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<20年東京パラリンピック>育成から参加へ 楽しめる場に

毎日新聞 5/10(水) 22:43配信

 2020年東京パラリンピックに向けて、トップアスリートの育成だけでなく、誰もがスポーツを楽しめる環境の整備を求める声が高まっている。スポーツ庁の調査報告書によると、車いすが必要な肢体不自由の重度障害者の36.9%が「スポーツ・レクリエーションを行いたいと思うが、できない」と回答した。興味や関心があるのにスポーツを楽しめていない現実が浮かんでいる。【長田舞子】

 3月上旬。東京・旧中川の水面をカヌーが風を切って進む。乗っているのは東京都江東区の中学2年の増田汐里さん(14)。生まれつき二分脊椎(せきつい)症で水頭症も合併しており、車いすで生活している。競技歴は約3年半。16年9月には東京都アスリート認定の育成選手にも指定された。汐里さんは「東京パラリンピックを目指している」とほほ笑む。

 川が多い江東区は20年東京五輪・パラリンピックのカヌー会場に予定されている。15年からは元々あった船着き場に障害者もカヌーに乗りやすいように「浮き」を設置。練習にも区のカヌー協会関係者やスポーツ振興課の職員が付き添い、サポートしている。汐里さんは現在、区から派遣委託された会社のコーチと週2回、1時間ほど練習する。艇やパドル、ライフジャケットは協会から借りている。

 だが、障壁はある。体に合った競技用の道具を使いたいと思っても、成長期の子どもはすぐに買い替えが必要になるため、なかなか手が出せない。身近に同年代の練習相手やライバルがおらず、競い合えない。父泰之さん(44)は「各自治体でいろいろな競技の道具を保管し、共有できるような仕組みがあれば、パラスポーツを楽しむ人の裾野がさらに広がるはず」と期待を込めて語る。

 千葉県柏市の阿部公一さん(26)も「もっと身近にスポーツができる環境があれば」と願う一人だ。14年11月に原因不明の高熱が出て、その後に脊髄(せきずい)の病気と診断された。下半身が動かなくなり、車いす生活となった。

 病気から約1年後、入院していた茨城県阿見町の県立医療大付属病院の理学療法士に車いすバスケの体験会に誘われた。車いすバスケをしている時は無心で体を動かすことができ、ストレス発散にもなった。

 退院後もバスケをするため車で片道1時間かけて付属病院に月3回通う。「本当は近場で週1回はやりたい」と阿部さん。県内にも車いすバスケのチームはあるが、阿部さんは競技用の車いすを持っていない。実力的にも不安があるため、気軽に参加するわけにはいかない。

 以前、体を鍛えたいと思い、市の体育館を訪れたことがあるが、入り口の側溝の穴に車いすの前輪がはまり、スロープも角度が急で1人では上りきれなかった。「市の体育館ですら自由に1人で利用できないと、声をあげるよりもあきらめることを選んでしまう」とため息をついた。

 2015年度の文科省の調査報告書によると、週1日以上、何らかのスポーツ・レクリエーションを実施している割合は一般成人がほぼ半数であるのに比べて、障害者は7~19歳が31.5%、成人が19.2%にとどまる。国立障害者リハビリテーションセンターの上出杏里医師は「障害者にとってスポーツをすることは社会参加に向けた自立、自律への一歩を踏み出す後押しになる。スポーツを純粋に楽しめるような環境の整備が必要」と指摘している。

最終更新:5/11(木) 3:32

毎日新聞