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対イラン・ビジネス停滞 トランプ大統領を”忖度”

ニュースソクラ 5/10(水) 12:30配信

経済制裁解除後も大型商談成立せず

 「日本はいつまで米国の顔色をうかがっているのか」―イラン政府の関係者は今年2月、筆者とのインタビューで、日本企業とのビジネスが遅々として進展しない現状をこう吐き捨てた。

 2016年1月に経済制裁が解かれたイランはその数週間後、日本政府と投資協定を締結した。ところが、協定締結から1年以上を経過した現在も日本企業がイランとの大型商談の成立に漕ぎ着けたとの情報はほとんど伝わっていない。こうした背景に対イラン強硬策を掲げるトランプ米政権への配慮があるとみられている。

 日本政府は今年1月、自民党の高村正彦副総裁をイランに派遣する予定だったが、これを急きょ中止すると発表した。その理由について、イランのラフサンジャニ元大統領が1月8日に死去し、イランが服喪期間に入ったためとした。当時、米大統領に就任直前のトランプ氏が「オバマ政権下のイラン核合意は愚かなディールだった。これを破棄する」と牽制していたこともあり、日本側は米国政府の心証を損なうと判断したとの見方が一般的だ。

 これに対し、アジア勢をはじめとするイランへのインフラ・エネルギー開発事業への進出が目立つ。最近の事例をみても、イスファハン製油所の近代化プロジェクトで、イラン国営石油会社(NIOC)が韓国石油化学大手の大林産業と大型商談に漕ぎ着けたほか、中国輸出信用保険公司(SINOSURE)がアバダン製油所に13億ドルの融資枠を設定するなどの動きが伝わる。

 また、インドのイラン産原油の輸入量が2016年に過去最高(日量約47万バレル)を記録したほか、フィリピンがイランと原油輸入、資源開発投資で本格交渉に入ったとの情報も報じられている。アジア勢の積極的な動きを受け「中国や韓国企業などに比べて日本企業の動きは消極的」(イランの石油会社首脳)との声も聞かれる。

 ところで、5月19日に実施されるイラン大統領選挙に向け、イラン内務省は4月20日、護憲評議会の審査を通過した6人の候補者を公表した。現職のロウハニ大統領(保守穏健派)のほか、最高指導者のハメネイ師に近いとされるライシ前検事総長(保守強硬派)、ガリバフ・テヘラン市長らが選出された。

 ロウハニ大統領の再選が確実視されるなか、イラン国内では反米ムードが再燃し、米政権に対する強硬派の言動が勢いを盛り返すなど、大統領選のゆくえは予断を許さない状況になりつつある。このタイミングに合わせるかのように、トランプ米大統領が「イラン核合意」の再検討を関係当局に指示したほか、イランと断交関係にあるサウジアラビアなど中東諸国をマティス米国防長官が訪問し、関係国のトップらと会談を重ね、イラン包囲網を張っている。

 イラン市場に再参入しようと、欧州やアジア諸国がイランに急接近するのとは対照的に、イランとの距離を置く日本政府は、3月半ばに来日したサウジアラビアのサルマン国王との間で、あらゆる分野における経済協力に合意するなど、サウジアラビア寄りの姿勢を鮮明にした。

 米国が今後、イラン核合意の破棄に加え、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するといった強硬手段に踏み切れば、イラン政府は対抗措置としてホルムズ海峡の封鎖に出るなど、中東地域における地政学リスクが一気に高まることも想定される。米国とイランとの対立激化によって、日本がその煽りをまともに食うことをあらためて認識しておく必要があるだろう。

■阿部 直哉(リム総研・エネルギーコンフィデンシャル担当)
1960年、東京生まれ。慶大卒。ブルームバーグ・ニュースの記者・エディターなどを経て、リム情報開発のリム総研に所属。1990年代、米国シカゴに駐在。
著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。

最終更新:5/10(水) 12:30

ニュースソクラ