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KEFが仕掛けた価格破壊、新「Qシリーズ」の実力は?

5/10(水) 16:23配信

ITmedia LifeStyle

 「Uni-Qドライバー」と呼ぶオリジナリティー豊かな同軸型ユニットの開発によって、KEFのスピーカーは大きな変化を遂げた。最上位モデルの「ミューオン」を筆頭に、現在ではリファレンス・シリーズ、Rシリーズ、Qシリーズ、そしてブレードと呼ぶスリムなスピーカーにもこの方式のユニットが採用されているが、このユニットでしか描き出すことのできないサウンドに多くのオーディオファンがひきつけられている。

「Q750」の内部構造。Uni-Qドライバー収容部分を密閉構造とした

 そしてこの度、彼らが“スタンダード・ライン”に位置付けるエントリークラスの「Qシリーズ」が、5年ぶりにリニューアルされることになった。KEFのもの作りは徹底していて、ユニット、エンクロージャーともに、前作をしのぐ完成度に到達するまで新製品をリリースしないことでも知られるが、新世代のQシリーズは前作よりリーズナブルなプライスの設定がなされていることでも話題を集めることだろう。クオリティーを高めつつ値下げを断行する……。ニューQシリーズは彼らの自信が漲(みなぎ)った常識外れのモデルなのである。

すべてグリルは別売(1500円~5000円、1枚)

 KEFは1961年に英国で生まれたスピーカーメーカーだ。当初は英国のNHKに当たるBBCに向けたモニタースピーカーを作っていたことでも良く知られている。そしてKEFのスピーカーが飛躍するきっかけを作ったのが、1978年に誕生した「Uni-Q」(ユニキュー)と呼ぶ同軸型のドライバーユニットだった。スピーカーが理想とする点音源を実現するために開発されたUni-Qドライバーは、以来改良が施され名実ともにKEFの顔になったのである。

 ニューQシリーズは、同軸型ユニットを1基採用したブックシェルフ型の「Q150」と「Q350」、同軸型ユニットに加えてウーファーとパッシブラジエーターを組み込んだフロアスタンディングの「Q550」「Q750」「Q950」、そしてマルチチャンネル用のセンタースピーカーとしてリリースされた「Q650」でラインアップが構成されている。モデルによって使用するユニットのサイズは異なるが、いずれも同軸型のUni-Qドライバーの内部構造を改めたところに特徴がある。振動板はアルミ製だが、ツイーターのローデングチューブを円柱形から円錐(えんすい)形に変更することで、高域の減衰特性を改善しローレベル時の再現能力を高めることに成功した。

 ウーファーに関しては、アルミ製振動板の周辺を支えるエッジ部分の幅を広くとり、あわせてスパイダーの形状を変えることでボイスコイルの動作領域を広げているほか歪(ひずみ)も低減した。パッシブラジエーターについても、ウーファーの仕様に合わせて最適動作を可能にする設計が施されている。

 エンクロージャーのサイズは前Qシリーズと同様だが、ここでも新シリーズはユニットの特性が引き出せるよう、さまざまな工夫が加えられた。同軸型ユニット1基のQ150とQ350は、従来オフセットして取り付けられていたものを「LS-50」同様中心部に取り付け、ポートを背面に移すことで中低域の干渉を抑えてクリアなサウンドの再現に努めている。

 フロアスタンディングのモデルについても、旧シリーズではUni-Qドライバーとウーファーそれぞれにパッシブラジエーターがあてがわれていたが、新シリーズではUni-Qドライバーは密閉型のエンクロージャーで隔離され、ウーファーの上下にパッシブラジエーターを配置する新しいレイアウトを取っている。さらにユニット配列が変わったことで、エンクロージャー内部の構造も刷新され、より強固な作りになった。

 センタースピーカー用としてリリースされたQ650は実にユニークな形状のエンクロージャーを採用している。中央部に同軸型のUni-Qドライバーを配し、左がパッシブラジエーター、右がウーファーという特殊な構成になっているが、エンクロージャー内部はUni-Qユニットを収納した密閉型ボックスの後ろをつなげることで、ウーファーの最適な動作が行えるよう工夫を凝らしたのである。

 ブックシェルフ型のQ-150は、130mm口径のUni-Qドライバーを採用するコンパクトなスピーカーだが、このサイズのモデルとしては別格の表現力を備えているといってもいいだろう。低域にかけてはいくぶん甘くなるものの詰まった感じはないし、スムーズなボーカルを聴かせる。Q-350はUni-Qドライバーの口径が165mmまで大きくなることで音に余裕が生まれる。感心したのはトゥブ・ローのアルバム「レディ・ウッド」のような電子楽器を多用したオルタナティブ音楽にもびくともせずパワフルなサウンドを聴かせてくれることだ。コンパクトだからといって高を括っているとこの低音域が濁るので、スタンド選びとセッティングには心して臨みたい。

 フロアスタンディングのQ-550は130mm口径のUni-Qドライバーに同じく130mm口径のウーファーと2基のパッシブラジエーターで構成されるので、ブックシェルフ型のモデルに比べるとボーカルのニュアンスも細やかになるし溌剌(はつらつ)とした感じが生まれる。気張った感じがなくさりとて気負った感じもない。いい意味で耳によく馴染むし安心して聴ける点がうれしい。

 Q-750はブックシェルフ型のQ-350に同サイズのウーファーと2基のパッシブラジエーターを加えた構成だが、私は今回の新製品を試聴して、このモデルが一番バランスのとれたサウンドを再現すると思った。スケール感も十分描き出すし、結構細やかな部分にまで目配せした表現力を備えている。ボーカルソフトはいずれも声がリアルでトゥブ・ローはスピーカーの外にまで作り込まれた空間が広がる。マイケル・スターン指揮カンザスシティ・オーケストラの演奏するサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン」のSACDでも、バランスの良い音が聴けるし、弦楽器のニュアンスも実に豊か。収録されたカンザスシティのヘルツベルク・ホールの響きも良く捉える。

 Q-950は、ニューQシリーズの中で一番の大型モデルだ。搭載されている同軸型のUni-Qドライバーもウーファーも2基のパッシブラジエーターもシリーズの中で一番大きい200mm口径なので、中低域にかけての量感が増す感じである。サン=サーンスのパイプオルガンは低域がゆったりとしてたくましい。いくぶん太い感じがしなくもないが、ボーカルソフトではこの堂々とした振る舞いが温かみのあるサウンドを耳元へ届ける。パッシブラジエーターの動作もきびきびしているので大味な感じはなかった。

●マルチチャンネルで試聴

 センタースピーカーとしてリリースされたQ-650のパフォーマンスを確認するため、フロントにQ-750、リアにQ-350を使ったマルチチャンネル・システムで映画ソフトを視聴してみた。この組み合わせではユニットのサイズが統一されることもあってつながりが良く、スケールの大きな音場空間が出現する。またQ-650は引き締まったダイアローグを描き出すので、マルチチャンネル・システムを構築したいファンにはこの組み合わせをおすすめしたい。

 ニューQシリーズはいずれのモデルともに深みのある低音域とスムーズな中高音の再現を可能にすることで、前作より落ち着きのあるサウンドを聴かせてくれることが何よりの魅力だと思う。機会があればぜひとも一度これらの製品の音を耳にしていただきたいが、ブックシェルフ型の2つのモデルは、その価格からは想像もできない体験ができるはずだ。

 なお、ニューQシリーズは現時点ではブラックとホワイトのカラーが用意されているが、ホワイトのほうが重い感じにならないので、リビングで使うならホワイトも選択肢に入れたい。またこのシリーズから大胆にもスピーカーグリルはオプション扱いで、標準装備されていない。ダイレクト感のある音作りを大切にしたいというKEFの判断なのだろうが、こうした部分にも本体コストを抑えてクオリティーを高めたいという意識が現れているように思った。

●潮 晴男(うしお はるお)氏プロフィール

オーディオ・ビジュアル評論家・音響監督。オーディオ・ビジュアル専門誌をはじめ情報誌、音楽誌など幅広い執筆活動を行う一方、音響監督として劇場公開映画やCDソフトの制作・演出にも携わる。ハリウッドの映画関係者との親交も深く制作現場の情報にも詳しい。またイベントでのていねいで分かりやすいトークとユーザーとのコミュニケーションを大切にする姿勢が多くのファンの支持を得ている。

最終更新:5/10(水) 16:23
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