみましょうよ」という話はよくします。
 
大谷:本当ですよね。こういうコミュニティに行くと、組織にもまれながら、自ら動いている人が多くて、すごく感心します。
 
斎藤:たとえば、私はIT×災害の理事をやっているんですけど、被災地に行って、ITのことを話すと、みんな思い出すのは、コピーやFAX、パソコンなんですよ。ITを使うことで仕事が楽になるなんてまったく思ってなくて、清書や記録の道具くらいにしか考えてない。でも、避難所のアンケートをサイボウズのkintoneとタブレットで作ったら、これはすごいですねとみんな興味を持って使い始める。結局、理屈じゃなくて、見せてしまう。
 
大谷:まさにさっきのPractice over Theoryですよね。
 
斎藤:そうそう。HRTでも同じで、相手に対して、まずは役に立つモノをきちんと見せてしまう。クラウドを使えば、プロトタイプすぐに作れる時代じゃないですか。だから、経営者に対しても同じアプローチがとれるんじゃないかと思うんですよね。
 
地方に行くのも選択肢。もはや東京にこだわる必要はない(大谷)
大谷:今までとまったく別の観点ですが、新しいことをチャレンジしやすくするために、組織分けちゃうじゃなく、物理的な場所を変えちゃうという方法もあるのかなと思っています。最近聞いた話だと、さくらインターネットさんって、コンテナサービスのARUKASを開発している部隊は、西新宿のさくらのオフィスじゃなくて、まったく違うマンションの一室で、スタートアップ的に事業を展開しているんですよね。
 
この延長で、地方に行くという変え方もある。組織がリモートオフィス作ってもいいし、個人であれば地方拠点で働ける会社に転職してもいい。そんな話しても、今までは給与や制度の問題で絵に描いた餅だったけど、総務省や自治体が働き方改革やスタートアップに前向きなので、意外と現実味がある。福岡とか取材していると、本当に地元の企業が盛り上がっているし、東京にこだわる必要ないよなというのが、最近の感想です。
 
小野:先ほどの斎藤さんの組織分けるという話も、大谷さんの場所を変えるという話も、いいと思います。異なるモノが混ざってしまうと、ベクトルが偏ってしまう。分けるからこそ2つの様式が共存する「バイモーダル」が実現します。
 
僕らの場合も、テクノロジーイノベーションセンターというモード2の新しいことだけやる部隊があります。ただ、両者を取り持つガーディアンがきちんと機能しないと、オーガニックでは両者は対立の方向に進みます。分けて対立させるのではなく、分けてHRTでつなぐ人が必要です。小さく成果を上げても、個人やチームにHRTがないと、モード2の人がドヤ顔して、モード1の人がうざいと言い始めます(笑)。ただ、モード1の人たちも、どこかでモード2を求めているところがある。今のままでいいと確信を持っている人は、決して多くないです。
 
斎藤:そうそう。危機感は持ってますね。
 
小野:最強のテクニックとしては、HRTの原則自体をきちんと提示すること。これって本にもなってるんで、「Googleでうまくいったプロジェクトの本を週末読んだんですよ。HRTにすごい共感して、いいなと思ったんですよ」とHRTの原則を表明するだけで、相手のガードを下げるので、そこから入ると現実的にやりやすいと思います。
 
現場から文化を作り、自らが発信していくには?
大谷:そろそろ時間になってしまったので、最後まとめをお願いします。
 
斎藤:私、そもそもSIerの人がこのセッションを聞きに来てくれているだけですごいと思っているんですよ。変だと思うんです(笑)。でも、こういう変な人をもっと増やさないといけないので、こういうイベントにいろんな人を連れてきてほしい。そして仲間を増やしていって、HRTのような文化を自分たちから拡げていく。経営者に頼るのは手っ取り早いけど、現実解ではないような気がする。現場から文化を作っていくのが重要です。
 
大谷:あとは斎藤さんの本を読まないとですね(笑)。
 
小野:斎藤さんのおっしゃった通り、SIerでここに来ている方って、珍しいと思うんです。だけど、変化が始まる時って、必ず逸脱からスタートする。生物だって、最初は水の中でしか住めなかったのが、陸上で住めるように進化していまに至っている。逸脱から始まり、当たりのモノが出たら、Practice Over Theoryで自分自身が体験例になり、そのあとHRTでその良さを伝えていく。これができれば、実践的にクラウドは普及するのではないかと思っています。僕自身もやっているし、みなさんもできると思います。
 
大谷:はい。以上で、セッションは終了になります。最後、小野さんと斎藤さんに大きな拍手をお願いします。この後も、JAWS DAYS 2017をお楽しみください!
 
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文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●JAWS-UG写真班(中井勘介、金春利幸、加我 貴志、平野文雄)

最終更新:5/9(火) 7:34

アスキー