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人も技術もあるのに日本じゃいい製品が生まれにくいからできた「Wemake」

アスキー 5/9(火) 9:00配信

オープンイノベーションプラットフォーム事業「Wemake」を運営する山田さんにサービスの概要と日本のモノづくりについて話を聞いた。

 日本のモノづくりのルールを根底から変えようとしているサービスがある。
 
 A(エイス)が運営する「Wemake」は、企業の新規事業や新製品開発をユーザーと作り上げるサービス。オープンイノベーションプラットフォーム事業とうたっている。具体的にはメーカーが出すお題に対し、サービス内のコミュニティーにいるユーザーが、アイデア出しからプレゼン提案までする仕組みだ。
 
 メーカーからのお題は「既存ブランドの新しい製品を作りたい」「自社の素材を活用して製品として販売したい」「近未来のソリューションコンセプト提案がほしい」など多岐にわたる。これまで文具メーカーのコクヨや、カメラでなじみ深いオリンパスなどがアイデアを募集している。
 
 対してコミュニティーにいるユーザーは、フリーで活動する人や大学の講師、メーカーのデザイナーなど。なかには大手メーカーに勤める伝説的なデザイナーや、賞レースで勝ち続けた人もいるそうで、現在1万人ほどがコミュニティーに登録している。
 
 エイスの代表取締役、山田 歩さんは「コミュニティーのレベルが非常に高いので、3DCGや試作品が高度で、かつ具体的なコンセプトアイデアが多い。数も1ヵ月で100~200案ほど出てくる」と話す。
 
人も技術もいいのに、素晴らしいプロダクトが出ない
 エイスがWemakeを始めたのは、日本のモノづくりに疑問が出てきたからだという。
 
 「日本でモノづくりに携わっている企業や人はたくさんいる。しかも、どれもいい技術で、優秀な方が多く素晴らしいと思う。でもそれが素晴らしいプロダクトになって結実しているかというと、自信を持って言える状況ではない」と山田さんは言う。
 
 「リソースのひとつひとつは優秀なのに、それを生かすシステムがまったくできていない。また既存のメーカーのやり方だと難しいのではないかという問題意識があった。所属している企業にかかわらず、本当にいいものを作るということに注目して、プラットフォーム上で(技術や人を)募って支援活動できるようにしたい」という思いからサービスを始めたそうだ。
 
 実際にサービスを運営し始めると、現状の商品開発プロセスに問題を感じているメーカーがたくさんいたようで、現在も問い合わせが多いという。中には執行役員から直接電話があり、「いますぐ始めたい」と言われることもあると話してくれた。
 
 一方で、コミュニティーにいるクリエイターやデザイナー側にも問題意識があるようだ。
 
つくったモノが世に出るまで時間がかかるというジレンマ
 先にも述べたが、コミュニティーには大手メーカーに勤める人もいるという。大手にいるならそこでモノづくりをすればいいのでは、と思うがそうもいかないらしい。
 
 山田さんはコミュニティーに対して「まだあまり実現できていないが、(プロジェクトを)商品化して世の中に出してあげること」に注力しているという。
 
 「商品化までのスパンが長いということは、コミュニティーにいる人たちも知っている。だが、そういう当たり前“以上のこと”を提供しないといけない。優れた作り手さんたちが定期的にWemakeに訪れて、いろいろなメーカーのプロジェクトに参加してもらえないと意味がない。Wemakeに投稿して次2年後でいいやとなってしまわないようにするためにも、たくさんのプロジェクトを動かして商品化の機会を増やすことが重要」と話す。
 
 裏を返せば、メーカーでのモノづくりは商品化まで時間がかかるのが、当たり前になっているということになる。もしかしたら商品化されないこともあるかもしれない。そこに思うところがある人が、コミュニティーにいるのではないか。
 
 つまり、商品を作るクリエイターやデザイナー側でも現状の開発プロセスに問題を感じており、そうした人たちにとって、お題があってモノを作り、短期間で実物が出てくるWemakeは理想の環境に近いのかもしれない。
 
 もうひとつコミュニティーにとってアドバンテージになるのは、コンセプトが採用されたユーザーにはしっかりと収益分配がされること。プロジェクトごとに固定報酬かロイヤリティー報酬が最初に設定されており、ユーザーはWemakeが定めるプロジェクトの「貢献度」に沿った報酬を受け取れる。
 
 コミュニティーのアイデアやコンセプトを、使い捨てにさせないシステムも好感度が高いのだろう。
 
 では、実際Wemakeでどのようなプロジェクトが結実しているのだろうか。
 
ダンボールで作る棚やカメラアクセサリーが商品化
 サービスが始まってから商品化された例は2つある。ひとつは王子産業資材マネジメントが募集した「オープンデザインを活用した新しいダンボール家具」。製紙業で有名な王子グループであり、社内外への創造的な総合包装提案する、2015年4月にスタートした若い会社だ。
 
 お題は軽量かつ強靭で、木材やスチールの代用として採用される「ハイプルエース」というダンボール材を使った新しい家具のコンセプト。使う人が自分の生活や環境に合わせてデザインできる、「オープンデザイン」を活用してほしいという募集をした。
 
 応募は61案あり、選ばれたのは2案。うち「D plus」という案が商品化された。D plusは自分でカスタマイズできる、ディスプレー向きの棚だ。ハイプルエースに規則的な十字の隙間が開けられ、そこにパーツを差し込むことで棚を作り、物を置けるようになる。軽く、自由にレイアウトを変えられるので店舗のディスプレーで使われる事例があるという。
 
 もうひとつはオリンパスのレンズだけカメラ、「OLYMPUS AIR」のアクセサリーだ。オリンパスはアウトドアでの新しい撮影体験コンセプトを募集。3Dプリンターで生産できること、という条件も付けた。応募は30案あり、カラビナマウンターなど3案が製品化された。
 
 コンセプトのプレゼンは現在も閲覧できる。商品化されたコンセプトはどれもシンプルで、すっきりとした内容であり、わかりやすくて理にかなっている。メーカーを納得させるアイデアとプレゼンはこういうものなのかと、うなるようなものばかりだ。
 
日本のモノづくりは2016年あたりから変わった
 今後の大きな目標を聞くと「僕らの手を介さずに数十、数百というプロジェクトが毎月あり、商品が生まれ、その収益が関わった人たちに還元される。そういうエコシステムがWemakeにできるのが目指すところ」と山田さんは答えてくれた。
 
 また余談ながら、最後に日本のモノづくりについての現状と問題を山田さんに聞いた。
 
 現状については「起業してから大きな潮目が2つあったと思う。ひとつは2012年にクリス・アンダーソンの『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』によるメイカーズムーブメント。もうひとつは2016年の頭くらい。オープンイノベーションが完全に実行ベースに入ったと思った」と話す。
 
 2016年についてはソニーのクラウドファンディング「First Flight」が大きいという。ソニーもこういうことをやるんだというところにインパクトがあり、さまざまなメーカーの人の認識を変えたと考えているそうだ。事実、エイスに問い合わせが増えたのも2016年頭以降とのこと。
 
 問題点は企業の現場組織が、Wemakeを借りてコンセプトや商品を作り上げる、オープンイノベーションに適していない場合がまだまだあることを挙げた。オープンイノベーションを取り入れないといけないとは思っていても、やってみると現場がどうしたらいいのか戸惑う、という場面に出くわすそうだ。
 
 山田さんの実感や、ベンチャー企業やクラウドファンディング(いまでは多くがマーケティングのためのものになってしまっているが)によって新しい製品が次々と出てくるいまの状況を見るに、日本のモノづくりが変化していることは確かなようだ。
 
 その中でWemakeのような、視点が変わったサービスが登場しているのはとてもおもしろい。
 
 今後どういう商品が出てくるのか、どういった企業がオープンイノベーションを取り入れるのかが気になるところ。歴史に残るようなものが登場することを期待したい。
 
 
文● 西牧/ASCII

最終更新:5/9(火) 11:18

アスキー