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見直し議論進む「大震法」 「警戒宣言」軸に構成 ~現行法ポイント整理~

@S[アットエス] by 静岡新聞SBS 5/11(木) 11:30配信

 駿河湾を震源とする東海地震説(駿河湾地震説)を受けて、1978年に成立した大規模地震対策特別措置法(大震法)。大地震発生前の防災対応という世界でも類のない仕組みを規定している。一方で、対象地域の範囲や警戒宣言発令時に実行される具体的な応急対策の中身など、運用面での規定が法律そのものに盛り込まれていると混同されることも多い。国の有識者作業部会で初めての抜本的な見直しを視野に入れた議論が進む中、現行の大震法の中身を改めて整理する。



 全40条から成る大震法のポイントは、地震予知情報を受けて首相が発令する警戒宣言。法律の構成はこれを定めた第9条を軸に、関係機関による平時の各種計画作成を中心とした前段部分と、警戒宣言発令時の応急対策の実行などを盛り込んだ後段部分に大きく分けることができる。

 第1条の目的、第2条の用語の定義に続き、第3条では首相が中央防災会議への諮問や関係都道府県知事の意見聴取を経て、地震防災対策強化地域(強化地域)を指定すると明記。第4条で強化地域に係る大規模地震の予知のため、国は「観測および測量実施の強化を図らなければならない」と定めている。

 第5条から第8条までは、警戒宣言が発令された場合の応急対策に関する各種計画づくりを国や強化地域内の都道府県、市町村、民間事業者に義務付ける条項。病院や百貨店、鉄道など対象となる民間事業者の種類は第7条に記されている。

 警戒宣言の第9条では、気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合、首相が閣議にかけて発令すると明文化する。この仕組みは、原子力災害対策特別措置法などのモデルにもなったとされている。

 警戒宣言はいわば、実際の応急対策が動きだす「スイッチ」。発令されると国や都道府県、市町村は地震災害警戒本部を設置し、各種計画を一斉に実行に移すことが定められている(第10~21条)。

 一方、大震法は強化地域内の一般市民にも警戒宣言発令時の必要な行動を課している。第22条の「住民等の責務」がそれに当たり、火気使用や自動車の運行、危険作業の自主制限のほか、市町村長や警察による応急対策への協力を求めている。

 第23条以降は警戒宣言発令時の市町村長の権限や交通の禁止・制限、住民の避難行動における警察官の指示事項など。第29条は平時からの施設整備などに対する国の補助を規定し、地震財特法の根拠にもなった。強化地域内での防災訓練の実施(第32条)などをうたっているのも特徴だ。



 <強化地域指定>8都県157市町村が対象

 地震防災対策強化地域(強化地域)の指定は第3条に基づき行われる。現状はいずれも想定東海地震の震源域で、本県など8都県157市町村に限られている。条文では具体的な地域を限定していないが、この指定によって大震法が事実上、想定東海地震を対象にした法律となっている。

 想定東海地震だけが対象になってきたのは、この地震が国内で唯一、予知できる可能性があると考えられてきたため。ただ、観測網は充実したが、研究が進めば進むほど確度の高い地震予知は困難との認識が広がった。

 国の作業部会の議論では、強化地域を拡大するかどうかが論点の一つ。現行の大震法の仕組みを維持したまま強化地域を広げるだけならば、法改正は必要ない。新たに強化地域に加わるエリアでは、常時観測・測量の強化や各種計画の作成など防災態勢の抜本的な再構築が必要になる。

 検討されているのが、南海トラフ沿いへの拡大。仮に強化地域に南海トラフ地震に関する特別措置法(南海トラフ法)が定める推進地域を含めると、対象は現状の約4・5倍の29都府県707市町村に膨れ上がる。



 <各種計画作成>社会や市民生活を制約

 大震法は強化地域の被害軽減を図るため、国と地方自治体、特定の民間事業者を対象に各種計画の作成と実施を規定している。国の中央防災会議が作成する基本計画は、警戒宣言発令時の国の基本方針などが柱。地方自治体は強化計画、民間事業者は応急計画をそれぞれ定める決まりだ。

 大震法に基づく現行の仕組みは警戒宣言発令時、社会に大きな負担を強いる。鉄道の運行停止や道路に関する強化地域への流入制限、金融機関の営業停止、病院の外来診療中止など。これらの具体的な制約はいずれも大震法の条文にはなく、各種計画に基づいている。

 大震法の制定から約40年の間に社会の環境が変わり、規制の在り方が実情にそぐわなくなっているとの指摘は根強い。例えば、鉄道は耐震性や地震波を検知して停止する技術が向上した。一律に止めるのではなく低速運行を続けるべきとの意見がある。

 規制の緩和は、大震法そのものではなく、各種計画の修正で対応できる。地震予知の前提が崩れ、不確実な予測しかできないとされる中、現行の規制をどうするかは大きなテーマになっている。



 <警戒宣言発令>予知情報ほぼ同時発表

 気象庁長官からの地震予知情報に基づき、首相が警戒宣言を発令する第9条の規定は、大震法の根幹をなす。気象庁は前兆的な現象の進展具合に伴って、国民向けにも「東海地震に関連する情報」を発表するが、大震法にはこうした流れについての記載はない。

 東海地震に関連する情報は、危険度に応じて大きく3段階に分かれる。想定震源域一帯に設置されたひずみ計が異常を検知した場合に、専門家6人で構成する地震防災対策強化地域判定会が評価し、赤、黄、青の3色で危険度を表す指標「カラーレベル」と併せて気象庁が発表する。

 3段階のうち、最も切迫性が高いのが予知情報で、カラーレベルは赤。3カ所以上のひずみ計に異常があり、東海地震が発生する恐れが認められたケースに当たる。警戒宣言とほぼ同時に発表され、国民に根拠などを説明する。

 ただ、気象業務法は第11条で、気象や地象(地震など)に関する情報が公衆のためになる場合は直ちに発表し、周知に努めると定めている。このため、前兆的な現象が見つかった際は大震法がなくても一定の防災対応を促せるのではないかという声もある。



 ■直前予知から不確実な予測へ 成立40年、環境大きく変化

 大震法は、東海地震説によって大規模地震災害への危機感が高まった本県の強い要望を受け、成立した。地震予知の実用化への期待も背景にあった。国は作業部会に対し、当時の議事録を引用しながら「地震予知がなされることになったので、その際の対応をあらかじめ定めておこうとすることが、大震法が制定された大きな目的の一つ」と説明した。

 一方で、近年は東海地震単独よりも、南海トラフ沿いの広範囲での大規模地震発生が懸念されている。警戒宣言の前提となる直前予知も、今の地震学の実力では不可能というのが共通認識となっている。約40年を経て国が抜本的な見直しにかじを切ったのは、大震法を取り巻く環境が大きく変化したためだ。

 作業部会では現在、不確実な発生予測に基づく防災対応の在り方の検討が進む。大震法では警戒宣言という形で首相が担うことになっている情報発出の主体のほか、地震の「切迫度」と「地震や津波に対する弱さ(脆弱=ぜいじゃく=性)」という二つの尺度を組み合わせた防災対応のレベル化などが論点。

 大震法では警戒宣言を解除する場合の基準などが明確化されていないことを踏まえ、住民避難や事業停止がどの程度の期間ならば許容できるのか―といった点も議論になっている。

静岡新聞社

最終更新:5/11(木) 13:12

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