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「フランスはEUに反旗を翻せるほど強くない」3分の1が投票放棄、分断するフランス

5/10(水) 6:50配信

ZUU online

「米国・英国に続くグローバリズムとポピュリズムの対決」として世界中の注目を集めていた仏大統領選だが、有権者の3分の1が投票せずという、フランスにおける政治不信の現状が浮き彫りになる結果となった。

終盤の予想どおり、マクロン大統領が65.82%の支持を得て勝利をおさめたものの、右派政党国民戦線の党首、ルペン氏が33.94%の支持を集めた事実も無視できず、一国が大きく分断していることが伝わってくる。

■共和党議員「仏大統領がEUで権力を得ることはない」

マクロン大統領の勝利は、総体的に「安全牌」と受けとめられている感が強い。EU離脱や移民排除など、過激な政策をスローガンにかかげていた対立候補、ルペン氏が勝利した場合のインパクトと比べれば、どの対立候補が残っていても同様の反応が予想されたことだろう。

「右でも左でもない自由な新しい政策」を打ちだして勝利をおさめたマクロン大統領だが、実際には「新政権誕生で仏やEUが大きく変わる」といった期待や不安は、皆無に近いと見られている。

マクロン大統領の唱える多文化主義・弱者保護・欧州統合推進といった政策は、EUが目指す方向性とおおむね一致しており、非常に保守的な色合いが濃い。

共和党のブルーノ・バーナード議員 は、「これまでの仏大統領がそうであったように、マクロン大統領もEU内で突出した権力を得る可能性はない」「フランスはEUに反旗を翻せるほど強くはない」と、実質上EUを牛耳るメルケル独首相と対等に意見を戦わせるような強さが、自国の新大統領に備わっていない点を指摘した。

メルケル首相が選挙運動中からマクロン大統領を支援していたことは、度々報じられていた。選挙後も「マクロン大統領の勝利は団結した強力なEUの勝利だ」と、心から祝福する声明を発表するなど、反EU勢の敗北に安堵の胸をなで下している。

■有権者の3分の1が認めていない「大統領」

マクロン大統領が仏国民の「理想の新首相像」とは程遠いことは、投票率に反映されている。

フランス通信社(APF) の報道によると、棄権率は1969年以来最高水準の24.95%。また内務省のデータからは、無記名など無効票率が9%に達したことも判明している。ローレヌ大学の政治学者、アン・ジャド教授の言葉を借りると、「統計上、有権者の3分の1がマクロン氏とルペン氏を大統領候補者として認めなかった」ことになる。

今回の仏大統領選は両者が本選に勝ち残った時点で、米・英で見られたのと同様の現象――決定的な国内の分断が生じたことは明らかだ。伝統的な選挙区の構図が崩壊し、「右に進むか左に進むか、はたして中間地点にとどまるか」というジレンマを、国民の間に生みだした。

思想、政策、性質などあらゆる点で対極する二人の候補者は、これまで右派のフィヨン候補や左派メランション候補を支持してきた伝統派の有権者にとって、苦悩の決断であったはずだ。

マクロン大統領のEU統合推進を、受けいれららない反ルペン派も多い。これらの行き場を失った有権者は投票権を破棄することで、「マクロン氏もルペン氏も大統領として認めない」という態度を貫いた。

■本選で34%の支持を得たルペン氏が将来の脅威に?

その結果、マクロン大統領が1位(44%)、棄権率・無効票率が2位(25%)、ルペン氏が3位(22%)と、有権者の選挙拒絶がルペン氏の獲得票を上回るという歴史的な事態が生じたことが、「France.Info」のデータ で対全候補者の獲得票を見るとわかる。

マクロン大統領に対する熱狂的な支持は首都、パリを中心にしており、89.7%という高い支持率を得た。対するルペン氏の支持率は10.3%にとどまったものの、ルペン氏が本選で総体的に33.94%の支持を得たという事実が、将来的な脅威と見なす専門家も多い。

有効投票者の3分の1が、反グローバル化を唱えるルペン氏を支持したこと自体が、仏、しいてはEUの歴史を動かす何らかの兆候であるとの見解だ。

■マクロン政権は「伝統的な政党と新政党、右派と左派のバランス」をとれるのか?

マクロン大統領自身に関しては、「仏史上最年少の大統領」「親子ほど年の離れた年上女房」など、何かにつけて若さゆえの未経験さと無謀さを懸念する報道が目立つ。英BBC は新政権が「スタートアップのような要素をもっている」と形容。

仏リベラシオン新聞の元編集次長、ピエール・アスキ氏は、「旧政権が自国を滅茶苦茶にしたとの見方が強いようだが」と前置きしたうえで、「だからといって、若い世代にひとっ飛びというわけにはいかない」と警告している。

マクロン政権が成功をおさめる上で最大の課題は、「伝統的な政党と新政党、右派と左派のバランスをとる」ことになるだろうが、これは熟練した政治家でも至難の業である。投資銀行家から政治家に転身を遂げ、ある意味前大統領の失脚で一気に表舞台に踊り出たともいえるマクロン大統領に、どこまでその裁量が備わっているか、現時点では予想もつかない。

また今回マクロン大統領を支援した政治家からも、「マクロン政策を支持するわけではない」 との声が一部で挙がっている。議会はすでに、いくつにも分断しているということだ。

新政権の首相に誰が任命されるかに関しては、IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事との見方が強いようだ。

いずれにせよフランスは、「閣僚を一から築き上げる」という異例の転換期に直面することになる。真っ新の若い政権がどのような新星フランスを築いていくのか、非常に興味深い。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

最終更新:5/10(水) 6:50
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