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企業のデジタル変革、障壁は「既存ビジネス」

5/11(木) 8:03配信

ITmedia ビジネスオンライン

 他社に先んじて大きな成果を上げたゼネラル・エレクトリック(GE)を代表格として、ビジネスのデジタル化、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」によって新たなビジネスモデルの創造、収益源の確保に力を注ごうとする企業が出てきている。ただし、DXそれ自体に対する議論はまだ始まったばかりだ。

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 そこでITmedia ビジネスオンラインでは、DXに関する有識者や専門家たちの意見をシリーズでお伝えする。今回は、NTTデータ経営研究所で情報戦略コンサルティングユニット長 兼 デジタルビジネスデザインセンター センター長を務める三谷慶一郎氏に聞いた。

●アイデアをすぐにビジネス化できる

――NTTデータ経営研究所ではDXについてどう定義されていますか?

 当社ではデジタルビジネスと表現していますが、よくDXで語られているものとほぼ同義だと考えています。デジタルビジネスとは、「デジタル技術によって現実世界を写し取り、推論や学習を通じて導き出された成果をフィードバックさせることによって、新しい価値を提供するビジネス」と定義しています。

 別の言い方をすると、ITによる単なる業務支援ではなく、サービスそのものを創り出し、マネタイズに直結するものを指します。

――IT活用による業務改善ではなく、新しいビジネス価値を作ってマネタイズするのがポイントだということですね。

 はい、「ビジネス」と呼んでいるのには理由があって、新しいサービスを作ったり、ビジネスにデジタルを取り込んだりという点が重要なのです。こちらの図をご覧ください(下図参照)。

 これまで多くの企業はITで業務の省力化や自動化、バックエンドの改善を徹底的にやってきました。2006~7年ごろに脚光を浴びたCIO(最高情報責任者)は劇的なBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)によって全体最適化を進めていました。ただし、あくまでもそれはコスト削減にとどまります。

 もちろんコスト削減は重要なのですが、そうではなくて、商売の道具として収益に直結するようなIT投資をどんどんやるべきだという声が生まれ、次第にビジネスの付加価値向上のためにフロントエンドでのIT活用に乗り出す企業が出てきました。

――攻めのITからさらにデジタルビジネスにシフトする流れが生まれた背景は何でしょうか?

 どこからという線引きは難しいですが、こうした流れができている1つの理由は、ITがコモディティ化したことにあるでしょう。かつてはITをビジネスで本格的に使うのは大企業だけでしたが、どんどんプレイヤーのすそ野が広がり、今では個人レベルにまで下りてきました。すると何が起きるのか。半分素人のような会社が作ったサービスが競争優位を持って、大きくビジネスが飛躍する状況があちこちで生まれています。アイデアをすぐにビジネス化できるのがデジタルの特徴なのです。

 なおかつ、デジタルビジネスを立ち上げる上で資金はそれほど必要ありません。以前は起業するには銀行からお金を借りるのが一般的でしたが、今やクラウドファンディングで500万~1000万円ほど集めて会社を作ることは可能です。人材リソースもクラウドソーシングで調達できます。これまで大企業でなければできなかったことが、誰にでもできるように変わったことがデジタルビジネスの本質と言えるでしょう。

●最大の課題は「既存ビジネス」

――デジタルビジネスが叫ばれ始めている中、日本企業の反応はいかがでしょうか?

 デジタルビジネスに取り組みたいと宣言している企業は増えてきていますが、実際にビジネスをデジタル化して大きな成果を上げているというところまではいっていません。

 ただ、これだけビジネス環境が変化していて、マーケットが右肩下がりになる中で、今まで通りのことだけやっていては駄目だと感じている経営者は少なくありません。

――成果はまだまだ?

 それは世界的に見ても同じで、デジタルビジネスの成功事例と言えば、数年前から米GEの話ばかりです(笑)。ですから、日本企業だけが遅れているわけではないのです。

――まだ成功事例が少ないというのは、難しさがあるからですか?

 それは間違いないです。デジタルビジネスにおいて最も大きな課題は、既存のビジネスが存在するということです。ベンチャー企業であればゼロから新しいビジネスを作るのでそれほど関係ないでしょうが、巨大な企業だったり、従前のビジネスモデルを堅調に維持しながら、アドオンで新たなビジネスを作っていくのは難しいことです。そこに多くの企業が苦しんでいます。

 これこそ経営判断に委ねられます。例えば、デジタルビジネスの別会社を作るなど、既存のものと切り離して考えないと厳しいかもしれません。

●一発勝負はやめるべき

――さまざまな課題があるにせよ、今後の企業成長を考える上でデジタルビジネスは無視できないということですが、経営者やビジネス部門は何に取り組むべきでしょうか?

 今から10年ほど前までは、CEOはCIOやIT部門の話を聞いてくれないといった声がよくありました。ただデジタルビジネスはまさにビジネスそのものなので、経営者は自分ごととして考えるべきでしょう。実際、IT部門に丸投げと思っている経営者は少なくて、自分たちあるいはビジネス部門が中心で動こうとしています。

 推進する中で課題になるのが、先ほどお話した既存のビジネスで、それは社内組織にも関係してきます。特に大企業であれば、ビジネスを最適化するために組織がカチッとでき上がっているわけですから、それを壊して新しいビジネスを作るのは難しいでしょう。

 もう1つは外部の企業などとタッグを組むことです。これは日本企業が弱い部分です。昨今、「オープンイノベーション」がしきりに叫ばれていますが、これはまさに現状はほとんどできていないことの裏返しです。

 足りないものは自分たちで作ってしまおう、内製化してしまおうというのが日本企業の強さだったりするわけですが、新しいビジネスやサービスを作るのに、自社が持っている現状のリソースだけですべてを何とかしようとするのは困難な気がします。さまざまな企業と組みながら、サービスに厚みを持たせていくのが今後は重要になると見ています。

 そうした中で、トヨタ自動車は「TOYOTA NEXT」というプロジェクトを立ち上げ、さまざまな企業とのオープンイノベーションを推し進めています。トヨタほどの巨大企業が自社内ではやらないと割り切った意味は大きいです。

 あとは人事評価の再考も必要です。既存ビジネスを担当する社員と、新規事業を立ち上げる社員をどう評価するのかということです。少なくとも新しいビジネスを考えている社員を従前の方法で評価するのは難しいでしょう。

 スモールスタートも重要です。特に日本の企業は、新規事業の成果は“大ホームラン”を前提にしています。その代わりに何年もかけて準備するけれども、結局は失敗するというケースが多いです。そういったマネジメントするべきではなくて、さいころを山ほど振るような進め方が正解だと思います。なぜかと言うと、既に申し上げたようにデジタルビジネスはあまりお金がかからないからです。仮に1億円投資するのであれば、一発勝負ではなく、500万円かけて20個の新規事業を作るほうがいいです。

――デジタルビジネスに関して、業種によって向き、不向きがあるのでは? また、すべての会社がデジタルビジネスに取り組む必要はあるのでしょうか?

 意見が分かれるところだと思いますが、私はすべての産業が対象だと考えています。濃淡はあるものの、どんな業種であっても何かしらの可能性があると思います。

 中でもサービス業はデジタルビジネスとの相性が良く、顧客との接点を持つサービス業から広がっていくだろうと思っています。人間の仕事がすべてロボットに置き換わることはないにせよ、接客をロボットやAI(人工知能)がサポートすることは十分考えられます。既にコールセンターでのAI活用は現実のものとなっています。

 そのほか医療や教育、政府の領域でもデジタルとの相性は良いと思うのですが、日本は規制が非常に強く、一筋縄にはいかないでしょう。

――規制がボトルネックに?

 例えば、3Dプリンタを使えば個人でもさまざまなものが作れます。クリエイティビティがどんどん生まれるチャンスだと思うのですが、その作ったものの安全面や衛生面で何かトラブルが起きたときの責任は、現在の法律上はその個人にあるのです。すると普通なら恐くて作れないですよね。

 ただし、一昔前に比べると規制緩和は早くなっています。FinTech(フィンテック:金融とITを組み合わせた造語)推進に向けた銀行法の改正など、議論が起きてから法改正までの期間が短くなっています。安倍政権は今、IoT(モノのインターネット)やAI、ロボットなどを活用したデジタルビジネス推しで、ここで数十兆円稼ぐと言っています。この盛り上がりは期待したいところです。

(伏見学)