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「個人開発者は“孤独な開発者”になってはいけない」――ヒットアプリ作者が語る“レッドオーシャンの泳ぎ方”

ITmedia NEWS 5/11(木) 7:25配信

 レッドオーシャンといわれるスマートフォンゲーム市場で、どのようにして個人でゲームアプリを作って生きていくか――そんなテーマの講演が、ゲーム開発者向けイベント「Unite 2017 Tokyo」(5月8~9日、東京国際フォーラム)で行われた。登壇したのは、個人ゲーム制作者のいたのくまんぼうさん、通称「和尚さん」だ。

【画像】和尚さんが作った“ヒットアプリ”

 和尚さんは、もともと家庭向けゲームの開発者。「不思議のダンジョン」シリーズ(チュンソフト)などの制作に携わってきた。独立後は、AppStoreランキングで1位を獲得した「江頭ジャマだカメラ」など、8年弱にわたってヒットアプリを次々と世に送り出している。和尚さんが考える、レッドオーシャンの“泳ぎ方”とは。

●個人ゲーム制作は「宝くじよりは希望がある」

 「ヒット作は宝くじを当てるようなもの。当たるまで作り続けるしかない」――和尚さんはそう話す。「当たるその日まで、制作を続けられる環境を保つことが大切」という。

 「最初から完全独立するのではなく、会社に勤めながら余暇でゲームを作り、ゲームが売れてきたら独立し、収益が安定するまでは受託仕事もこなすのがおすすめ」

 ゲーム制作は「宝くじよりは希望がある」と和尚さん。その苛酷さは「サバンナ」並みと評しつつ、“生存確率”を上げる方法もあるという。

●「開発者ブースト」「ストアフィーチャー」……生存確率を上げる方法

 和尚さんは、スマホユーザーの特性を「ゲーマー層よりも、暇つぶしを求めている一般ユーザーが圧倒的に多い」と分析する。

 一般ユーザーは、アプリのゲーム性が高いと逆に「面倒くさい」と感じてしまう可能性もあるという。「ゲーマー層と一般ユーザー層は、映画館に能動的に見に行くユーザーと、テレビから流れる映像を受動的に楽しむユーザーの関係性に近い」。

 受動的な一般ユーザーに対し、どのようにゲームをアピールすればよいのか。「自分から見にこないユーザーには、こちらから届ける必要がある」と和尚さん。「『開発だけしていたい』『プロモーションは面倒』という気持ちはよく分かる」と前置きしつつ、「死にたいのか!!」と一喝する。「個人でゲームを作っていくのなら、販売担当も自分自身。知られていないゲームは、存在していないのと同じ」(和尚さん)。

 では、会社や組織に頼らず、個人でも可能なプロモーションとは何か。和尚さんは、難易度が低いプロモーションの例として「各種メディアやレビューサイトにプレスリリースを送る」「TwitterやFacebookで告知する」などを挙げる。特にTwitterなどでは、通称「開発者ブースト」というテクニックが有効という。

 「SNS上では、ゲーム開発者同士がつながっていて、リリースの投稿をシェアして応援し合う『優しい世界』ができている。意外と無視できない効果がある」。和尚さんが開発したパズルゲーム「a[Q]ua」の公開時には、宣伝ツイートが約300リツイートされ、インプレッションは約20万回、ダウンロードURLのクリック数は1000以上だったという。

 SNSを使ったプロモーションだと「口コミ」を狙う方法もある。他人に自慢したくなる要素、他人に見せたくなるネタなど、SNS上でシェアを促す仕掛けを用意することで、「ツボにはまってバズると爆発的な拡散力になる」という。

 昨年、大きな話題となったゲームアプリ「ひとりぼっち惑星」(ところにょりさん制作)もその一例だ。同アプリでは、一方通行のメッセージを送れる機能があるが、ユーザーが受け取ったメッセージをTwitterなどでシェアすることが流行した。「SNS文化とゲームシステムがかみ合った成功例だと思う」(和尚さん)。

 難易度は高いが「ストアフィーチャー」を狙う手もある。ストアフィーチャーとは、AppStoreやGoogle Playで「おすすめのアプリ」として、ストア運営側からピックアップしてもらうことだ。「(和尚さんが作った)a[Q]uaの場合だと、1日のダウンロード数が数千~1万数千件に。2週間ほど掲載されたので、約20万ダウンロードにもなる」という。

 フィーチャーされるには「高いクオリティーが絶対条件」と和尚さん。ただ、フィーチャーされるゲームを見ていると「各ストアが好むデザイン、雰囲気の傾向がある」という。「フィーチャーを待つだけでなく、こちらからストアに売り込む方法(窓口のメールアドレス)も実は公開されている」(和尚さん)。

 人気が出たアプリが、テレビ番組やYouTuberに紹介されると「効果は絶大」。取り上げられるかは運次第だが「紹介してほしいアプリを募集しているYouTuberもいる」として、積極的なプロモーションをするよう、和尚さんは促す。

●「作家性」がダウンロード数につながる

 こうしたプロモーションをより効果的にするには「作家性が重要」という。「強いこだわり、一貫した世界観など、作家性を感じるゲームは印象に残りやすい。話題になったり、ダウンロード数を伸ばしたりしているアプリは作家性を感じる。個性と言い換えてもよいが、(開発者の)ブランドになる」(和尚さん)。

 例えば、1つの作品を好きになったユーザーが、同一作者の他のアプリにも気になるように、背景やキャラクターを統一しているケースがあるという。「『あの作者のゲームはシュールで笑える』『必ず感動する』など、ユーザーとの暗黙の了解ができ、ブランドが確立されると、固定ファンが増える」。

●「孤独な開発者になってはいけない」

 効果を上げるもう1つの方法は「コラボレーション」だ。「企画を練ったり、絵を描いたり、プログラムを組んだり、宣伝したりを全て1人で高いクオリティーでやろうとしても、そう簡単ではない」(和尚さん)。ゲーム開発者が集まるイベント「BitSummit」「Tokyo Indie Fest」「デジゲー博」などに参加して、仲間を探すという。

 ただ「『人に頼ること』だと勘違いしてはいけない」とも。「才能の等価交換」の意識は持っておくべきという。「個人開発者ほど、孤独な開発者になってはいけない。1人で作っているからこそ、続けるためには仲間がいたほうがよい」。

 コラボは開発者同士だけではない。キャラクターなど人気IP(知的財産)とコラボすれば、より多くのユーザーにゲームを知ってもらえたり、ヒット作をコラボバージョンに作り変えて横展開したりできるチャンスがある。

 「どうやって許可を取るのかというと、オープンにコラボ相手を募集している企業は意外と多い」。バンダイナムコやブシロードのほか、「宇宙兄弟」「あらいぐまラスカル」など作品単位で募集している場合もある。「遠慮をしている場合ではない。自分が作ったゲームで、そうしたキャラが動いているとテンションが上がるはず」(和尚さん)。

●個人ゲームの世界は「現代のトキワ荘」

 和尚さんは「『ここまで述べたアドバイスを、全部やりましょう』と言っているわけではない」とも話す。「伝えたいのは、さまざまな方法があるということ。自分のスタイルに合うものを無理なく取り入れてほしい」という。

 「ちょっと前まではゲームを作って生計を立てるには、ゲーム会社に入る以外の選択肢はなかった。だが、Unityなどゲームエンジンの登場で、個人でも制作に挑戦しやすい環境が整いつつある。AppStoreなど、個人が作ったゲームを世界に発信できる場が生まれたことも大きい」(和尚さん)

 和尚さんは、そうした環境下で、個人の「ゲーム作家」が続々と誕生している状況を「現代のトキワ荘」と評する。「互いに切磋琢磨しながら、時にライバル、時に仲間として歩めればよい。続く世代の若者のために『ゲーム作家』という生き方を確立することが、私たちの世代に課された使命。そのためにもゲームを作り続けたい」。

最終更新:5/11(木) 7:25

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