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高級ヘッドフォンの有力トレンド「平面駆動型」の魅力はココ

アスキー 5/10(水) 16:00配信

高級機も数多く登場した「春のヘッドフォン祭 2017」。

SONOMA「Model One」
 SONOMAの静電型ヘッドフォン「Model One」はHPELと呼ばれる新方式のトランスデューサを使った最初の製品である。
 
 昨年発表され遂に2017年5月中旬に発売される予定である。平面駆動型で問題になっていた固定電極の間から音を出すという宿命から逃れて、シングルエンド(片側駆動)で振動板を動かす。HPELは振動板前面には固定電極がなく、背面にはステンレスメッシュのグリッドだけである。
 
 振動板は分割振動を防ぐためにセルと呼ばれる蜂の巣状のフレームに貼り付けられ、個々のセル単位で異なる共振周波数を持たされ並列駆動することで、大きな共振の発生を抑えているという。
 
 0.015mmの振動板は60kHzを超えるフラットな特性を持ち、左右のバラツキも±0.8dB以下に抑えられている。
 
 このHPELを駆動するためには特別な設計のアンプが必要になりSONOMAはDAC内蔵の高電圧駆動アンプを開発。1350Vものバイアス電圧をかけている。アナログ入力もあるが、これはアンプ内部でデジタル化される。その音は確かに理屈通りで、平面駆動型の弱点だった力強い低音、厚みのある中域が再現され、全域で高解像度、ハイスピードな音である。これは従来の静電型のイメージを一新させる次世代のヘッドフォンと言える。
 
0.001mmナノダイヤフラムで勝負するHiFiMAN「SHANGRI-LA」
 平面駆動型の老舗であるHiFiMANはフラッグシップモデル「SHANGRI-LA」が受注生産開始を宣言。ナノ粒子でコーティングされた0.001mm以下の薄さを誇るナノダイヤフラムを使うことで、歪みがほとんどゼロで7Hz~50kHzのワイドレンジ再生を実現した。
 
 電極にはグリッド幅が0.05mm以下になる金属メッシュを使っている。また、ダストカバーにもナノメーターサイズの細かいものを採用。ドライブするアンプはドライブ段に傑作真空管300Bをプッシュプルで使用、その裸特性の良さを生かすためコンデンサーとトランスを使わない回路設計となっている。
 
ボリューム調整には可変抵抗を使わず、リレーを使った高精度な固定抵抗切り替え型を採用、23個の抵抗を使って、24ステップで音量調整ができる。ダイナミック型の「SUSVARA」はステルスマグネットと呼ばれる技術で固定電極間を抜ける時の音の反射や屈折の影響を劇的に減少させたという。どちらのヘッドフォンも真空管ハイブリッドアンプで駆動され、平面駆動型ならでは繊細な音と広大な音場感に加えて、HiFiMANらしい華やかな高域を聴かせてくれた。
 
密閉型にこだわるMrspeakers「AEON FLOW」
 市販の平面駆動型ヘッドフォンのカスタマイズからスタートした生粋の平面駆動型メーカーがMrspeakersである。設計者でCEOでもあるダン・クラーク氏は独自開発したV-Planner型振動板を使ったオリジナル設計の「ETHER」でデビュー。その完成度の高さに驚かされた。
 
 この時に密閉型の「ETHER C」も同時に登場した。当時の発表会では、妻にうるさい音漏れを直さないと離婚すると言われたので密閉型も作ったと冗談めかして語ったダン・クラーク氏が会場を沸かせていた。
 
 今回、登場したのはティアドロップ型のポータブル用ヘッドフォン「AEON FLOW」である。小型軽量であると同時にETHERシリーズの全ての技術を搭載して、上位モデルの性能と快適さを引き継いだコスパに優れたモデルであるという。
 
 小型化するために振動板の面積が減り、これを補うためにV-Planner型振動板の導体間の幅を0.18mmから0.127mmまで狭めている。さらに振動板から出た音が固定電極に開いた穴から出る際に回折と反射の影響を受けることを嫌って、空気の流れを阻害しないガイドパーツをはめ込んでいる。
 
 これがTrue Flow Technologyウェーブガイドである。ケーブルはさらにソフトで接続部が頑丈なDUMMERケーブルを新採用した。「AEON FLOW」は低域から解像度が高くフォーカスがシャープな平面駆動型の特性を発揮した音であり、密閉型でも開放型でもその音質にブレがないことを実感した。
 
平面磁界型の製品化を目指すfinal
 国産ヘッドフォン&イヤフォンメーカーであるfinalも平面磁界型ヘッドフォンを開発中である。目標は量感と開放感を両立するために低いf0(最低共振周波数)を目指す。
 
 振動板の軽量化、振動板形状の最適化の3点である。この手段にCDの父と呼ばれた中島平太郎氏のアドバイスから薄流体層を使うことを決意。渦巻きコイル+コルゲーションの振動板をパンチングメタルで挟み、そしてドーナツ型マグネットの組み合わせでドライバーユニットを作っている。
 
 プロトタイプの音はダイナミック型に近く開放感があり、低域の量感もあった。平面駆動型らしい繊細感と空間の広さに関しては、今後のさらなる進化に期待したい。
 
80年代にブームになった平面駆動型
 平面駆動型スピーカー(いわゆる平面振動板を採用したトランスデューサー)は古くから存在した。
 
 1980年代には日本で大ブームになり、ソニー、テクニクス、パイオニア、そしてLo-D(日立)などから次々と平面駆動型スピーカーが発売され、「紙は過去の素材」「コーンスピーカーでハイファイ再生は無理」などのコピーがカタログをにぎわせた。しかし、そのブームが去ると、すっかり忘れ去られた存在となった。
 
 当時は高域、中域、低域の音の出るタイミングを揃えて、位相を正確に再現しようという「リニアフェーズスピーカー」が注目され、その延長線で平面振動板が登場した。伝統的なスピーカーユニットと言えば、中低域がコーン型、高域がドーム型かホーン型である。
 
 コーン型もドーム型も中心または外周部にあるボビンに巻いたボイスコイルを磁力で駆動する点は変わらない。この方式ではコーン型なら振動板の中心から外側に振動が伝わり、振幅に差が出てくる。分割振動と呼ばれるものが起こって音の波形が乱れる。平面振動板なら、全体が均一に動くため、より歪みが少なく位相も正確な音が出せるというメリットがあると考えられた。
 
 最初は「コーン型スピーカーに発泡スチロールを充填して平面化しただけ」から始まった平面振動板は次第に進化して3ウェイになり、大型化していった。
 
 一方でそのデメリットも分かってきた。
 
 まず、振動板の面積を大きくしていくと剛性が保たれなくなく分割振動が起こってしまう。さらに大面積の振動板を均等に駆動するのにダイナミック型をそのまま流用するのは無理がある。分割振動を抑えるために振動板の剛性を上げると、スピーカーの能率が下がる。複雑な構造になるため開発製造コストが上昇する。
 
 私も平面振動板の音に魅了されて、Apogee(アポジー)のオールリボン型2ウェイスピーカーを使っているが、パワーアンプに負担がかかり、スピーカーの正面と裏側から音が出るダイポール型なのでセッティングが難しく、正しくセッティングができると音のスイートスポットがピンポイントになり、頭を動かしただけでも音場感が変わるなどの弱点がある(っていうか弱点だらけか)。
 
平面駆動型ヘッドフォンはメリットが大きい
 これに比較して平面駆動型ヘッドフォンは弱点より利点が多い。まず、振動板を大面積にする必要がないため、分割振動が起こりにくく、強度を稼ぐ必要もない。
 
 スピーカーでは珍しいダイポール型もヘッドフォンでは普通の開放型なので問題ない。駆動方式はプッシュプルのダイナミック型が使える。さらにヘッドフォンは音源から耳までの距離が近く、ほとんどが直接波なので反射や吸収の影響を受けずに理想の平面波が聴けるのだ。そしてハイレゾ音源の登場によって、CDを超える情報量を手に入れ、平面駆動型が得意とする音場感や音の解像度が注目されたのも追い風になった。
 
 ヘッドフォンの平面駆動型にはダイナミック型と静電型(コンデンサー型)の2種類に別れている。ダイナミック型の場合、振動板にエッチング技術などを使ってボイスコイルを埋め込み全面駆動している。このため振動板全面をカバーする磁気回路が必要となり、大型化、重量化が避けられない。能率は低くドライブ能力の高いヘッドフォンアンプと組み合わせる必要がある。
 
 能率を上げるためには振動板と磁石までの距離を短くすればいいのだが、そうすると振幅がとれなくなり、大音量再生や低音再生に支障をきたす。また、振動板を磁気回路でサンドイッチするプッシュプル駆動の場合、磁石の隙間や穴を通って音が抜けるため、その時に発生する歪みが問題視されている。
 
静電型は専用ヘッドフォンアンプ駆動が前提
 振動板の理想は薄くて軽くて、剛性が高く、固有の振動を持たないことである。特に薄くて軽ければレスポンスがよくなり、ハイスピードで解像度の高い音が再生可能になる。ヘッドフォン祭で発表された静電型の振動板の厚みは、0.015mmとか0.001mm以下など想像を超える薄さである。
 
 この振動板にバイアス電圧をかけておき、固定電極をプッシュプルで配置して、音楽信号を流すと静電力が変化して振動板が動く方式である。
 
 振動板全体に均一な静電力が発生するため分割振動が起こりにくい。高電圧が必要なので専用のヘッドフォンアンプと組み合わせて使う。静電型の場合もダイナミック型と同じく固定電極の隙間を通って音が出るため、この際に歪みが発生する恐れがある。
 
 ヘッドフォンでは特殊な方式であるが、マイクロフォンではコンデンサー型がスタジオ録音用の主流になっている。
 
 
文● ゴン川野 編集●ASCII

最終更新:5/10(水) 16:00

アスキー