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【アグネスのなぜいま(14)】ISにリクルートされる男の子、早婚させられる女の子 シリア難民の暮らし

5/11(木) 12:00配信

ニュースソクラ

楽しい幼年時代を経験できないシリア難民の子供たち

 シリアの内戦が7年目に突入しました。

 政府軍、反政府軍、IS(イスラム国)、クルド人勢力の四つどもえの戦いに、ロシア、アメリカの思惑がからみ戦争収束の兆しは未だに見えません。この間、2100万人の総人口の半数以上、1130万人もの人々が国内外に避難しましたが、そのうちの半数は子供です。

 シリアの子供達は、一体どのような状況の中で暮しているのか?

 私はユニセフアジア親善大使として、国境を接する周辺国、ヨルダン、レバノン、トルコのシリア難民を訪ねました。

 ヨルダンには130万人の難民がいます。首都アンマンからおよそ45分、砂漠に見渡す限りの仮設住宅が並ぶザータリキャンプには、約8万人が住んでいました。ここで5年以上生活している人も多く、キャンプで生まれた子供もたくさんいます。

 「アレッポから空爆を逃れるために逃げてきました」「包囲された街から出るために、大金をエージェントに支払いました」

 そうして、命からがら体ひとつで逃げてきた人々でも、安全や安心が保障されているわけではありません。難民は原則働くことが禁止されているので、大人が働いているところを捕まえられれば、強制送還されてしまいます。

 しかし、子供ならば、大目に見てくれるので、結果として「児童労働」が大きな問題になっています。学校の先生は「男子生徒の半分以上は働いていると思う」と言います。

 一方、女子の場合は、口減らしや結納金目当てで、早婚をさせられてしまいます。「早い子は12、3歳、平均は15歳。児童婚の率は、もともと20%弱だったのが、今は40%にまでなりました。」とユニセフが支援する子供センターの責任者。

 その結果、女子は学校へも通えなくなり、過酷な家事労働をさせられたり、夫や姑からDVを受けたりするケースが後を絶たないと言います。私が出会った17歳の少女は、14歳で結婚させられ女児を産みましたが、虐待されて離婚。「娘は絶対に結婚させない」と言っていました。

 レバノンでは状況がさらに複雑です。公式には「難民は受け入れない」と宣言しているレバノンには、450万人の人口のところに150万人のシリア難民が暮しています。国連はキャンプを作る事が出来ないため、避難民は自力で部屋を借りたり、仮住まいを立てるしかありません。

 「避難民が住む非公式集落では、ISも含めて、雑数の勢力が若い男子を戦闘員としてリクルートしています。学校に通わせることが子供達を戦闘員にしない唯一の道なのです」とユニセフの職員。必死の努力によって、現在、学童年齢の50%が就学していると言います。非公式集落に入ると、異様な緊張感を感じました。

 レバノンには18の宗派があると言われていますが、異なる宗派の地域で暮している難民は、特に辛い思いをしていると言います。「ここには人間としての尊厳がまったくない。子供達への差別もひどい」と話してくれた父親の、絶望的な顔が忘れられません。

 トルコには300万人の難民が暮していて、約20%の難民がキャンプに、それ以外は、街の中で生活しています。「マイ・ハピネス・プレース」というセンターが全国に作られ、難民が集まり援助を受ける場所になっています。

 トルコでは支援が充実していて、登録されている難民は、教育も医療もただで受けられます。ユニセフは貧困の難民には、一家族に月100ドルの支援をしていますが、それでも生活は困窮をきわめています。

 「実家が空爆で倒壊して、父が亡くなり、夫が負傷しました。爆弾が飛び交う中、なんとかアレッポを脱出した」と話す母親は、6人の子供を抱えて5ヶ月前にトルコへ逃げてきました。その子供たちはやせ細り、13歳の長男はめまいでよく倒れると言います。10歳の三男は、日本の子供の6歳くらいの身長しかありませんでした。

 「奇跡的に逃げてきたが、何もない…… 夫は働けないし、長男は働きに出たが、よく気を失うので、首になってしまった」と母親は途方に暮れていました。

 同センターにやってきた、ある姉妹は、子供を7人抱えていました。「私の夫は獄中で死にました。妹の夫は子供たちの目の前で家の前で地雷を踏み、真っ二つになって、亡くなった。今は10歳と7歳の子が朝から晩まで働いて、私たちを支えてくれています」と泣き止まない母親。

 「戦争さえなければ、緑が多いシリアに帰りたい」と涙する大人たち。必死で我慢をしている子供達。

 戦争は子供たちをものすごく早く大人にしてしまい、無邪気で楽しい子供時代を奪ってしまいます。子供の大事な一世代を失わないように、「ノン・ロストジェネレーション」を合言葉に、ユニセフと受け入れ国は教育に最大の力をそそいでいます。「せめて平和になった時、子供たちには国を立て直す若者に育なっていてほしい」と願っているのです。

 今後、難民の受け入れは長期化するという覚悟が必要です。私が訪ねた3ヶ国とも、その準備を始めています。レバノンでは難民の大人が、特定の職種で働く事を許すようになりました。ヨルダンでは難民の子供たちの91%を学校に通わせています。トルコでは難民キャンプのテントを仮設住宅に建てかえています。

 「シリアの平和を願い、子供たちの今を支える。出来る事からやるしかない」と現地の人達は言います。自国の財政が圧迫されているにもかかわらず、真心で難民を支援している周辺国の寛大な心に敬意を払います。アラブ文化の「おもてなし」から学ぶものは多いと痛感しました。

 子供たちに会う度に、私は日本語の「愛している」という言葉を教えました。その度に子供たちは私をハグして、「愛している」と言ってくれました。子供たちが故郷に帰る日はいつになるのか? そう思うと、また涙がこみ上げてきます。

■アグネス・ M ・チャン:アグネスのなぜいま(教育学博士)
1955年香港生まれ。本名金子陳美齢。72年日本で歌手デビューしトップアイドルに。上智大学を経て、トロント大学(社会児童心理学)を卒業。94年米スタンフォード大学教育学博士号取得。98年日本ユニセフ協会大使。2016年ユニセフ・アジア親善大使も兼務。

最終更新:5/11(木) 12:00
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