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出自知る権利、対応は現場任せ 母子の孤立や貧困…「赤ちゃんポスト」開設10年

西日本新聞 5/10(水) 10:09配信

 熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を開設して10年。親が育てられない子を匿名で受け入れる異例の取り組みは、幼い125人の命を未来へつないだ。思春期を迎え、出自を知らずに育つ人権上の課題に直面しつつあるが、対応は現場任せで国や自治体の制度的検討は手つかずのままだ。妊娠に関する電話相談は増え続け、母子の孤立や貧困などの現実も浮かび上がる。

⇒【画像】慈恵病院の新館外壁に設置された「こうのとりのゆりかご」。扉を開けると保育器がある

 年間十数件のペースで院内に響く突然のブザーは、ゆりかごに乳幼児が預けられた合図だ。看護師らは階段を駆け降り、保育器へ向かう。竹部智子看護部長(49)は「赤ちゃんの無事を確かめるまでの緊張感は慣れることがない」と明かす。

「養親を支える公的仕組みが乏しい」

 ある元職員は、育ての親(養親)からの手紙を大切に保管している。成長を知らせる便りもあれば、厳しい現実の内容もある。

 数年前の一通。養親は3歳になった子にたたかれたり、物を投げつけられたりしていた。幼児が大人の愛情を試す特有の行動。小学生になり親子関係は改善したと聞くが「結果オーライではいけない。養親を支える公的仕組みが乏しい」と元職員は言う。

 初期に預けられた子は中学生になった。匿名で預けられたため、生みの親の素性や経緯などを知ることができない事例もある。命を最優先する病院側は「匿名でなければ守れない命もある」との立場。対照的に子どもを保護する児童相談所は、実親を見つけることが里親委託や特別養子縁組につながる早道で、子の養育のプラスという。子どものため、それぞれに譲れない一線がある。

「国は逃げ続けてきた。きちんと見解を示すべきだ」

 出自を知る権利を巡っては、同院が取り組みを参考にしたドイツは2014年に「内密出産法」を施行。相談機関に実名を明かしても、医療機関では匿名で出産ができるとの内容だ。

 ゆりかご設置の07年、第1次政権の安倍晋三首相は「大変、抵抗を感じる」と不快感を示したが、匿名で預かることに関しては法的位置付けが今も曖昧だ。ゆりかごの利用状況を検証する市の専門部会長の山縣文治関西大教授(62)=児童福祉=は「国は逃げ続けてきた。きちんと見解を示すべきだ」と指摘する。

 同院が開設した24時間対応の妊娠相談電話は、昼夜を問わず鳴る。妊娠の仕組みすら知らない幼い声の相談から、不倫、貧困、相談相手がいない孤立など内容はさまざま。16年度の相談は過去最多の6565件に上った。

=2017/05/10付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞社

最終更新:5/10(水) 14:24

西日本新聞