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終末期に限らない緩和ケア 専門家チームで支えるがん診療

山陽新聞デジタル 5/9(火) 11:14配信

 がん診療における緩和ケアについて、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)の佐野薫緩和ケア科主任部長に寄稿してもらった。

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 がん診療における緩和ケアは、抗がん治療継続が困難となった終末期に提供される特別なケアと思っておられる方が、一般の方はもちろん医療者にも多いのが現状です。しかし緩和ケアとは、患者さんやそのご家族の苦痛を和らげ、その人の生活の質の維持向上を支えるケアすべてをいうのであって、特別なものを指すものではありません。

 この苦痛は終末期に限らず、がんの診断時から治療中、治療終了後を通していろいろな時期にさまざまな形で存在します。痛みをはじめとする身体的苦痛は、病気による症状だけでなく検査や治療に伴う痛み、あるいは抗がん剤の副作用としても現れます。不安や抑うつ気分などの精神的な苦痛、仕事や家庭などの問題、そして病気の進行とともにみられる自分の生に対する問いや死に対する恐怖などが患者さんを苦しめます。こういった苦痛はすべて緩和されることが望ましく、言い換えれば緩和ケアの対象となります。

 患者さんの苦痛の存在は患者さんやご家族からの申告によって初めて医療者の知るところとなります。しかし患者さんによっては、どのような苦痛を、どの程度になったら、どのように医療者に伝えればよいのかがわからず、適切な緩和ケアにつながらないことがあります。その対策の一つとして、倉敷中央病院では外来受診時や入院時に、苦痛症状についての質問用紙「生活のしやすさ質問票」に答えていただく「がんの苦痛のスクリーニング」に取り組んでいます。

 「苦痛を和らげる緩和ケアはいつでもどこでも提供される」ことが重要で、当院ではがん診療に携わるすべての医療者が基本的な緩和ケアを提供するよう心がけています。さらに、多種多様な苦痛に対してより専門的な緩和ケアを提供するために、医師、看護師、薬剤師、臨床心理士、リハビリテーション療法士、管理栄養士、歯科衛生士、医療ソーシャルワーカーなど多職種からなる「緩和ケアチーム」を組織し、入院病棟や外来、がん相談などさまざまな場面で各部署の医療者とともに自分たちの専門性を生かしたケアを直接、あるいは間接的に提供しています。

 緩和ケアチームはがん患者さんが入院している病棟を毎日巡回し、病棟スタッフと個々の患者さんの苦痛緩和について検討をしています。苦痛緩和が難しい場合には直接患者さんを診察し、主治医とともにケアにあたります。苦痛を緩和するためには専門的知識と経験によるきめ細かな薬物治療を行いますが、非薬物治療の果たす役割も大きく、たとえば身体の機能低下に対するリハビリテーション、口腔(こうくう)内トラブルに対するケア、心の苦痛に対する心理的サポート、そして痛みに対する神経ブロックなども行います。

 当院では苦痛症状の強い患者さんを対象に、単なる最期を迎える場所としてではなく、より専門的な緩和ケアを受けていただく場として2013年に「緩和ケア病棟」を開設しました。質の高いケアにより苦痛緩和をはかるとともに、患者さんがその人らしく生き、生活の質を維持しながら穏やかに療養できるよう、そしてご家族との大切な時間を有意義に過ごしていただけるよう、環境づくりをしています。

 患者さんと医療者それぞれが緩和ケアを正しく理解することにより、必要な時に十分なケアが患者さんに提供され、苦痛をなくしたいという患者さんのニーズが満たされる、これが私たちの目指す緩和ケアです。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 さの・かおる 京都・洛星高校、滋賀医科大学卒。京都大学病院、高山赤十字病院、京都市立病院などを経て、2002年より倉敷中央病院外科勤務、2014年より現職。日本外科学会専門医・指導医、日本小児外科学会専門医。

最終更新:5/9(火) 11:14

山陽新聞デジタル