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星野リゾート、ブランド作りの条件とは?

5/10(水) 7:18配信

ITmedia ビジネスオンライン

 ホテル・旅館運営の星野リゾートが好調だ。2016年時点で取り扱い高は460億円、運営施設数は国内外37拠点となった。人々の間にも同社施設の認知度は高まっていて、今ではファミリーやシニア夫婦、学生グループなど幅広い層の顧客が同社の運営施設を訪れている。その数は年間150万人に上る。

【タヒチの「Kia Ora ランギロア」】

 一方で、東京のど真ん中に日本旅館をオープンしたり、大阪・新今宮エリアに新たな都市観光ホテルの開業プロジェクトを発表したりするなど、同社の取り組みには常に注目が集まっている。

 その星野リゾートの経営を指揮する星野佳路代表に今後のビジネス展望や取り組みなどを聞いた。

●ブランド作りの条件

――旭川、そして新今宮と、都市観光ホテルに関する動きが目立ちます。都市部のホテルという点では昨年開業した「星のや 東京」も当てはまるのですが、これから手掛ける都市型のホテルは新たに別ブランドを立ち上げるとのこと。どのようにすみ分けていくのでしょうか。

 星のや東京は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、パリを夢見て、世界の大都市に通用する日本旅館とはどういうものか、それを証明するためのホテルとして位置付けています。その都市というのは日本の地方都市を想定していません。

 逆に、私たちが都市観光ホテルというときには、国内地方都市の立地を想定しています。旭川グランドホテルのように既存案件もあれば、新今宮のように新築の案件もあるので、そうしたものを包含した新たなブランドを考えていかねばなりません。

 星野リゾートは今、決して都市観光ホテルだけに注力しているわけではありません。実は温泉旅館ブランドの「界」はもっと熱心に取り組んでいます。当社にとっては珍しく数値目標を掲げていて、現在14軒の施設を30軒に増やすことを目指しています。

――30軒という目標を達成する時期は?

 界を世界に広くマーケティングするには30軒くらい必要だと思っています。1施設当たりの客室数が40室とすると、30軒で1200室。これだけの規模であれば世界にもしっかり情報発信できるし、パワーにもなります。そう遠くない先に実現したいです。既に九州で3軒ほど案件が決まっていて、残り10軒と、目標達成が見えています。

――都市観光ホテルの新ブランドの中身についてはこれからということですが、星野リゾートのブランド作りにおける条件は何ですか? 直近だと2011年の界ブランドがありますが。

 第一は日本人が読めることです。以前、「蓬莱(ほうらい)」という温泉旅館を運営していましたが、漢字で書いても若い人はなかなか読めませんでした。「白銀屋(しろがねや)」という旅館も「はくぎんや」と読まれてしまいました。日本の若い人たちが温泉旅館に親しんでもらうためには読みやすい漢字であることが大事です。

 次に外国人でも発音できることです。白金屋は発音しにくいし、長すぎます。最後に商標が取れることです。

 それ以外、あまりこだわっていません。ブランドを作るときには、日本人が読めて、外国人も発音しやすくて、世界の旅行エージェントが覚えてくれる、それが条件です。「リゾナーレ」は私が作ったブランドではないので、この条件からいくといま一つ。短いフレーズというのが大切ですね。

――そのほか新しいブランドを作る上で心掛けていることは?

 特にないです。この条件を満たすだけで精一杯です。あまりブランドの意味合いに思いを込めたりしてもうまくいかないと思っています。

●スマートウォッチで大失敗

――星のやの海外展開の具体的な見通しは?

 東京も突然決まって、突然スタートしました。結局は収益なのです。都市で日本旅館が採算合うと分かった瞬間に世界の投資家は興味を持ってくれます。世界の大都市というのは、新しいホテルのプロジェクトが年間いくつもあって、どんどんホテルは増えているのです。新しいコンセプトを皆が常に探している状況なのです。

 だから星のやが都市でも通用するのだということさえ証明できれば、必ず興味を持ってもらえます。そのためにも星のや東京の収益をしっかり上げることが重要なのです。

 それに向けては運営方法が大事です。単に集客できれば良いというだけではなく、労働生産性が西洋のホテルよりも高いということを証明していきたいです。

――星野リゾートの施設では従業員のマルチタスクによって生産性向上を図ろうとしています。業務改善を進める上でITを活用することはあるのでしょうか?

 例えば、業務マニュアルをスマートフォン向けに動画配信して、研修でのスキルアップに役立てています。また昨年、スタッフの労働時間を正確に把握することが生産性向上につながるということで、どの場所でどのくらいの時間いたのかというデータの収集をスマートウォッチでやろうとしました。これは大失敗して、いったん止めました。

 テクノロジーの活用は果敢に挑戦するようにしていますが、今のところ成功と失敗は半々です。試行錯誤を繰り返しているところです。

――スマートウォッチが失敗したのはなぜですか?

 施設内のネットワーク回線の問題もあって、正確にデータがとれませんでした。そのほかにも施設のインフラ面で不具合が多かったです。今後は設計する段階でそうした実験をすることを想定しておかねばと思いました。

●数値目標は持たない

――インバウンド(訪日外国人観光客)については、それよりも日本人の国内観光客の方が重要だと星野代表はよくおっしゃっています。一方で、星のや東京は6割が外国人客、「星のや京都」は4割と、インバウンド需要も取り込んでいます。

 「界 津軽」は外国人客が3%ですよ。世界ではインバウンドマーケットが伸びているので無視してはいけませんが、依存しすぎてはならないということです。ある国に特化しないことも重要で、集客を分散することによって安定につながるからです。

 ただし、日本の場合は観光マーケットの半分以上がインバウンドになるということはあり得ません。(2020年に4000万人という)政府の目標を達成したところで、国内需要はまだ7割あります。まずは日本人観光客の需要を大切にして、日本人に受けるものを作り、それが結果的にインバウンドにも受けるというアプローチをとるべきだと思っています。

――現在、国内外で37施設を運営しています。この数は順調だと思われますか?

 施設数や売上高など、基本的に数値目標は持ちません。淡々と事業を進める中で、結果的に施設や売り上げが増えたととらえています。あまり数字ありきで仕事をしない方がいいと思っています。

 一方で、集客の仕組みには目標を持っていますし、各施設を運営するスタッフの組織文化や、そこで仕事することが楽しいと思える環境を作ることにはこだわっています。

 1つ1つの施設を運営するには相当な労力を使っているので、ここまでの成長が予想以上ということはないし、スピードが遅いという感覚もありません。

――今や星野リゾートに運営をお願いしたいという引き合いは多いと思うのですが、案件を選ぶ基準はありますか?

 何でも受けるようにしています。例えば、タヒチの「Kia Ora ランギロア」はほかの施設とまったくシナジーが効かない場所ですが、投資会社から依頼されて、私たちの力がプラスになるのであればということで運営を始めました。それなりに業績は伸びています。

 私たちの運営手法はグローバルで通用すると思っているし、任せてもらえるのであれば、あまり基準を設けずにどんどん運営していきたいです。

 ただし、国内で今後増やしていくときに大事にしているのは、星野リゾートのファンが日本中のいろいろなところに行ってみたいというニーズに応えられるかどうかという点です。その観点で考えると、拠点のないエリアに出していくことが、今まで以上に重要になっています。

 例えば、本拠地の軽井沢には既に大きな施設がありますから、そこにもう1軒出すよりも、星野リゾートが拠点を持っていない場所に出す方がが当然優先順位は高いのです。顧客は、星野リゾートは日本の訪れてみたい地域に必ず施設があると期待してくれているわけですから。青森には3施設あるけど、岩手や秋田には1軒もありません。これは問題だと思っています。

 沖縄もそうです。沖縄は大きな観光マーケットで、星野リゾートも離島には施設を持っていますが、本島にはありません。沖縄本島にないことを不思議に思っている顧客さえ出てきている状況は問題です。ですから、読谷(よみたん)のリゾート開発プロジェクトに取り組んでいるのです。

 国内に関しては、戦略的に施設を持たないといけない場所はまだ多いです。

●リピーターをどう獲得?

――星野リゾートの来客数は年間約150万人。リピーターの割合はどのくらいですか?

 施設によってだいぶ差があるのと、現在、施設を予約してくれる人のうち会員登録しているのは50%弱なので、正確な数値は把握できません。

 ただ、私たちは同じ施設に何度も来てもらうというのをあまり重視していません。それよりも、星野グループ内でのリピートが大事だと思っています。青森や沖縄など、星野リゾートがあるからそのエリアに行ってみたいという旅のニーズに応えていきたいです。

――グループ内のリピーターを獲得するためにやっていることはありますか?

 星野リゾートは顧客データを収集して、特定の顧客に対してディスカウントしたり、宿泊するとポイントを提供したりということはやっていません。

 大切なのは、星野リゾートのファンになっていただき、リピートしてもらうということを、現地のスタッフがきちんと理解しているかということです。例えば、過去に東京や京都の施設に訪れた顧客が、今回は鬼怒川にいらっしゃったのだということを、現地のスタッフは皆把握してサービスしています。

 「この宿泊客は星野リゾートに何度も来たことがある人だ」と思ってサービスをできるかどうかは重要なことです。その上で各地域の魅力をしっかり伝えていくのが、リピーターを増やすために大切だと考えています。

(伏見学)